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タリバン政権と「生きのびるために」
「アフガニスタンでタリバンが20年ぶりに実権を掌握しました。」
最近タリバンについて耳にする機会が増えたのではないでしょうか。
アフガニスタンでは国外へ逃げようと空港に人が殺到し、ネット上では航空機にしがみつく人々の写真なども目にします。
タリバンとは、アフガニスタン政府の打倒を目標に活動するイスラム過激派テロ組織です。なぜここまでタリバンが恐れられるのか。タリバンとは何者なのか。よく知らないままニュースを流し見している人も多いと思います。
今回観た「生きのびるために」は、そのタリバンが政権を握っていたアフガニスタン・イスラム首長国に暮らす一人の女の子を主人公とした社会派長編アニメーション作品です。
日本人にとって、宗教に伴う過激な思想はあまりピンとこなかったり、「治安が悪い」と一言にまとめられてもそれがどの程度のものなのかイメージがつきにくかったりします。
この作品は、“支配される側の視点”からタリバンが政権を握ると国民の生活は具体的にどうなるのか分かりやすく描いてくれています。
こんな事を言うのは不謹慎かもしれませんが、とても面白い作品です。
なんといっても恐ろしいのは、これがフィクションではなく2001年まで実際に行われていた政治であるという事実です。ほんの20年前まで、アフガニスタンでは女性だけで外を歩くと見知らぬ男性からボコボコに殴られる危険がありました。
外へ出るには親族男性の同伴が必須。女性は外で買い物することを禁止され、仕事にも学校にも行かせてもらえず、一切の娯楽を取り上げられ、医療機関にかかることも許されません。
「女は家から出るな!」
主人公も男性からこんな言葉をかけられています。
ですが、この作品は極端な男尊女卑を訴えながらも女VS男という構図ではないのが特徴です。
登場人物たちの家族関係は良好で、お互いをとても大切に想っていることが伝わってきます。そこに男女の差は感じられません。
宗教思想が絡んでくるので正解は一つではないかもしれませんが、少なくとも過激なイスラム教の解釈に基づいたこんな女性の扱いが現代で行われるべきではないことは明らかです。
当時のアフガニスタンは、「世界で最も人権弾圧がひどい国」と言われていました。
今回再び実権を握りましたが、国を「統治」するのに必要な行政サービスなどを提供する能力がタリバンにはありません。つまり、国を率いていくためには自分たちが倒した敵であるはずのアフガニスタン政府の協力が必要なのです。不思議な話です。
この作品では、行政サービスを提供する能力のないタリバンが「統治」していた首都カブールが廃れていたことも描いています。
差別は日本に住む私達にとっても決して対岸の話なんかではありません。そこは確実に地続きになっていて、注意書きの看板が立てられているだけ。見落としてしまうと誰でもすぐに足を踏み入れてしまう可能性があります。
最近ホームレスや生活保護受給者に対する差別発言も話題に上がったばかりです。
社会情勢や宗教思想に興味がない人も、大昔の話ではなくほんの20年前の話であることを忘れずに観てほしい作品でした。