ヒッチハイクのススメ完全版
【チベット・インド旅行記】#2長野
『はじめに』
ヒッチハイクは違法行為では無いが。時として何時間も待ちぼうけしたり、トラブルに巻き込まれたりと、様々なリスクが考えられる。
気軽にはおすすめできない移動手段である。
しかし、人の優しさに触れ。一期一会の出会いを重ね。考えもしなかった場所へと辿り着く。
そんな旅の醍醐味を味わえるのも、ヒッチハイクならではである。
以上の事をよく踏まえた上で、物語を楽しんでいただけたら幸いである。
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もしもあなたが万が一、日本国内でヒッチハイクをしようと思った場合、2通りのやり方がある。
国道や県道などの下道を使うやり方と、
高速道路を使うやり方だ。
もちろん、効率的に距離を稼ぎたいのであれば高速道路がベストだ。
インター付近で、スケッチブックに行き先を書き、掲げるやり方がスタンダードだが、裏技もある。
近くのサービスエリアや、パーキングエリアに一般道から歩いて入り、駐車場で声をかけるのだ。これが断然早い。
学生時代はお金が無かった為、旅に出る時はいつもこうやって移動していた。
まぁ、それでも、のんびりと下道を使って旅を進めるのも、中々オツなものである。
埼玉の実家を出発してから数日後、私は山梨県を越え、長野県の松本付近で、中年夫婦の乗る自家用車に乗せてもらっていた。
後部座席に乗り込むと、助手席の白髪まじりのおばちゃんが、バックミラー越しに、話しかけてくる。
「そう、あなたチベットまでいくの。で、学校はどうしたの?」
「いえ…旅をするので学校は行ってません…」
「まぁ、このご時世、大学くらい出ておかないと仕事に困るわよ」
「はぁ…」
「私ね、松本市のハローワークに勤めているの。あなたみたいな男の人が、沢山仕事を探しにくるのよ」
「はぁ…」
これからチベットへ向かおうという矢先に、私は一体、ここで、何をしているのだろうか?
おばちゃんは更に続ける。
「まぁいいわ、で、あなたは旅行から戻ったら、何の仕事に就くわけ?」
「まぁ…」
まいった。
旅から帰った後?
そんな事、1ミリも考えた事無かった。
仕事?
えっと、旅人って、仕事じゃ無いんですか?
まえだゆうき19歳、おそらく今回のチベット旅行の最大の難所に、今まさに差し掛かろうとしていた。
仕事、仕事、仕事。
苦し紛れに絞り出した。
「えっと…もの…づくり…とか?」
「あーあ!もう、ハローワークに来る人たちったら、みんなそう言うのよ。ものづくり、ものづくりって…。そんなに世の中甘く無いのにね!」
え〜〜〜っ!
そこ、地雷ですか〜っ!
とまぁ、こうやって色々な人に乗せてもらえるのも、ヒッチハイクの醍醐味である。
松本市街から離れた場所で車を降してもらい、次を待っていると。今度はハイエースが少し先に止まった。
(市街地は遠出をする車が少ない為、ヒッチハイクをする際には、街から離れた所がいい)
走って行って、車に乗り込むと、白衣のユニフォームを来た一団。
「おー、ヒッチハイクなんてはじめて見たよー。兄ちゃん、乗れ、乗れ!」
これから、高山のホテルに出張に行く、マッサージ師の皆さん。
おじちゃん、お兄さん達の間にちょこんと座る。
髭面の院長さんが言う。
「うちらこれから仕事だから。その間、ホテルの温泉、内緒で入れてやろうか?」
「えーっ、いいんですか?是非!」
旅をしていると、湯船に浸かる機会が無いので、願ったり叶ったりだ。
そうしてハオエースはスルスルと従業員用の入り口から駐車場に入っていった。
格調高そうな山の上の温泉ホテル。
髭面の院長が、大浴場に案内してくれた。
「ちょっと仕事に行ってくるから、待ってろよ。バレると厄介だから、外にでちゃダメだぞ!」
はじめは、わーい!と、大浴場でばた足したり、バチャバチャ遊んでいた私だが。
だんだんと、やる事も無くなってきて飽きてきた。
というか、そもそも別に風呂好きというキャラでも無い。
しかも、向こうは仕事中である。
2時間待っても来ない、3時間待っても来ない。
全人生史の中でも断トツに長風呂したせいで、ゆでダコみたいにぐでんぐでんになって。脱衣所に倒れ込んだ。
「兄ちゃん!待たせてすまん!うちら、これから帰るけど、どうする?」
「はい…、ちょっと気分悪いんで…、適当なところで落っことして下さい…」
猪や鹿が出没しそうな、山奥のバス停に私を降ろして、ハイエースは去って行った。
遠くでフクロウの鳴く声が聞こえる。
ベンチに寝袋を敷き、星空を見ながら寝る。
やりたい事かぁ…。
みんな、そういう事って、考えたりするのかなぁ。
やりたい事って、一体何だろう?
旅をしてたら、分かるものなのかな〜。
湯疲れしたせいか。
考えている内に、眠りに落ちて行った。
(つづく)
【旅人だっていいじゃない。ハゲていたっていいじゃない。だって王様だもの】
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