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【読書】《将来の現実》をまず設定する~『生きのびるための事務』(坂口恭平原作、道草晴子漫画)~

感想を他の方々のSNSで何度も見かけた本書、ぜひ読みたいと思っていました。

↑kindle版


冒頭のソローの言葉の引用に、まずはびっくり。

もしひとが、みずからの夢の方向に自信をもって進み、頭に思い描いたとおりの人生を生きようとつとめるならば、ふだんは予想もしなかったほどの成功をおさめることができる

H.D.ソロー著、飯田実訳、『森の生活  ウォールデン』(岩波文庫)より

『森の生活』は読んだことがあるっていうか、持っている(岩波文庫版ではありませんが)のに、この言葉の記憶がありません。


そもそも『森の生活』に、こんなコエーリョの『アルケミスト』みたいな言葉、書いてあったっけ? 機会を見つけて、読み返そうと思います。

↑kindle版


坂口さんと、その分身と思われる「ジム」のやり取りが、道草晴子さんの、良い意味で素人くさい漫画で描かれるので、気軽に読めます。でも内容は結構深いです。


《事務》こそが創造的な仕事を支える原点だということです。

p.6

どんな仕事にも事務員の仕事は必要なんです。

p.16

かといって、余計な事務はいりません。

家計簿なんて必要ないんです。細かくやってたら事務の時間ばかり取られて仕事にならないでしょう。

p.24


とにかく無駄な努力をするなと言うんです。好きなことだったらほっといてもどんどん上手くなるから、それだけやれと。

p.40


《将来の夢》の前に、《将来の現実》があるんだから。
(中略)
《将来の夢》だとふわふわするけど、《将来の現実》はこのようになりますってことだったら、ノートに描いて簡単に示せるね。

p.65

《将来の現実》、つまり将来の自分の理想的な24時間の過ごし方を書いてみるというのは、面白いです。

《将来の現実》が見えてない以上、その仕事を上手く発展させていくなんてことは、できないでしょう。間違いの始まりですね。

p.67

《将来の現実》を具体化していくと、徐々に成長していくことも計算に入れられるようになって、より先の現実が見えるようになるね。
(中略)
《事務》とは抽象的なイメージを数字や文字に置き換えて、《具体的な値や計画》として見える形にする技術です。

p.77


《好き》は自信を凌駕する。《自信》はなくなると作業が止まりますが、《好き》は止まりません。
つまり《事務》の世界で確認することはただ一つ。
あなたが継続していきたいことが、本当に《好き》かどうかです。
《好き》で作業を継続している者は、《失敗》なんか問う必要もありません。
《失敗》は他者が下す評価です。
他者は無責任に、安直に《失敗》を口にします。
そんな評価は無視するに限ります。

p.80

おお。


上手くいったことがある人が、こうすると上手くいくから、こうしたらいいよって伝える。
これが《教える》ってことです。

p.81

これ、本当にそうです。生徒はしばしば、「こうしたらいいよ」って言っても、その通りにはしませんが。


常に10年後の《将来の現実》を前提に、そこと陸続きの現実を作っていくんです。簡単です。目的地が見えてますから。知らない土地へ行くのと知ってる場所に帰るの、どちらが楽ですか。

p.89

なるほど。


《将来の現実》が見えてないから当然のように迷っているわけです。簡単なことです。これを教えないで、失敗ばかり伝えるのはむしろ罪です。そのせいで、どれだけの若い人が自殺でなくなっているか…
私がこの《事務》についての本を『生きのびるための事務』と名付けたのは、そういった若い人が迷うことがないように、地図を作りたいと思ったからです。

p.90

切実な思いから書かれた本であり、付けられた題名だったわけです。


印象派も共同出資会社を立ち上げてますよ。(中略)『画家、版画家、彫刻家等、芸術家の共同出資会社』という名前の会社です。創立メンバーはモネ、ルノワール、シスレー、ドガ、ピサロなど。(中略)初めての展覧会の時は印象派という名前もまだなかったので、『画家、彫刻家等、版画家などによる共同出資会社の第1回展』と名付けられていたくらいです。

p.157

これ、ちょっと面白いです。


《事務》とは「行動を言葉に置き換えること」とも言えます。

p.177


(オフィスにしようと決めた)その机の周りだけでいいから、バカみたいに、隅々まで綺麗に掃除してください。
引き出しの中も?
はい。全部取り出して、どれが必要な道具かを選んで、不要なものは全部捨ててください。
(中略)
会社で使う道具の《量》を確認するという《事務》の基本です。

p.179

ひょえー。まさか片付けの話になるとは。やらなきゃとは思い、時々手を付けるのですが、いつも中途で終わっています。やらなきゃね。


少なくとも日本の学校の先生は、自立して生きる道を知りませんよ。(中略)だって彼らは皆、我々が払ったお金で食べているんですから。《事務》の視点で見ると、彼らは先生ではありません。

p.212

うむ、本当にジムは手厳しいです。


自分の道を見つけるには、まず先人の道を見つけないといけません。そうしないと先人と同じ道を歩いているのに、これは自分の道だ、オリジナルだ、なんて調子こいたことを言い出しますからね。そんなやり方は間違っています。あるのは《オリジナルの事務》です。

p.213


事務のことを考える、というのは、つまりは、あなたが小さい頃から本心でやりたいと思っていることを実現するための方法、ですから。どんな人にも必ず実現したいことがあるのです。そのことを忘れずにいたら、必ずジムが楽しいアイデアをたくさん教えてくれますよ。

p.223

あとがきの締めの言葉ですが、励まされます。小さい頃から本心でやりたいと思っていることを実現するため、私もがんばってみようと思います。



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margrete@高校世界史教員
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