【危機】災害時、「普通の人々」は冷静に、「エリート」はパニックになる。イメージを覆す災害学の知見:『災害ユートピア』
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「災害学」の研究で明らかになった、「人々の行動」と「社会の変化」についての知見
本書は、「災害学」というあまり聞き慣れない学問についての本である。そんな本書の結論は、こんな一文で表現できるだろう。
これは、ステレオタイプ的に描かれる状況と大きく異なるものだ。映画などでは、何か大きな出来事が起こると、市民がパニックに陥り、エリートがそれを収拾するという展開となる。しかし実際には、その逆だというのである。
本書は、「災害時、人々はどう行動するか」について包括的に記された作品だ。著者が過去の様々な研究を渉猟したり、研究者にインタビューしたりした結果をまとめている。
本書は、研究者の手によるものという印象で、そんなにスラスラ読める作品ではない。私も、的確に内容を把握できたか自信のない箇所がある。そこでこの記事では、主に以下の3つについてだけ取り上げようと思う。
本書には「災害」を研究した様々な知見が含まれているので、気になる方は是非本書を読んでほしい。
普通の人々はパニックに陥らない
本書は、サンフランシスコやメキシコシティの大地震、ハリケーン・カトリーナやスリーマイル島の事故、そして9.11など様々な災害が取り上げられている。その際に、人々がどう行動したのかについての研究結果が元になっているというわけだ。本書は、日本語訳が2010年に発売され、その後「定本」として2020年に新たな版が発売されている。私が読んだのは2010年のものなので、当然、東日本大震災の話は含まれていない。2020年版に東日本大震災の研究結果が含まれているのか分からないが、いずれにせよ、いわゆる「大災害」と呼ばれるだろうものが取り上げられていると考えていいだろう。
そしてそれらの研究結果から、上述のような「普通の人々はパニックに陥らない」という結論が導かれているのである。
本書に登場するクアランテリという災害学者は、
という経験があるそうだ。そして最終的に自身の研究結果をこのように締めくくっている。
普通の人々はとても理性的に行動するというわけだ。
さて、本書のタイトルに「ユートピア」という単語が入っていることに違和感を覚えた人もいるかもしれない。私も、「災害」と「ユートピア」という単語の”結びつかなさ”が、本書を手に取るきっかけだった。しかしそれについては、大災害を経験した者たちの様々な証言を読むと理解できるかもしれない。
より力強く、こんな風に断言する者もいる。
東日本大震災の発生時、「日本ではこのような状況において、暴動も略奪も起こらない」と、海外メディアから称賛が集まった記憶がある。「日本人らしい、特異な行動だ」と。しかし本書を読むと、それが日本人に限った特殊さというわけではないと実感できる。大災害に直面すると、むしろ「人々は普段より良い行動を取る」とさえ言えるのだ。
何故そうなるのか。本書に書かれている結論を、ざっくりまとめると、「自身の存在意義が確認できるから」となるだろう。
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