チベット・インド旅行記『中国編!』
チベット・インド旅行記
#8, 「大連」
【前回までのあらすじ】遥かなるチベットを目指し、埼玉県からヒッチハイクで旅をはじめたまえだゆうき。出発から2ヶ月が経過した今、ようやく中国へと足を踏み入れようとしていた。
朝8時半、韓国仁川から出発したフェリーは、船内アナウンスと共に、するすると大連港へ到着した。
簡単なパスポートのチェックを済ませ、手持ちのウォンを全て元に替え、ゲートを潜る。
大連港のタクシーターミナルは人、人、人。
路上には人がごった返している。右も左も分からない、言葉も通じない。
まぁ、こういう時は焦っても仕方がないので、荷物を下ろし、ギターを構え歌うのが私流。
どーぶねーずみ〜、みたいに〜、美しくあり〜たい〜♬
「シェンマ?シェンマ?(何々?)」
いきなり歌い出す怪しい男に、何事かと野次馬が集まってくる。ゲラゲラと笑いながら観てるおっちゃんたち、興味津々の子どもたち。
歌い終わる頃には、コーラや、ちまきや、スナック菓子など、沢山の差し入れが足元に集まってきた。
すると背後から聞き覚えのある声。
「あっ、何事かと思ったらやっぱりユーキだ〜。久しぶり〜、ヤッホー」
声の主は高校時代の友人、アミちゃん。
中国は大連に語学留学中のアミちゃんは、今回の旅のガイド役に、快く協力してくれたのだ。
アミちゃんと2人、タクシーを捕まえて市街へ向かう。
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当たり前といえば当たり前だが、中国の街はどこもかしこも漢字で書かれた看板であふれている。
「电影」「套餐」「电视机」「网吧」などなど。
今までハングル語ばかり見ていた私には、ちょっとだけ懐かしくも映る。
アミちゃんいわく、大連の街は日本企業も沢山入っているので、中国の中でも比較的モダンな街並みなのだそうだ。
アミちゃんと旅の装備を整えに、雑貨が並ぶマーケットに入った。
中国は韓国と比べても、かなり物価が安い。
パンツ2枚10元(300円)、肉まん1元(15円)、定食5元(75円)
※2004年時の価格。1元は15円ほど。
何の気なしに品定めしていると、アミちゃんが旅のお勧めグッズを抱えてやってきた。
「ユーキ、ユーキ、中国を旅するなら、これ買った方がいいよ〜」
『即席湯沸かし器』
鉄で出来たスティックなのだが、先端が螺旋状にグルグル巻きになっていて、根元にはコンセントが付いている。
鍋に水を張って先端部分を入れておくと、段々と熱くなって、ゴボゴボと湯が湧くらしい。(火傷に注意!)締めて3元(45円)
『便利水筒』
何の変哲もないプラスチックの水筒なのだが、キャップ部分に網が張ってあって、ここに茶葉が入れられる。
中国の定食屋では大体白湯が無料でもらえるので、お湯を注げば何度でもお茶が飲めてお得。締めて5元(75円)
他にも中国の地図やら、歯ブラシやら色々買い込んで、今度は茶屋に向かう。
さすが中国の茶屋は品揃えが豊富。狭い店内に、所狭しと茶葉が並んでいる。
クシャクシャになった茶葉や、ピンと伸びた茶葉、青色、白色、黒色、茶色。花びらの茶っぱや、茎の茶っぱなど。
安いものだと1パック3元(45円)から、高いものだとひとつまみ300元(4500円)まで。
私は香りの良さそうなジャスミン茶、1パック買った。
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そんなこんなで、アミちゃんは中国の事を色々と教えてくれた。
■ウォーシーイーベンレン、我是日本人(私は日本人です)
■トゥオシャオヅェン、多少钱?(いくらですか?)
■ケイウォミーファン、给我米饭(ご飯ください)
などなど、中国語は発音が難しいから口の形に気をつける事。
最悪、筆談でもなんとかなる事。
中国の定食屋はやたら量が多いので2人以上で入った方がいい事。
1人の場合は屋台で買い食いでもいい事。
ポケット版の日中辞書も旅の餞別にプレゼントしてくれた。
「そういえば、ユーキ、何か文庫本とか持ってない?こういう時って旅人同士、本の交換とかするのが流儀なんだよ〜」
確かに、旅をしていると無性に日本語が恋しくなる事がある。
私はカバンに入っていた辺見庸の「もの食う人々」をアミちゃんにあげた。
代わりにアミちゃんは、手元にあった村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」をくれた。
それから数日間、アミちゃんの下で簡単な中国語を習った後、一路中国の首都、北京へと向かう事にした。
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夕暮れの大連駅には、大陸特有の真っ赤な夕日が沈み、土埃が立っている。
駅のロータリーにはタンクトップ一丁で半裸のおっちゃんたちが、段ボールを並べて大の字で寝ている。
足の踏み場も無い、アザラシのコロニーのようだ。
果物売りのおばちゃんが両肩にカゴをぶら下げて、大声で声をかけてくる。
道端で、ホコリだらけの顔で靴磨きの客を待つ少年たち。
「なんか中国の人ってたくましいね〜」と私。
「そうだね〜、なんか生きてる事に一生懸命って感じだね〜」とアミちゃん。
生きてる事に一生懸命、か。
だとしたら、こんな風に気ままに旅を続ける私は、生きてる事に不真面目と言われても仕方がないかもな。
北京行きの切符を買い、アミちゃんに別れを告げる。
大連から北京まで、9時間半の列車の旅。大陸の広さを早速肌で感じた。
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列車の中では、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を読んだ。
物語は、美しい一角獣が暮らす幻想の世界と、頭の中に致死性のプログラムを埋め込まれた男のアクションが、交互に繰り返されてゆく。
その物語の言うところによると、
永遠とは、無限に広がってゆく時間の事を指すのでは無く。
無限に細分化されてゆく瞬間の事を指すのだそうだ。
本を閉じ外を観る。
窓の外には荒涼とした原野と山々が、どこまでもどこまでも続いている。
果たして今、私が見ている旅の風景は、瞬間なのだろうか?
それとも永遠なのだろうか?
心の中でふと考えた。
列車は夜を越え、北京へと向かう。
北京編へつづく
【チベット・インド旅行記】#9,北京編はこちら!
【チベット・インド旅行記】#7,ソウル編はこちら!
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