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【Λ世界線記8】機密解除人 八千田統威 by八千田統威

 あー、面倒な組織に入っちゃったな。

 今回もたくさん報酬を貰えるとはいえ面倒くさい。

 どうせまた危険な目に遭う。どうせまた大変なミッション。

 まぁ、お金のためだからちゃんとやるんだが。


 
 新楼大学に入学してすぐに、広村財団ってところがやっている奨学金に応募したんだ。

 大学の学費を全額支払っても余りあるほどの奨学金を貰えるらしいし、しかも全額返済不要らしいし。

 金欠人の俺からすると、こんなにおいしい話はなかった。

 というか、このおいしい話に乗らないと俺は確実に学費未納で退学になってしまうから、乗らざるを得なかった。

 ただ、「広村財団」って結構有名で、かつての奥波共和国の建国者「広村孝吉」の名を冠していることからも分かる通り、歴史もあり由緒も正しい団体だ。貧困救済とかボランティアの話題で必ず名が挙がる団体でもある。

 だから大丈夫だと思ったんだ。

 でも、「おいしい話には裏がある」って本当なんだな。

 たしかにおかしい点はいくつかあった。


 
 まず、応募書類に「奨学生となるには、こちらが指定する重大な職務に就く必要がある」って書いてたんだ。

 一瞬「ん?」となったが、どうしてもお金が欲しかったから、まぁいいかと思って選考会に応募した。

 後日、財団からメールが来て「選考会当日は動きやすい服装でお越しください」だと。

 奨学金の選考って運動能力も測られるもんなのか?と一瞬思ったけど、そんなもんなのかって感じで深くは考えなかったんだ。何せ初めてのことだったし。

 そして選考会当日の朝、広村財団に指定された会場に向かった。

 山奥にあるグラウンドだった。

 どうやらいきなり体力テストらしい。

 会場には10人くらいの財団職員と、俺を含めて5人の受験者がいた。

 大学1年生が俺を含めて3人。大学2年生が2人だという。

 選考が始まると、俺ら5人は走って、投げて、登って、撃って、這って‥‥という感じでハードなテストを課された。

 俺以外の4人はだいぶキツそうにしてた。

 これだけでも常軌を逸した奨学生選考なんだが、さらにおかしかったのは、体力テストの合間合間に筆記テストをやらされたことだ。

 筆記テストでは知識、計算能力、推測能力などを総動員した。

 IQテストみたいな問題も多く、全体的に難易度が高かった。

 俺らは一体何をしているのか?奨学金という目的を忘れそうになった。

 奨学金を得るためにこんなことをする必要があるのか?そう思いながらも、お金が欲しかったので、走ったり這ったりしてた。


 
 朝8時に始まった体力テストは12時まで続き、昼休憩のときにようやく一息ついてゆっくりと他の受験者と話すことができた。

 話してみると、どうやらみんな、俺と同じようにお金を必要としてるらしかった。

 あと、「この選考会なんか変じゃね?」という話にもなった。

 通常の奨学生選考じゃないことはもう明らかだった。

 でも、受験生の俺らはもはやこの状況を楽しんでいる節もあった。

 この時点で、奨学生選考とは別の何らかの選考が行われていて、その「何らかの選考」とはおそらく、応募書類に書いてあった「重大な職務」に関係するものだろう。

 ここまでやったからには、その「重大な職務」とやらの正体が気になってくる。

 せっかくならこの選考に合格して、「重大な職務」について知りたいと思っていた。

 他の4人もそのようなことを思っていたらしく、俺らは「じゃあ午後も頑張るか!」という感じで一致団結した。

 
 
 午後はグラウンド脇の建物に移動して個別の面接試験があった。

 俺は3人目に呼ばれた。

 「失礼しまーす」と部屋に入って椅子に座ると、面接官が開口一番、「合格です」と言った。

 「そんなすぐに合否出るもんなんすね」と言うと、面接官は「こんな怪しい奨学金に応募してくる時点で合格しているようなものですよ」と言った。

 続けて面接官はこう言った。

 「応募書類に『奨学生となるには、こちらが指定する重大な職務に就く必要がある』と書いてありましたよね。こんな文言を読んでもなお応募してくる人はかなり稀ですよ。さらに、心変わりしてバックレることなく選考会場に来る人も稀ですし、午前中のキツい体力テストの途中で帰らない人も稀ですし、昼休憩のときに帰らない人も稀です。つまり、こうして午後の面接に参加している時点であなたは選ばれた人材なんですよ。そして、我々が求めているのはまさにあなたのようなクレイジーな人材なんですよ」。

 俺はここで質問した。「合格ってことは、奨学金は貰えるんすよね?」

 面接官は答えた。

 「勿論です。こちらが指定する重大な職務に就いて頂けるのなら、応募書類に書いてあった通りの額を受給できます」。

 ここで俺はついにあの質問をしてやった。

 「で、その『重大な職務』というのは何なんすか?」

 面接官はあっさりと答えた。

 「機密解除人という職務です」。

 ‥‥機密解除人?

 そのまま「機密を解除する人」って意味だろうけど、なんだそれ?

 そんな仕事があるのか。初めて聞いた。

 面接官は続けた。

 「我々広村財団は貧困救済活動やボランティアに取り組んでいるだけでなく、国家や国際機関や企業などが秘匿している一般市民にとって不都合な機密情報を取得して公表する『機密解除』という活動にも取り組んでいます。無論、機密解除は秘密裏の活動です」。

 「へー。結構やばいことやってるんすね」と俺が言うと、「ははは。結構やばいことやってるんですよ。ただ、勿論、正当な理由があってのことです」と言っていた。

 

 その後の面接官の話をまとめると、

 広村財団は、1876年に亡くなった広村孝吉の遺言に則して設立された組織である。

 生前の広村孝吉は自らの私兵を日本各地・世界各地に派遣して諜報活動をやらせてたらしいが、孝吉は各地から知らされる情報の多くが全くもって民に知らされていないこと、そのような秘匿された情報のネットワークによって独裁的な権力が維持・運営されていることを深く憂慮した。

 孝吉はそのような不健全な世界を排して、民のための世界を作るための活動を行うことを模索していたが、新楼戦争後の処刑によって志半ばで亡くなった。

 しかし、遺書に記されていた孝吉の構想をもとに彼の仲間たちが「広村財団」を設立し、彼の意志や活動を継いだ。

 孝吉の私兵は「機密解除隊」というかたちで広村財団の特務機関となり、機密解除隊の隊員(「機密解除人」と呼ばれる)たちはこれまで日本各地・世界各地で数々の任務をこなしてきたという。

 という感じだ。

 

 こうして俺は広村財団の機密解除隊に入隊し、大学生活の傍ら機密解除人として活動することになった。

 機密解除人としての活動は日本連邦だけに留まらない。

 国内国外を問わず、民にとって不都合な機密情報がある場所になら世界中どこにでも赴く。

 正直なところ、世界を股にかける機密解除人の仕事は面白くはある。

 でも、いつも危険な事態に巻き込まれるから、かなり面倒くさくもある。

 まぁ、奨学金だけでなく、ミッションごとに多額の報酬があるし、成功ボーナスだってある。そこは良い所だ。金額はもっと弾んでくれてもいいと思うが。

 

 

 

 

 

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