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【読書】今川氏の位置づけ~『どうした、家康』(上田秀人ほか)~

大河ドラマ「どうする家康」に便乗したのが、バレバレの題名の本です。

↑kindle版


とはいえ、13人の作家に家康がらみの短編を書かせ、それで家康の生涯を追うというコンセプトは面白いです。短編だからこそ、手軽にどんどん読めますし。巻頭に「徳川家康関連地図」、巻末に「徳川家康略年譜」が付いているのも親切で、各短編の理解を助けます。また、カバー装画と扉画を手掛けた大高郁子さんの画がとても可愛く、かつこれまた各短編の理解を助けます。


どの作品も面白かったですが、難点をあげるとすれば、13人中2人しか女性作家がいないのは、いかがなものかと……。良い歴史小説・時代小説を書く女性作家はたくさんいるのに。半々にすべきとまでは言いませんが、2人は少なすぎます。


以下、印象に残った部分を、備忘録代わりに書いておきます。


今川家のことも知っている。将軍家、足利に連なる名門であり、足利家の嫡統が途絶えた時に、将軍を出すこともできる家柄だという。

「囚われ童とうつけ者」(矢野隆)p.14

今川家がそういう位置づけであることは、知りませんでした。別の作品では、もう少し詳しく書かれています。

今川家は吉良家の分家で、吉良家は足利家に近い親族であった。
「足利に人なくば、吉良から将軍が出る。吉良に人がなければ今川から出す」
今川はそう言われたくらいの名家なのだ。

「親なりし」(上田秀人)p.166


大河を観ていて、今川方の人質になるはずの竹千代が織田方に奪われた後、何で結局今川方に行ったのかが不明だったのですが、巻末の年表に8歳の時に「織田・今川との人質交換で、駿府に赴く」とあり、ようやく得心がいきました。


「なんですか、岡崎の町は。城下町は小さく、住んでいるのは頭に血が昇ったサムライばかり。サムライだけで国が成り立ちますか。対して本證寺の寺内町は、鍛冶屋や桶屋などの工人が住み、米や野菜の産物も集積され、川舟の湊もあって商人も多い。寺という心の拠り所があって、政務も法令により行われる。国としてちゃんとしているではありませんか」

「三河より起こる」(吉森大祐)p.92

三河一向一揆の最中の築山殿(瀬名)のセリフですが、今回の大河同様、この作品の瀬名は考える頭・見る目がある設定になっています。まぁ最終的には、とほほな理由で、ある判断を行うのですが……。でも今川家が上記の通り、私が思っていた以上に家柄が良く、かつ瀬名がその血を受け継いでいる(母が今川義元の妹らしい)ことを考えると、「とほほ」であって「とほほ」ではないのかな。ネタバレを避けるため、こんな書き方ですみません。

あと、それこそ大河でも描かれましたが、寺内町、すごいですよね。一種の自治都市と言えます。家康も、上手にその力を使いこなせば良かったのに。


叙爵――正六位上から従五位下に昇進することを指す。律令制下では六位と五位の差は大きく、叙爵は「下級官吏を脱する」ことを意味した。

「徳川改姓始末記」(井原忠政)p.101

なるほど。大河では松平から徳川に姓が変わった経緯も描かれなかったので、この作品でよく分かりました。まぁもちろん創作がだいぶ混ざっているのでしょうけど、家康が一時的に「藤原」だったとは知りませんでした。


神(天津神)や祇(国津神)に仕える神祇官である。

「徳川改姓始末記」(井原忠政)p.102

神と祇の違いが分かりました。


戦国期の永楽銭は、一文が現代の百円に相当する。これが基本だ。永楽銭を千枚並べ、紐で束ねると一貫文で、現代の十万円に相当。

「徳川改姓始末記」(井原忠政)p.103

分かりやすいです。


ちなみにこの『どうした、家康』を読もうと思ったきっかけが、この作品です。最近私がはまっている「三河雑兵心得」シリーズの作者の井原忠政の短編が、収録されていると知ったもので。


家康が天下を統べた時には、茶屋四郎次郎は既に亡かった。家康は伊賀越えの際の約束を違えることなく、茶屋の孫である三代目茶屋四郎次郎に朱印船貿易の特権を与えた。

「賭けの行方 神君伊賀越え」(永井紗耶子)p.216

茶屋四郎次郎と朱印船貿易がつながるとは。ちなみに巻末の年表を見て、朱印船貿易って1601年、つまり江戸幕府成立前に始まっていると知りました。


行徳は関東一の塩の生産地であり、それに従事する者は二種類にわかれる。
ひとつは勘次郎のような塩垂れ百姓である。土地を所有し、年貢の塩納の義務を持つ。いうなれば塩田経営者である。もうひとつはいわゆる水呑み百姓で、土地を持たず、命じられるまま機械のごとく働くかわり年貢の義務はない。まあ被雇用者といったところか。

「塩を納めよ」(門井慶喜)p.243


見出し画像は、浜松市章の付いたマンホール蓋です。



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margrete@高校世界史教員
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