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【note詩】偉人 ~手取りを数える君のために~

号外がざわめく日暮れどき
わが国の誇る
世界的なプロ野球選手が
偉業を更新したとかで

帰宅途中の人々は
立ち止まることもなく
互いに交わることもなく
それでも1枚の新聞をしかと受け取って
足早に去って行く

「偉人」という肩書きを名乗るため
生まれてきたかのような大スターに
人々が贈る賛辞

偉いなぁ
凄いなぁ
天才は違うんだよね
わたしのような凡人は驚きあきれるばかりだよ

いやいや本当に
そうだろうか

確かに大スターは
偉いのだろう
凄いのだろう
人一倍どころか億倍は努力して
泥にまみれた顔は一切みせず
常に世界の希望であろうとする姿は
英雄に他ならない

しかし賛辞を贈る君よ
今日を振り返って卑屈に笑ってはいけない
大スターとわが身を比べながら
値引きの総菜パックのフタをあけるとき
寂しい音を響かせてはいけない

手取り10万を切るときも
ささやかな夕餉を楽しむ暮らしを揺さぶるように
上がって上がって水道電気光熱費
あれよあれよと言う暇もなく
保険料という年貢がゴソリと奪われて

それでも君は
泣き顔なんてみせたりしない
本日の勝負服を着て
自らの足で満員電車の地獄に乗り込めば
減っていく手取りをさらに取り崩し
せめてお腹は冷えないよう
生活を消費していく

貯金と投資にこれくらい残しても
心までは消費されないよう
中古の本とシングルまで手に入ったら
見事な満塁ホームラン

このままでいいのか
なんて 分かるわけがない
それでも確かに言えること

「偉人」という言葉は
君のためにある
自分の消費に涙をのんでも
誰かの消費は支えつづけて
手取りを数える君のために

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