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【あらすじ】蝦夷地の歴史と英雄・阿弖流為を描く高橋克彦の超大作小説『火怨』は全人類必読の超傑作

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死ぬまでに絶対に読んだ方がいいと断言できる、英雄・阿弖流為を描く高橋克彦の超傑作『火怨』の凄まじさ

なるべくこういう安易な表現は使わないようにしているのだが、この作品についてはこう言わざるを得ない。死ぬまでに絶対に読んだ方がいい1冊だと。これほどの物語に浸れる経験など、そうそう得られないだろう。

先に書いておくと、私は「歴史小説」が得意ではない。元々理系の人間だということもあり、そもそも歴史の授業は何よりも一番嫌いだった。年号や人物名はほぼ覚えていないし、「普通の日本人ならこの程度の歴史の知識は持っているだろう」という最低限のレベルにさえ達していないはずだ。この「知識不足」は、歴史モノの小説を読む際にはかなりの障害となる。

さらに本書は、上下巻合わせて1000ページを超える、とんでもない大作なのだ。本書の存在は昔から知っていたし、傑作だという評判も聞いてはいたのだが、歴史に対する苦手意識と、物語の長大さに、なかなか手を伸ばせないでいたのである。

手に取るきっかけになったのは、短い機関ながら東北地方に移り住んだことだ。『火怨』の舞台となる「蝦夷地」は、今の東北・北海道のことである。著者の高橋克彦も東北出身であり、私が働いていた書店でも、地元作家として強く推し出していた。恐らくだが、東北に住むことがなければ、今も『火怨』を読んでいなかっただろうと思う。

読んでみて驚いた。本当に、とんでもない小説だったのだ。私はこれまでに、4000冊近くの本を読んできた。小説以外の本も多く読むので、半分が小説だとして2000冊だ。その中でも、間違いなくトップ10には入る作品だと言っていい。凄かった。歴史が嫌いで苦手だという人間をここまで震わせるのだ。当たり前のように歴史に関心を持てる人なら、もっと衝撃が強いのではないかと思う。大げさではなく、ページをめくる手を止めることができなかった。

人生のどこかで是非、『火怨』と出会ってほしいと思う。

酷い扱いにさらされ続けた蝦夷の民が置かれた状況と、彼らが挑んだ無謀な闘い

物語の舞台は西暦700年代、奈良時代である。710年に奈良に平城京が築かれて以降の東北地方の物語だ。

当時は「陸奥」と呼ばれていた地だったが、「蝦夷」という蔑称も存在した。都がある奈良からは、陸奥はあまりにも遠い。だからこそ当時の朝廷は、「陸奥に住む者は人間ではなく獣」だと考えて、その存在を蔑ろにしていたのである。

その事実は、「蝦夷」という蔑称で呼ばれた地に暮らす者たちにもプラスに働いていた。蔑まれていたからこそ関心が向けられることもなく、朝廷やら貴族やら政治やらと関わらずに平穏な日々を送ることが出来ていたからだ。

しかし749年に状況は大きく変わる。多賀城に近い小田郡で黄金が見つかったのだ。この黄金を奪うために、朝廷は蝦夷を攻め落とそうとする。そして、そんな朝廷の侵略から土地を守る民たちの物語というわけだ。

蝦夷の者たちに突きつけられた現実は、あまりに厳しかった。

蝦夷が勝つ策はたった一つ。一度たりとも敗けぬことです。それも十年やそこらではとても足りますまい。五十年、いや百年を敗けぬことで、朝廷も陸奥から手を引きましょう。

悲壮な覚悟を抱いて、彼らは目の前の現実に立ち向かった。実際のところ、蝦夷の者たちにとって「黄金」など何の価値もない。しかしだからと言って、闘いを諦めるわけにはいかなかった。

黄金や土地を守るだけの戦さであるなら俺も首を横に振る。しかし、蝦夷の心を守る戦さとなればこの身を捧げてもいい。

朝廷から「獣」だと思われていようが、彼らにも彼らなりの矜持がある。黄金が出たから寄越しなさいと言われて「はいそうですか」と返せるはずもないだろう。これは、人間の尊厳なのだからだ。蔑まれてきた者たちが、蔑まれ続けることを拒絶するために闘いに挑むのである。

敵はほとんどが無理に徴収された兵ばかりで志など持っておらぬ。我ら蝦夷とは違う。我らは皆、親や子や美しい山や空のために戦っている。

私たちは、ロシアとウクライナが戦争の只中にある世界を生きている。そして、朝廷と蝦夷の民の闘いはまさに、ロシアとウクライナの闘いの構図を連想させるだろう。ロシアと朝廷は、一握りの人間しか闘う意志を持っていない。寄せ集めの兵に無理やり戦わせているだけだ。一方、ウクライナと蝦夷の民は、大切なものを守るという強い意思を共有する者たちが一丸となって立ち向かっている。その団結力は圧倒的だ。結局のところ、愚かな為政者のやることも、愚かな為政者に振り回される者たちの悲哀も、時代に依らず大差ないのである。

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