見出し画像

モモが教えてくれた"自分の時間を聴く"ということ

今日から気まぐれに書評を書きます。

まず1冊目は、ミヒャエル・エンデ作『モモ』。
こちらは、"人生の豊さ"や"時間"とは何かを問われる名著ですが、この作品から学んだことをひとつ上げるとすれば、主人公のモモの「聴く力」です。

モモは物語の冒頭で、多くの友だちの声を聴き、みんなを幸せにします。

小さなモモにできたこと、それはほかでもありません、あいての話を聞くことでした。
(略)
ほんとうに聞くことができる人は、めったにいないものです。そしてこのてんでモモは、それこそほかにはれいのないすばらしい才能をもっていたのです。
ただじっとすわって、注意ぶかく聞いているだけです。その大きな黒い目は、あいてをじっと見つめています。するとあいてには、じぶんのどこにそんなものがひそんでいたかとおどろくような考えが、すうっとうかびあがってくるのです。

では、モモの魔法のような力はどこからくるのでしょうか。
ある一節で、モモは時間のことをこう表現します。

一種の音楽なのよーーいつでもひびいているから、人間がとりたてて聞きもしない音楽。でもあたしは、ときどき聞いていたような気がする。とってもしずかな音楽よ。

と。この表現に静かな感動を覚えるとともに、合点がいきました。
モモは人の中に流れる音楽をじっと聴いていたのです。

音楽というのは行先が決まっています。(必ず終わりがあります)
そして止まらずに流れ続けます。
その音楽をどう奏るかで、人生の"時間"に彩りが出てくる。音色が響いてくる。
そんなことを教えてくれるモモのこのセリフ。

このような感性を持っているモモだからこそ、冒頭で友だちの声を耳をひそめて黙って聞いていたのではないでしょうか。
そしてその友だちの心に流れる音楽を、モモがかき消さずに聞いたことで、友だちは自分の心に流れる音楽に気づいたのではないでしょうか。

自分の心に流れている音楽を、人生の中でどう響かせるのか。
一人ひとり違う音楽が流れていることに気づかず、一度も奏ずに終わるのか。モモが話を聴くことで、そんなことに向き合うことができたのだと思います。

しかし、その音楽をかき消しす者が現れます。それが「時間どろぼう」です。
この男たちの声は、その一人ひとりの繊細な音楽よりも大きく響き渡りました。

時間節約こそ幸福への道!
時間節約をしてこそ未来がある!
きみの生活をゆたかにするためにーー時間を節約しよう!

そんな言葉に、一人ひとりの音楽がかき消されてしまい、皆一様に時間を節約するようになりました。

仕事がたのしいとか、仕事への愛情をもって働いているかなどということは、問題ではなくなりましたーーむしろそんな考えは仕事のさまたげになります。だいじなことはただひとつ、できるだけ短時間に、できるだけたくさんの仕事をすることです。

このように、大人たちが時間を節約することで、皮肉にも生活は痩せ細っていきました。

そんな中、モモは、自分の音楽をかき消されないよう守ることで時間を奪われずに済みました。

そして不思議な体験をします。自分だけの時間を聴くという体験です。

数えきれないほどの種類の音がひびきあっているのだということが、はっきりしてきました。たえずたがいに入りまじりながら新しくひびきをととのえあい、音を変え、たえまなく新しいハーモニーをつくりだしています。それは音楽のようでいて、しまもまったくべつのものです。そのときとつぜんモモは気がつきました。まえによく、きらめく星空の下でしずけさにじっと耳をかたむけていたとき、はるかかなたからひそやかに聞こえてきた音楽が、これだったのです。

この時モモは自分自身の時間(音楽)を自覚します。
これまで無意識に聴いていた他人の音楽ではなく、自分の音楽に気づく瞬間です。

このような一説から、私の中には果たしてどんな音楽が今流れているのだろう。
そしてその音楽を自ら奏でるとしたら、その流れている音楽にどんな音を加えるだろう。
とても悲しい音が流れているかもしれない。しかしそこへ自分自身で奏た音を加えることによって新しい和音を作り出し、光を感じる音へと変えていけるかもしれない。
そんなことを感じました。

そのためにはまず、今、自分の中にどんな音が流れているのかということに耳をすませることが必要なのだと思いました。

みなさんの心の中には、すべてのノイズを消し去った後に、どんな音楽が流れていますか?
そして、自分の中に流れている音楽を、どんな風に奏で、表現したいですか?


現在(2021年2-3月)、運営するWEBサイト「カタリスト for edu」で、こんな企画をしています。
様々な方が、4月から学校の先生になる方向けに渾身の一冊をおすすめしてくださっているので、私は読んで書評を書くことにしました。

ぜひこちらの推薦文もご覧ください!

この記事が参加している募集

よろしければ、サポートお願いいたします! WEBメディアの運営や先生サポートのために、大切に使わせていただきます。