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下着を買っているのではない、ときめきを買っているのだ

夏のボーナスが入った。
家電を買う? 旅行に行く?

私は下着を買うことにしている。
それも、デパートで高級なやつを。

エスカレーターを上がって、売り場を探す。
華やかなその一画を目指すと、足取りが自然に軽くなる。

見ているだけでうっとりする、レースの艶と水彩画のような色。
どれもこれも綺麗、と次々に目移りしながらランジェリーを手に取る。
まるで花から花へ飛び回る蝶のように。

「こちら、とても盛れますよ」
店員さんが話しかけてくる。

デパートの店員さんの、押し付けがましくなくそれでいて適切で頼もしい接客が大好きだ。

くっきりした青色のレースが繊細にあしらわれたブラに、目が吸い寄せられた。
しかし残念ながら、そのブラにはセットのキャミソールがなかった。
ブラ、ショーツ、キャミソールの3点の組み合わせでどうしても買いたかった。

名残惜しく気に入ったブラのレースを撫でていると、先ほどの店員さんがふわっと横にきた。

「こちらはいかがですか?」
思わず目が吸い寄せられた。
水色とグレーの繊細で爽やかなそのデザインは、絶妙としか言えない。
まさに私の好みだった。

「試着させてください」
フィッティングルームで試すと、私の肌の上でレースが艶々と輝いた。

「失礼します」
店員さんに丁寧にフィッティングしてもらうと、自然と背中がピンと伸びる。
ふっくらしたと持ち上がったデコルテと呼応して、心も自然と上向きになる。

『先に体を整えると、心も整うんだ』
下着を買うたびにこのことを思い出す。

キャミソールも合わせると、どうしようもなくトキメキが最高潮に。
この下着をお迎えすることにした。

店員さんににっこりと微笑んで、紙袋を受け取る。
「あぁ、私このために働いてるなぁ」
そう思える買い物はいつも心を潤してくれる。

そう、私はただ下着を買っているのではない。
ときめきを買って、心を潤しているのだ。

上向きになった心で、お気に入りの下着を大事に抱えて帰る夏の夕暮れでした。

《おわり》

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