「みちを居場所に」するとは、“自分たちの手で、よりよい暮らしをつくること”だと思った話【移動式あそび場レポ】
たとえば、お家の近くにある道路。
普段は通勤・通学などで日常的に使っているその道路が、毎週末1日だけ歩行者天国になって、人々が思い思いに過ごす空間に変身したら。
芝生が敷かれてハンモックやベンチが置かれ、ファーマーズマーケットやキッチンカーが立ち並び、どこからともなく音楽が流れてきて、こどもたちがあそべる場所がそこにあったら、どう思いますか。
道路や公園、広場などの公共空間を活用したまちづくりは様々な場所に広がっていますが、今回の舞台は茨城県水戸市。水戸のランドマーク、アートタワーが有名な「水戸芸術館」と、来年7月にオープン予定の「水戸市民会館」の間の道路で、「みちあそび&ファーマーズマーケット」が開催され、私たちまちのこ団もあそび場を届けてきました。
“芸術”と“文化”の間にある道で「みちあそび&ファーマーズマーケット」
2022年11月26日(土)。茨城県水戸市泉町にある新市民会館周辺地区、通称「MitoriO」地区内、新市民会館と水戸芸術館の間の市道を歩行者天国にして「みちあそび&ファーマーズマーケット」と、同時開催として水戸芸術館広場内で「アートタワーマーケット」が開催されました。
MitoriO地区とは
会場となった新市民会館周辺地区、通称MitoriO地区とは、水戸市泉町1丁目にある「京成百貨店」「水戸芸術館」そして令和5年7月オープンの「水戸市民会館」のあるエリアのことです。
もともと、現在京成百貨店がある場所には伊勢甚百貨店があり、新市民会館の場所に京成百貨店がありました。伊勢甚百貨店の跡地に京成百貨店が移り、跡地はしばらく空き店舗だったそうですが、東日本大震災が発生し当時市役所の隣にあった市民会館の建物が被災。この場所に再開発事業により新たに市民会館を建設する運びとなったそうです。
市民参加によるワークショップから生まれた「みちを居場所に」する企画
「みちあそび&ファーマーズマーケット」は、NPO法人セカンドリーグ茨城と水戸市泉町周辺地区開発事業所との協働プロジェクトで、水戸市協働事業提案制度「わくわくプロジェクト」令和4年度採択事業の1つです。
2020年、水戸市泉町1丁目の再開発にあたり、新市民会館周辺エリアの活用方法を考えるワークショップが開催されました。公募により集まった周辺住民の方など約20名の参加者で話し合い、今回の「みちあそび&ファーマーズマーケット」というイベントが形になりました。
当初は2020年度内での開催予定でしたがコロナ禍のため中止、ようやく2年越しの開催となりました。
みちの上で野菜を買ったり、書道をしたりあそんだり
当日の天気予報は雨。朝から小ぶりで降ったり止んだりでしたが、規模を縮小しての実施となりました。
普段は車が通る道路が歩行者天国に。
新鮮なお野菜が並ぶファーマーズマーケットや、キッチンカー、LITTLE FREE LIBRARY®などが立ち並びました。
(LITTLE FREE LIBRARY®:2009年にアメリカで始まったもの。木箱などに本を入れ玄関先などに設置、自由に本を借りたり寄贈したりできる仕組み。日本でも鳥取や埼玉など各地で行われている)
あいにくのお天気で人はまばらでしたが、雨の中でも子どもたちは元気にあそんでいました。
あそびに来ていた親御さん。「千波湖まで遊びに行こうと思ってここ通ったらたまたまイベントやってて、ここでいいか!ってなって遊んでます(笑)」
MitoriO周辺は子どもたちがあそべる公園がないそうで、自転車で15分ほど走って千波湖や三の丸公園に行くそうです。ここが子どもたちが普段から安心してあそべる場所であれたらいいなと思いました。
どんな「場所」になってほしいですか?大学生によるアンケート
イベント中、茨城大学でまちづくりを学ぶ学生が「MitoriOがどんな場所になってほしいですか」というアンケートを実施していました。
「MitoriOがどんな場所になってほしいですか」の回答を葉っぱに書き、一本の木が完成しました。
1枚1枚に込められた想いが形になったら、「MitoriO」という場所はもっと素敵な空間になるんだろうなと、ワクワクしました。
「思い思いに過ごす」ためにある、そんな道
「この道は、歩道と車道の間には段差がなくバリアフリーになっていて、もともと設計段階から、歩行者天国のようにして活用していきたいというイメージがありました」(小林さん)
お話をお伺いしたのは、今回協働で本プロジェクトを実行されている、水戸市都市計画部 泉町周辺地区開発事務所 事業推進係長の小林さん。
今回のような形で道の活用を継続的に、できれば毎週末開催していきたいという思いがあるそうで、今回は実証実験的に、まずはどんな風になるかやってみましょうという回でした。
「こんな風に活用できるということを形にして見せることができたので、継続できるよう進めていきたいと思います」(小林さん)
「車のための道」を、「人のための道」へ取り戻す
そのむかし、道路は人々が行き交い、顔を合わせて話したり、道端に露店を開いたり、子どもたちは落書きをしてあそんだり、そうした場所であったと思います。人のための道。それがいつしか、車中心の社会になり、車のための道に。
そんな中、まちづくりやコミュニティ形成の文脈の中で、道路を活用しようという動きが日本各地で広がってきています。
さらに令和2年には、道路法等の改正に伴い、「歩行者利便増進道路制度」(通称:ほこみち制度)が制定され、追い風になっています。(国土交通省ホームページ「ほこみち」概要ページ:https://www.mlit.go.jp/road/hokomichi/)
「みちを居場所にする」とはどういうことなのか考えてみた
私たちまちのこ団は、「みちを居場所に」という合言葉でイベントを開催してきました。場所は茨城県日立市。「Living Street Hitachi」というイベントです。そのときの様子はよろしければこちらからご覧ください。
2022年4月開催:商店街のストリートにこたつ。「遊び」から生まれる「まちの居場所」
2022年8月・10月開催:ただ”みちを居場所に”したいだけ。想いを伝えることのむずかしさを痛感した2022夏
上記の経験もあり、今回お声がけいただき、お役に立てたこと、とても嬉しく思っています。
「Living Street Hitachi」でも感じたことですが、「みちを居場所に」するということは、言葉にすると簡単に聞こえますが、なかなか難しいことであると痛感してきました。
それでも今回、水戸市で「みちを居場所に」する活動に関わることができ、「みちを居場所に」するとは、まちを自分たちの手でつくっていくことなのではないかと感じました。
道は公共空間であり、公共空間は市民のための空間です。そこに住む人たちが、近所のいつも使っている道をどのようにしていきたいのかを考え、小さなことから始めてみる。花を植える、でもいいですし、掃き掃除をする、でも。
たとえば本屋さんに行きたいけれど近くにない場所で、みちで古本市をやる。スーパーまで遠い場所でファーマーズマーケットをやる。あったらいいな、こんなまちになったらいいな、を、まずはみちでやってみる。「みちを居場所に」するとは、みちを、暮らしを、自分たちの手に取り戻していくプロセスなのではないか、そう思いました。
そんなみちがあるまちは、きっと暮らしやすいまちで、暮らしたくなるまちになるんだろうなと思います。
(写真・文=サトウミキ)