生活の質第一スパルタkaigo5
母は認知症を異常に恐れていて、それこそ20年も前から認知症予防に努めていた。それは、やはり母のプライドと結びついている。「ああはなりたくない」と思っているからなのだ。
恐怖が知っているはずのことを遠いものにしている。
呼び出されて駆けつけて、今回彼女が分からなくなったものとは。
「あんた、携帯の充電器どこやった?いつものところにない!あんたが持っていった?持ってきて!」
「!」
衝撃だった。
つい何日か前充電器にごく自然に充電している姿を見ていたからだ。
「なんで私が充電器なんか持っていくのよ。机の所でこの前充電してたじゃん!ないの?」
「充電するのはあれだが?携帯にコードにさすやつだが?それを携帯にさせばいいんだが?」
不安すぎてそもそもの話をはじめた。
「そうだよ。携帯にさしておくの。そんなことも分からなくなってんの?」
その時、先日夜のマッサージ後に眠くなった母に携帯を取ってくれ、残りが少なくなってるからと充電器も取ってくれと頼まれ寝室のコンセントにさしたことを思い出し「あなた、この前、枕元で充電してそのままなんじゃないの?」
果たして、充電器はこのコンセントにさしてあり、枕元に置いてあった。
安堵するとともに、こんなことも不安すぎてわからなくなってるんだなぁ。と悲しくなった。
今、母の状態は彼女ににとっては不本意なはずで、それが大きなストレスとなっている。
店をやめた途端、誰も訪れない。持ち上げてもくれない。
ひとり。ひとり。ずっとひとり。
あんなふうになりたくない。という姿に自分はなってしまった。
出歩けていた骨折前までは、好きなところに行って楽しむと言っていたのに、こんなことになって。毎日「こんなはずじゃなかった」と言っては嘆き悲しむ。
めんどくさい。
めそめそする度に「泣かない!」と強く言われてまためそめそしている。
「好きなことを楽しめって言われても、私は楽しめない。楽しくってどうしたらいいかわからない。人と会っても誰も私の話なんかつまらないし面白おかしい話なんか出来ない」
この人はずっと人とのコミュニケーションに悩んできたんだと改めて思う。これは多分もっと昔にやっておくべき葛藤だった。
誰も面白おかしい話なんか求めていない。だいたい先生、センセイと言われて自分の思い通りにしかやってこなかった人生、人は自分の話を聞いて当たり前の生活だった人なのだから。
そして、主治医の先生に診てもらえる日が来た。担当を変えるわがままに対するお叱りから始まり、ご最もと反省するばかり。
結局コルセットで大人しくしてくれとのこと。骨粗鬆症対策として最新の注射を打つこととなった。経過観察のため待機したり、支払いを待ったりで、その日の診察は時間がかかって2人ともぐったりだった。
注射は両腕にするのだが、母の頭の中で帰る頃には片腕だけにしたことになっていた。
副作用の恐れもある注射を選択したのは投薬では飲み忘れが心配だったからだ。
最近は薬を管理する7daysピルケースに入れること自体が怪しくなっていた。
処方される薬の袋に何度書き込もうとも、朝にのむものを忘れたり、朝と夜、朝、昼、晩食後、などの区別がつかなくなってしまっていた。
骨を折って免疫が落ちたせいで持病が再発、薬の種類も増えて、全く手に負えない。毎日、私と確認しながらケースに入れる。
私が居ないとダメ、となったら今後困るのは私だ。
間違えない方法を。
視覚的に分かりやすく出来ないだろうか?ということで思いついたのはシールだった。
今回はセリア。
朝🔴のシール。
昼🟡のシール。
夜🟢のシールを薬の袋に貼る。
寝る前は🔵
1日3回なら🔴🟡🟢と貼って朝と夜なら🔴🟢というように。
これが結構上手くいった。
薬を腰、血圧などに分け、それぞれの袋に貼った色シールで確認して7daysピルケースに詰める。
入り切らないのでハサミで四隅をカットしながら入れる。
その作業をしながら薬を管理する。
意識出来るように自分で入れてもらう。正しいことを私が確認する。という毎日を実行する。
しかし、のむ種類は間違えなくても飲み忘れ、はなくならない。
詰めたことで安心してしまうからだ。
時間にはLINEして飲むことを促す。
根気よく続けることで、私が居なくてもできるようになってきた。
薬詰めの時間にいろいろ話すことも増えた。その時、来週に決まった認知症検査のために動画で見た認知症のカンタンな検査を母に試してみる。
「はい、今から言う3つの単語を覚えて。さくら。ねこ。車」
復唱して覚えてもらう。その後すぐ、指で輪っかを作って胸の前で右左の輪っかをくっつけてから、左だけ反対にして輪っかをくっつける。その動作の真似をしてもらう。見た形を身体で再現出来るかどうか、のテストと思われる。ミラーリングというやつ。何とかクリア出来る。「はい、さっき言った3つの言葉言ってみて!」
「なんだったかいな。えーと」
「イメージして覚えてって言ったでしょ?思い出して」
「えーと。さくら!」
「あってる!じゃ次」
「なんだっけ」
「身近な動物だよ」
「うーん。さる!!」
「・・・さるは身近じゃないでしょうよ。」
認知症検査はもう来週に迫っていた。
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