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雨が降ると蝉は鳴かなくなるが、ぺトリコールの気配がする。

昨日、僕は元バイト先の先輩からの突然のモーニングコールで起きた。

暇だったし、気分転換したい気持ちもあって、二つ返事で了承した。

そして起きて1時間もしないうちにドライブが始まった。

「自然豊かなところに行こう」ということで、
海沿いを目指すことになった。

目的地は千葉県の中でも外房(太平洋側)の勝浦。

勝浦は「夏涼しいまち」として有名らしく、なんと110年以上もの間、気温35度以上になったことがないらしい。

駐車場に車を止めて、降りて、それを実感する。

吹き抜ける風はほのかに潮の香りがして涼しく、気温はほどよく暖かい。

さらに勝浦ではヒグラシが鳴いていた。

僕の中ではヒグラシは秋口に現れるイメージだったので、もういるんだ〜と少し感心した。

どうやらセミにも過ごしやすい気温的なものがあるようで、巷でよく鳴いているアブラゼミやミンミンゼミは30度、35度以上で鳴くらしい。

対してヒグラシは25度以下だと言う。

ヒグラシからも「涼しくて過ごしやすいまち」とお墨付きをもらった勝浦。

みなさん、避暑地として勝浦、どうですか?


さて、僕たちは事前に調べた「eden」というオシャレなレストランへ向かった。

「eden」のパエリア(食べかけですみません)

海が一望できるロケーション、地元で採れた食材を使った地中海料理はどちらも最高だった。

店員さんもすごく優しくて、手際も良くて、至れり尽くせり。

ただ、オーシャンビューの景色は入店して間もなく、土砂降りの雨が降ってきて真っ白になった。

荒れる勝浦の海と空模様

「通り雨と雷に注意を」と天気予報アプリが言っていたことを思い出したが、それにしても凄まじい雨だった。

まあ予報どおりの通り雨だったようなので、
1時間もすれば小雨程度になった。

食事を終えたところで、雨も弱まったし、と、
お店を出ると、ヒグラシたちの声がしない。

どうやら蝉は雨の中、鳴かないらしい。

というのも蝉はオスしか鳴かず、オスは求愛のために鳴き、メスが飛んでくるのを待っている。

しかし蝉は羽が濡れると鳴くことも飛ぶことも出来なくなるという。

羽を濡らしたくないし、そもそもメスが飛んでこないんじゃあ鳴く意味が無い。

そういう原理で雨だと蝉は静かになる。


お店を出て気づいたのは、消えたヒグラシたちの声だけではない。

僕は今年、初めてあの香りを感じた。

ぺトリコール

濡れた地面が放つ僕たちが「雨の匂い」と感じる香り。

「ペトラ(石)」+「イコル(神々の体を流れる血液)」

2つのギリシャ語を合成して作られた言葉。

僕はこの香りと言葉がすごく好きだ。

雨自体は濡れるし、ジメジメするし、気分も落ちるからはっきり言って好きじゃない。

けれどそんな雨のおかげで植物は育つし、まわり回れば人間も雨の恩恵を受けて生きている。

そんな生命の息吹を感じるからか、
ただ雨が止んだ嬉しさを感じられるからか、
はたまた雨の前後にしか感じられない特別な香りだからか。

どれが理由は分からないし、全部かもしれないけれど、この香りを感じると僕はちょっと幸せになる。

ねぇ、ぺトリコールって知ってる?
「え、知らない」  君は言う
思わず会話の途中で君は笑う
フェイクワンダーランド 国道スロープ

Cody・Lee(李) 『drizzle』

昔、もっともっとフォロワーが少なくて、定期的に記事も書いていなかった頃、よく僕のnoteを見てくれていたフォロワーさんがいた。

もうその人はアカウントも消しちゃってるんだけど、当時、僕と同じくnoteで記事を書いていて、たまたま僕が読んだ記事でこの曲が紹介されていた。

どんな経緯で紹介されていた曲だったのか覚えていないけれど、なんでもない雨の日の日常を描いたこの曲は憂鬱な雨の日を楽しいものにしてくれる。

それから雨の日は思い出す度に、この曲を聴きながら帰っている。

歌詞に共感するような実体験はないし、元々知っていたアーティストでもないが、本当によく聴く。

そんなこんなでぺトリコールは僕にとって、不思議と縁を感じる言葉になっていったのだ。

駐車場に戻って車に乗ると、なんと涼しい。

さすがは「夏涼しいまち」。

獄炎と化した車内で空調が効くのを今か今かと待ち望むあの時間がないのは、少し寂しいような気もするけれど、勝浦特有の思い出ということにしておこう。

突然のモーニングコールから始まったドライブは、ヒグラシの声が消え、ぺトリコールを放つようになった勝浦の地を跡にして終わりを迎えた。

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