【思考】「働くとは?」と悩んだら読みたい本。安易な結論を提示しないからこそちゃんと向き合える:『おとなの進路教室』(山田ズーニー)
完全版はこちらからご覧いただけます
人生に悩んでいる人に読んでほしい、「働くとは?」「生きるとは?」を”共に問う”1冊
著者の来歴と本書のテーマについて
著者の山田ズーニーは、「文章を書く・直す」ことに関わる様々な仕事に携わっていますが、迷いながらキャリアを積み上げていった人でもあります。本書はそんな著者の経験や、著者が受けた相談などを踏まえた上で、「働くこと、生きていくことってどういうことだろうか?」をテーマに展開される、「ほぼ日刊イトイ新聞」内での連載をまとめた作品です。
著者はベネッセコーポレーションに16年勤め、小論文編集長も務めました。しかし38歳の時に、なんの当てもないままに退社し独立します。そこから、何をしたらいいのか、どう生きたらいいのかもがきながら、非常に人気を集める実績満載の講師になっていくのです。
本書はタイトルにもあるように「進路」を一つのキーワードにしています。学生時代にはよく耳にした言葉ですが、大人になると途端に聞かなくなりますよね。まるで「学生時代の様々な行動や決断によって『進路』は定まってしまったのだ」と言わんばかりです。
本書の『おとなの進路教室』というタイトルには、「大人になってからだって『進路』を考えたっていいでしょう」というような気分も込められているのだろうと感じました。
本書は、「まさに今悩んでいる」「どうしたらいいか分からなくて立ち止まっている」というような人に是非読んでほしい本ですが、その理由は、「答えを提示してくれるから」ではありません。
自己啓発的な本や文章に触れることがあまりないのであくまで印象でしかありませんが、多くの場合、「これが答えだ!」という風に分かりやすく結論が提示されているのだと思っています。しかし本書は、まったくそういうタイプの作品ではありません。
その辺りのことをもう少し掘り下げていきましょう。
寄り添って共に悩んでくれる本
この作品の一番の価値は、「著者が一緒に悩んでくれる」という点だと思っています。
本でもYoutubeでもなんでもいいのですが、「手っ取り早く答えを知りたい」という目的を持つ人は多いでしょう。それ自体は決して悪いことではないと思っています。技術の習得など、効率的であるに越したことはない事柄というのはたくさんありますし、試行錯誤が時間の無駄だと判断されるべき領域もあるはずです。
しかし、「人生」という非常に大きなテーマに対して、同じやり方をしてしまっていいものでしょうか?
私の個人的な意見ですが、判断や決断というのは、「試行錯誤にどれだけ時間を費やしてきたか」によって習熟度が変わる、と考えています。自分の頭で考えず、「これが正しいようだ」という情報だけで行動に移していては、いつまでたっても判断力・決断力は身についていかないでしょう。
自分がこれからどう進んでいくべきか、今何をすべきか、逆にすべきでないことは何か。これらは日々刻々と変化する状況に合わせて変わっていくものですし、変化する度に「答え」を教えてくれる人がいるはずもありません。
試行錯誤が無駄ではない領域は必ずあると思っていますし、まさに仕事や人生について考えることはそうだと言っていいでしょう。
だからこそ、「答え」だけ手に入れたいという発想では、状況は何も変わらないだろうと思います。
本書には、「答え」はありません。何があるのかと言えば、「ぐるぐると思い悩んでいる、著者自身の頭の中の思考」です。著者自身が「答え」を持たないまま、様々な「問題」に対して「悩んでいるその過程」を示す本だと言っていいでしょう。
これは、「答えを提示すること」よりも遥かに難しいと考えています。
自己啓発本などでは、「答え」にいかにたどり着いたかの説明が割とキレイに成されることが多いでしょう。実際には、その「答え」にたどり着いた本人も、様々に思考の寄り道をし、頭をぐるぐるさせたはずですが、それらが語られることはなかなかありません。
そもそも本人にしたって、その「ぐるぐるの過程」を上手く言語化できないでしょう。「答え」にたどり着いた時点から、そこまでの道のりを逆に辿ることはできても、「ぐるぐるの過程」の最中にそれを言語化するのはなかなか難しいだろうと思います。
しかし著者は、そんな難しい「ぐるぐるの過程」をきちんと言語化して見せてくれます。さすが、「文章を書く・直す」ことを生業とする人物だと言えるでしょう。
「答えに辿り着けていない『ぐるぐるの過程』」を知れる機会というのは、実はそう多くないと思います。どんな主張にも、どんな成果物にも、そこにたどり着くための試行錯誤があるはずですが、なかなかそこまで垣間見ることは難しいものです。
著者の「ぐるぐるの過程」を知ることで自分の頭の中が整理されることもあるでしょうし、「他の人もこんな風に悩んでるんだ」と安心できる可能性もあります。本書の一番の効用はこの点にあると言えるでしょう。
そしてそれを大前提とした上で、著者なりの思考や価値観の鋭さが光り、「なるほどこんな風にも考えられるのか」「その視点はなかった」という感覚を抱くことができるのも本書を勧める理由です。
「分かりにくい」からこそ価値がある
本書は決して「分かりやすい作品」ではありません。著者が言うように「さらさら読める文章でもありません」。それは、著者の「ぐるぐるの過程」に並走する形で、読者も一緒に考えながら読まなければならないからという理由もあります。
しかし他にも、こんな理由が挙げられるでしょう。著者は「言語化しにくいものにこそ目を向けている」のだと。
これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?