見出し画像

考古学と歴史学と 〜過去を追求する学問とは〜

九條です。

私は大学卒業後、研究職として文化財の調査技士そして博物館学芸員となって、現在まで35年ほど「歴史学」の研究に携わっています(詳しくはプロフィールのページをご覧になってください)。

さて、我が国の過去のできごと(歴史)を専門的に研究する分野には、おもに以下の3つがあります。

(1)考古学
(2)歴史学
(3)民俗学(民族学ではありません)

これらは「広義の歴史学」と言われます。


1.各学問の特徴

以下にそれぞれの特徴をごく簡単に説明いたします。

(1)考古学
おもに過去のモノ(主として埋蔵文化財)を対象に調査・研究します。具体的には埋蔵文化財包蔵地(すなわち遺物散布地や遺跡)・遺構・遺物など。古墳も遺跡のなかのひとつです。

◎考古学は、一般に「考古学」と言われている分野の中に、歴史考古学、宗教考古学、城郭考古学、産業考古学、水中考古学…など細かく多彩な分野に分かれています。

(2)歴史学
おもに過去の記録資料(文献資料=文字による資料)を対象として調査・研究します。一般に「歴史学」と言われるのはこの分野の研究です(狭義の歴史学)。「文献史学」とも言われます。

◎歴史学は、文化史、政治史、経済史、外交史、宗教史…など、非常に多くの分野に分かれています。

(3)民俗学
おもに民間伝承(言い伝え/習俗など)を研究します。文字としては残っていないような、過去から現在まで伝えられている様々な伝承や生活様式などを幅広く研究します。


2.考古学と歴史学
考古学の研究範囲は旧石器時代から始まり、縄文・弥生・古墳・(飛鳥・白鳳)・奈良・平安・中世・近世・近代にまで及びます(近年は現代も)。

このうち旧石器・縄文・弥生・古墳時代には信頼できる文献資料(文字による資料)が残されていませんので、考古学による研究でしかその時代のありさまを知ることはできません。

いっぽう、古代(飛鳥・白鳳・奈良・平安の各時代)および中世・近世・近代では信頼できる文献資料が残っています。

これら文献資料が残っている時代のことをまとめて専門用語で「歴史時代」と称します。これら歴史時代の研究では、考古学と歴史学と双方の研究成果によってその時代のありさまを知ることができます。

考古学のうち、これら文献資料が残っている時代について、考古学的な手法(方法論)を用いて研究する分野を「歴史考古学」(歴史時代を研究する考古学という意味)と称します。


3.民俗学について

民俗学においては、あまり時間軸を重視しないようです(民俗学については詳しくなくてすみません)。

例えば、ここにひとつの伝承があるとします。その伝承について、歴史学では「どこまで正確に年代を遡れるのか」「その伝承の発生はいつなのか」「その伝承はどのように変化して伝えられてきたのか」といった時間軸を中心に考えます。

けれども民俗学の場合には「その伝承の実態は何なのか」「その伝承はいったい何を象徴しているのか」という伝承の中身について中心に考えるようです。この点において、民俗学は少し分かりにくいかも知れませんね。


4.重複する部分

このように考古学と歴史学と民俗学は、それぞれに独自の方法論と指向性を持っていますが、当然重なる部分は出て参ります。とくに時代が新しく(近世あたりに)なってくると、濃密に重なって参ります。

上記のように旧石器・縄文・弥生・古墳時代には信頼できる文献資料が残っていませんので、考古学に頼るほかありません。

いっぽう飛鳥・白鳳・奈良・平安時代(すなわち古代)および中世・近世・近代では考古資料も、そして信頼できる文献資料も豊富に残っています。

ですからこれらの時代は考古資料も文献資料も活用でき、考古学的方法論を用いても、歴史学的方法論を用いても、その時代のありさまを知ることができます。

しかし、考古学と歴史学とでは、それぞれにその学問の成り立ちも構成要素も方法論も全く異なります。

ですからその方法論の違いを無視したり、ごちゃ混ぜにしたりすると誤った解釈が生じる(または恣意的な解釈となる)危険性があります。この点は研究する人も学ぶ人も注意する必要があると思います。


5.まとめ

私(九條)は、就職してからしばらくの間(20代、30代の頃)は、下積み修行(?)で各地で遺跡の発掘調査の指揮をしたこともあります。

学芸員は「雑芸員」などと揶揄されるように、自身の専門分野以外にも幅広く様々な事をこなさなければなりません。そしてそのために広い範囲にわたってある程度の専門的な知識や技術も要求され続けます。なかなか厳しくて大変です(それだけにやりがいは大きいです)。^^;

私とは逆に、考古学の研究者さんでも、きちんと文献資料が読める人はたくさんおられます。

考古学と歴史学。それぞれの専門分野を尊重し合い、ときに補い合って、時間という分厚いベールに覆われた過去のできごとを解明し、その歴史・伝統・文化・技術・知恵・知識などを現在に、そして未来へと継承して行くことが大事だと思う今日この頃です。^_^


©2024 九條正博(Masahiro Kujoh)
剽窃・無断引用・無断転載等を禁じます。