【異常】「助けて」と言えない。自己責任社会のしんどさと、我が子がホームレスである可能性:『助けてと言えない』
完全版はこちらからご覧いただけます
自己責任社会がもたらした現実
異常な視聴率
この作品は、2009年に39歳の男性が餓死した事件をNHK北九州放送局が取材し、「クローズアップ現代」で放送された内容が元になっています。
そしてこの「クローズアップ現代」の視聴率が、凄かったのです。
当初取材班には、こんな疑問があったそうです。餓死した男性は、どうして自分の窮状を周囲に相談しなかったのだろうか、と。男性は人付き合いが悪かったわけではなく、餓死する数ヶ月前まではきちんと働いてもいました。そんな人物がどうして? という疑問から取材が始まったのです。
ここに、取材班の驚きの要因があります。
取材を始める前は、「この男性の行動は自分たちには理解できない。だから他の人にも理解できないだろう」と考えていたということでしょう。もちろん彼らは、取材をする過程で様々な現実を知り、考えが変わっていきます。しかしそれでも、「放送後の圧倒的な共感」は意外だったのでしょう。
また予想外だったことはそれだけではありません。この共感が女性にも広がっていたことに、取材班は驚いたといいます。
こんな風にして取材班は、思ってもみなかった形で、現実社会を強く浮かび上がらせる切り口を見つけることになりました。
助けてと言えない若者
取材によって明らかになったことは、「若い世代のホームレスが増えていること」「若い世代のホームレスは助けを求めないこと」でした。
炊き出しのボランティアなどを行うNPOの代表者も、この現実に戸惑っています。「相談してみないか?」と声を掛けても反応がなく、親にも話していないというケースも多いと言います。だから、自分が知らないところで自分の子どもが実はホームレスになっていた、なんていう可能性も充分にあるわけです。
何故若者は助けを求めないのか。そこには、彼らなりの矜持があります。彼らは、「自分がホームレスに見られないこと」に生活の力点を置いているのです。
こんな価値観が生まれるのには、社会の変化も大きく関係しています。
以前テレビで、「日本の貧困は見えにくくなった」という話題を取り上げていました。今の日本では、ファストファッションやファストフードなどが多く存在し、あまりお金を掛けずともそこそこの身なり、生活ができるようになっています。以前であれば、「つぎはぎだらけの服」や「食べるものがなくてお腹を空かせている」など、外から見て貧困であると分かりました。しかし今は、外見や立ち居振る舞いからだけでは、貧困かどうか見分けがつかなくなっている、というのです。
これと同じことは、ホームレスにも当てはまります。漫画喫茶に泊まり、食事は安く済ませ、コインランドリーで洗濯をすれば、定住できる家が無くてもそれなりに身ぎれいに生活できてしまいます。そして、それが可能な社会になっているからこそ、若いホームレスは「ホームレスに見られないこと」に気を配るのでしょう。その意識が、ホームレスとして支援を受けることの妨げにもなっているのではないか、と指摘します。
自己責任社会の辛さ
しかしそれ以上に辛いのは、やはり、「自己責任」を突きつけてくる社会でしょう。
これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?