『本心』感想
久しぶりにハードカバーの小説を読みました。
普段は寝る前に寝転がって読むか、バックに入れておいて仕事の合間に読むので、もっぱら小さい文庫サイズ。
ハードカバーの本を、どんなお話なんだろうとわくわくしながら、ぐっと押し開ける。
『本心』著者:平野啓一郎
物語の舞台は未来2040年。主人公の男性が亡くなったお母さんのVF(ヴァーチャル・フィギュア)を作るところから始まります。
亡くなったお母さんの写真や動画、メールや遺伝子情報など生きていた時のデータをAIで解析して作られたVF。
本当に 沢山のことを考えさせられる内容で、ここに今、感想を書きたくても、どこをピックアップすれば良いのか悩むくらいに。
小説を読みながら・・・。
もう会うことのできない過去の人に思いを馳せる。
かと思えば、未来に向かって止まることなく刻一刻と繋がっていく『今』に圧倒される。
行きつ戻りつの『時間』を体験。
小説を読みながら・・・。
「見える」「聞こえる」今の感覚を想像の中で身体いっぱい研ぎ澄ます。
かと思えば、宇宙にまで広がっていく世界に、ちっぽけな「わたし」が飲み込まれていく。
小さくなったり大きくなったり『感覚』を体験。
小説を読みながら・・・。
「もう十分だ」と生きること、「もう十分だ」と終えること。
頭で考えるのが本心か?身体で感じることが本心か?
右に左に揺さぶられる『こころ』を体験。
私は普段、話を聴くお仕事をしています。
自分の「本心(想い)」を知りたくて来談される人にも出会います。
私達カウンセラーは、まだ言葉にならないそれぞれの隠れた想いを、言葉に紡いでいくお手伝いをしています。
「僕たちが、何でもない日々の生活に耐えられるのは、それを語って聞かせる相手がいるから」
「もし言葉にされることがなければ、この世界は、一瞬毎に失われるに任せて、あまりにも儚い」
この文章を読み、改めてカウンセラーのお仕事は、人の人生に関わらせてもらっているお仕事なんだ!と襟を正す気持ちになった。
何を話して何を話さないか。
確かに私は大好きだった祖母の人生の全てを知らない。
私の知らない祖母と祖母の本心。
大学で自宅を離れた。引っ越し前日の夜。「おやすみ」と祖母に声をかけた。いつも通りに「おやすみ」の声。だけど、テレビを見たままの横顔。
素っ気ない。淋しいなぁ。まだ子どもだった私にはわからない祖母の本心。
息子くんが巣立っていった。息子くんの顔を見ると泣きそうで。「淋しい」と引き留めたくなる自分の気持ちを押し殺す。
あぁ。祖母は、目を合わせてくれなかったんじゃなくて、目を合わせられなかったのか!
大好きだった祖母が亡くなり、暫くして祖母の夢を見た。
優しい穏やかな表情の祖母「山の麓で待っとるけんのぉ」と言いながら山の方に消えていった。
夢か現実か分からない。今まさに、すぐそこに祖母が居たような感覚で目を覚ました。
山の麓にはお墓がある。
その夢の後、不思議なくらいに死ぬことが怖くなくなった。
「おばあちゃんが待っていてくれるんだ」と思うと、生きることに勇気が沸いてきた。生のしがらみに立ち向かえる勇気。
たとえそれが家族であっても、相手の「本心」なんてわからない。
「最愛の人の他者性」
そこに思いあぐねるのではなく、相手を想う自分の気持ちを大切にしたい。
読み応えのある、素敵な小説『本心』を紹介してくれたお友達に感謝!