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ヒデ(Hide)さんの闘病記です。
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#リハビリ

闘病記(65) 塵も積もれば山となり、埃のような些細な出来事の積み重ねが誇りの獲得につながる。

闘病記(65) 塵も積もれば山となり、埃のような些細な出来事の積み重ねが誇りの獲得につながる。

 リハビリ病院の朝は静かにやってきて、にわかに活気づく。起床の時刻とともに、それぞれの患者の「朝のルーティーン」が始まるからだ。
患者達のルーティーンが頭に入っているらしい看護師、介護福祉士の皆さんは、決して多いとは言えない人数で病棟を担当しているのに、流れる水のようにスムーズにサポートをしていく。
 着替えをしていて、うまく動かない右腕が服の袖に入らないでいると、
「赤松さん、すぐそっちに行って

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闘病記(63)  教粗誕生!?

闘病記(63) 教粗誕生!?

 「涙を流し祈る君に俺は一体何をしてあげられる?そうさ、何もしてあげられない。何も。」
 いやまぁ、ラブソングでも何でもないんだけれども。詳しくは後に譲るとして…。
 リハビリ病院回復期病棟退院まで約1ヵ月を切った頃のことだ。自分を担当してくれる3名の療法士の方々は、さらに(それまでと比べても)「物分かりの良い人たち」になっていた。
 なんというか、自分のことを、「◯び太くんを温かい眼差しで見守る

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闘病記(59)  出血。

闘病記(59) 出血。

 「赤松さん、昨夜どこかに頭ぶつけた?それとも、痒くて頭を掻き毟ったかな?」
介護福祉士の女性が心配そうに聞いた。ベッドで寝ぼけていた意識が急にしゃんとした。
「どちらも記憶にないなぁ。頭をぶつけてもいないし、特に頭が痒かったと言う記憶もないよ。」
そう言いながら上体を起こそうとすると、
「だめだめ、頭を強く打っている可能性もあるから動かないで。」
と言われ、元の体勢に戻された。「まずいことになっ

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闘病記(60)真夜中のベリーロール

闘病記(60)真夜中のベリーロール

「ベリーロール」と言う言葉をご存知だろうか。
「あー、ブル◯ンから発売されている焼き菓子ね。白くておいしいやつ。」と、思ったあなたはとても素敵。ただ残念ながらその焼き菓子は多分ホワイ◯ロリータではないかと。そんな素敵な勘違いをする皆さんのために、タイトルの写真をロールケーキにしてみました。

 さてさて、本当の「ベリーロール」は走り高跳びの飛び方の1つだ。助走をしてきて踏み切った足とは逆の足を高

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闘病記(58)  信じてまうやろ。

闘病記(58) 信じてまうやろ。

 「回復などない。あるのは、喪失と絶望、そしてそれを乗り越えるための獲得だけだ。」
 そう悟った。自分の能天気さと馬鹿さ加減に嫌気がさすとともに。ようやく腑に落ちた。いや、蹴り落としたといった感じだった。
 リハビリ病院や、リハビリという治療において「回復」と言う言葉がよく使われる。病院や治療だけではない。ごく一般に用いられることが多い。(自分に電話をしてきた友人も、「若いから回復も早いだろうし。

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闘病記(57)  巻き笛ピーヒャラ。

闘病記(57) 巻き笛ピーヒャラ。

 前回紹介した、リハビリに使う「巻き笛」のことについて書く。
 ある日の言語療法の時間。いつも通り、顔のマッサージ、顔の筋肉の運動、言葉の発音練習などを終えた後、言語聴覚士のMさんが、無邪気な笑顔とともに、
「懐かしいでしょう。ちょっと吹いてみてください。」
と、自分に巻き笛を手渡した。早速くわえて吹いてみた。少し強めに。
「ピー」と言う音にあわせて巻かれた紙の部分がシュルルと勢いよく伸びていくは

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闘病記(54)  ぬるっと

闘病記(54) ぬるっと

 学校の体育館の2倍はあろうかという大きさのリハビリ病棟。その中央に位置する生活訓練用のモデルルームの一角にあるユニットバスで「退院して、家庭に帰った後のための入浴の実習」を行っていた時のこと。
「今日はとても暑いですから、湯船にお湯を張るのはやめて、シャワーを浴びる実習だけにしましょう。」
と作業療法士のNさんが言う。
「浴槽の縁のところに湯船に出入りする器具がある時はそれを使ってくださいね。」

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闘病記(53)   お風呂together.

闘病記(53) お風呂together.

 ある日の午後、作業療法士のNさんと自分は、「モデルルーム」の中にいた。「使い終わった食器を、安全に食器棚に戻す。」という練習のためだ。なんとリハビリ病棟には患者の「退院して家に帰ってからの生活」がスムーズに行えるように訓練をするために、家の中を模したスペースがある。畳の間を含む1LDKの広さで、家具もセットされていて。初めて療法士のNさんから「モデルルームに行ってみましょう。」と言われた時は、「

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闘病記(52)   デュアルタスク

闘病記(52) デュアルタスク

 それまでできなかったことが、できるようになる時というのは突然やってくることが多い。自分は、リハビリテーションを通して幾度となくそういう体験をした。
 「大丈夫かな。うまくできるだろうか。」と結果を気にしてとらわれている間はうまくいかず、何も知らされず過程を楽しんだり練習にも疲れきって何も考えられず、無心になっているときにあっさり目標にたどり着けたりする。急に人混みを抜けて、みずみずしい空気に触れ

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闘病記(49)   くるみ問題

闘病記(49) くるみ問題

 リハビリ病棟の中央で存在感を放つトレッドミル(愛称:くるみ)。それを使って約15分間できるだけリズミカルに、スムーズに足を動かした後でロフスト杖を支えにして歩く。これら1連のトレーニングで、リハビリテーションの1時間を締めくくる事は、自分に不思議なカタルシスと充実感を与えてくれた。(トレッドミルの愛称が、なぜ「くるみ」なのかと言うことが気になる方は、ぜひこの1つ前の話(48 話)を読んでみてくだ

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闘病記(48) KURUMI

闘病記(48) KURUMI

タイトルをローマ字にしたら、何やら地底深くに設置された人工知能のような表記になった。「くるみ」でも「クルミ」でもよかったんですが、これはこれでなんだかかっこいいのでこのままにしておきます。さて、なぜ「くるみ」かというところが今日の本題。
 ある日、リハビリの時間。担当の理学療法士Tさんがとても興味深い話をしてくれた。それは、ゴキブリについてのことであった。
 ゴキブリ嫌いの人にとっては、(好きな人

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闘病記(47)  出世魚

闘病記(47) 出世魚

 
 ここ数回のテキストのタイトルや文章を読むと、自分は寝ても覚めても「尿」と「尿意」について考え、行動していたように思われるかもしれないが、そういうわけではなく、当然、毎日のリハビリテーションは続いていた。夜中に大失禁による大失態をおかしてしまい、何ともいえない敗北感と罪悪感にさいなまれてほとんど眠れないような夜でも、やがて、そ知らぬ顔で、朝がやって来る。洗面や食事を済ませると、あっという間に8

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闘病記(46)  くせになりそう。

闘病記(46) くせになりそう。

「しばらくの間、オムツをつけてトイレはベッドの上でしてしまうものと割り切りましょう。」
尿意に集中し、それを感じたらとにかく出してみることを習慣づける、という介護福祉士からの提案を自分は受け入れた。(この辺の経緯を説明していると、今回のテキストが終わってしまうので、興味のある方は45話あたりを読んでみてください。)
 それ以降、自分が身に付けるオムツには、パッドというものが付けられるようになった。

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闘病記(43)  オネショマン

闘病記(43) オネショマン

前回投稿したテキスト「採尿パーティー」のnoteに40を超える「スキ」を頂戴し、フォローをしてくれる人も増えた。とってもうれしい。皆さんの応援を無駄にすることなく、これからも丁寧に書いていこうと思う。
 さて、自分はようやくバルーンを取り外せたわけだが、何より驚いたのは病院内の人々が大変に喜んでくれたことだった。あんなに喜ばれるとは思わなかった。バルーンが取れた翌朝、車椅子を押してもらってリハビリ

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