豊としゅうしゅう
豊は好きな時間に草木のそよそよと揺れる音を聞きながら、いつの間にか移り変わっていく季節の中で過ごす日々にすっかりと溶けた
たまに昔からのなじみの源が遊びに来るときは、話す言葉を忘れていないかどうかを顎をゆるゆると動かす
Jenやらミルクから届いた最近の写真などを眺めてあまり突拍子もないスタイルにならないように考えて服に着替えないと
そろそろ毛皮もボロボロと剥げてきて夏の被毛にかわろうとしている
着るものをざっとみると洗いざらしの木綿の被り服が簡単でよさそうだった肩甲骨の下までのびた毛は紐でまとめればなんとかなりそうだし、「おーい豊~」と縁側のほうから源さんの声がきこえてきた
「がお」
と言いってとにかく一枚を被って髪の毛を紐で束ねて顎をかくかくと動かしながら衣装棚のまえから離れた
足音をたてずに庭のほうにいくと源がなにやら”まあるい”ものを座布団の上にのせて眺めてながら これこれというように相変わらず静かなまなざしに悪戯っぽい調子でうなずく
「あんな、これな、しゅうしゅう装置いうてな」
「うん」
「人の匂いやら、ひとり言やら、思考のかけらをしゅうしゅうしてくるやつやねんて」
「ふうん」
「でな、パフコ社の商品なんやけどこれは少し変わった動きするからいうて、返品になったやつがなんでかしらんけど、うちんとこきたんやわ」
「うん」
「けどな、わしんとこあってもなおもて、豊、お前つかってみいひん?丸いからひまなとき転がして遊ぶのもいいんとちゃう?」
(ねこちゃうんねんけどな、、)
まあるいやつを眺めていると
マウリシ
血
文様
狭い
亜里沙
女
赤色
角
揺れる空気の音らしいもの
小さな音で言葉がとびでてくる
思わず前足で出てくる言葉言葉をパシッとはじきたくなる衝動を抑えて
まあるいやつから聞こえてくる言葉に目を凝らした
「な、なんかきこえてくるやろ」
「うん、」
「でな、音か言葉かわからんけどつなげるとなんか見えるらしいで」
「へー」
人が前にすわると言葉高がでてくるこの”まるいやつ”
”まるいやつ”をみながらしっぽがユラユラしている様子を源はながめながら
「ほな、これおいていくで、またなんかおもろいもんができたらええな」
「がお」
さっきの姿かたちはどこへやら、”まあるいやつ”に夢中を体の真ん中によせて眺めている豊をおいて源は獣道をまたきたとおりたどっていった