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『歴史のダイヤグラム』を読む
本日の読書感想文は、原武史『歴史のダイヤグラム 鉄道に見る日本近現代史』(朝日新書2021)です。
書店で見つけて、ジャケ買い
息子が電車好きなせいか、私も鉄道が年々好きになっています。時間の制約を受けず、目指すべき目的の場所を決めずに、ひとりで在来線に揺られる電車旅はかなり楽しいものがあります。会社を辞める数年前から、青春18きっぷを毎シーズン買って、ささやかな冒険旅を楽しんできました。
本書は、書店で見つけて、ろくに中身を確認せずに衝動買いしました。著書の原武史氏のこともよく存じなかったし、朝日新聞の土曜日版『be』に連載されているコラムの書籍版だということも知りませんでした。買ってから、朝日新書の一冊であることを知ったくらいです。写真の特別なカバーがなかなか渋いです。吟味して買った訳ではないものの、読み易く、どのエピソードも興味深くて、大成功でした。こういう本との偶然の出会いが、読書好きの醍醐味です。
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小松左京の慧眼
1テーマ、2~3頁に収まる分量で完結するコラムになっているので、どこからでも読めます。
私が特に印象に残ったのは、「小松左京が予言した二〇二〇年の東京」(P160-162)です。原氏は、小松左京(1931/1/28-2011/7/26)の未来SF小説『復活の日』(1964)の通勤電車内の描写を紹介しています。『復活の日』は、猛毒の新型ウイルスMM-88を扱った内容で、まるで、現代のコロナ禍を予測したかのような小松左京の黙示録的作品です。
電車は「誤配」の可能性に満ちた乗り物
あとがきの記述にも共感します。
鉄道こそは「誤配」の可能性に満ちた乗り物である。
と書き、全く予期せぬ人たちと同じ電車に乗り合わせることで予想外の出来事ー「誤配」が起こることによって生じる化学反応を肯定しています。
また、日本では、鉄道の価値を「目的地に安全かつ一刻も早く送り届ける」という経済的価値でだけ評価する傾向がある点に苦言を呈しています。
あえて言おう。鉄道は経済的な価値に還元されない文学や芸術と同様、人生にとって大切な文化ではないかと。
著者の主張に全面的に同意します。
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