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『新・考えるヒント』 池田晶子
「専門用語によらない哲学の文章表現」を目指すという独特の試みで、思想のジャンルに新風を送りこんできた池田晶子。ユーモラスな哲学対話集である『帰ってきたソクラテス』や、ベストセラーにもなった『14歳からの哲学』などの著書で、より広い範囲の読者も獲得してきた。
そんな著者が、学生時代から多大な影響を受けてきた小林秀雄の著書を、本を1冊丸ごと模倣して、随想集のスタイルで書き下ろしたのが本書『新・考えるヒント』である。
著者は、小林秀雄の『考えるヒント』の各章のタイトルをなぞりつつ、さまざまなトピックについて考察を重ねていく。
神の存在を信じる、という話題から掘り起こし、科学一辺倒の社会に警鐘を鳴らす「常識」。
大衆に消費される言葉のあり方を嘆きながら、言葉の持つ魔術に改めて感心する「読者」など、全15編を収録。決してやさしい内容ではないのだが、小林秀雄ゆずりの洒脱な言い回し、適度な脱線、皮肉を交えているので、最後まで飽きずに読めてしまう。
哲学的な事柄を日常の言葉を使って粘り強く書くという点では、従来の著作と同様だが、最後まで「批評」という形式に寄り添っているところが目新しい。
また、小林秀雄からの引用文と著者の文章が、読み進むにつれて、互いに区別がつかなくなってくるのも魅力である。「小林秀雄が現代に生きていたら、こう言うだろうな」などとうなずきながら、ページを繰っていくのが、この本のもう一つの楽しみ方であろうか。
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