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「え?」 それはいささか意外な問いかけだった。何とか食い下がろうとしているのではなく、女…
「ああ、話にならない」私は言った。「ねえ、もうそもそもの話なんですが、私はこれ何の抽選な…
世話になったスタッフに礼を言って外に出ると、日が沈む前の一時だけに吹き渡る爽やかな風が青…
「いやいやちょっと、自分で歩けますから。こういうのはさすがにまずいと思いますよ。このご時…
「宮本さんね」声を掛けられた職員はこちらを見もせずに言った。「そういう態度はね、都会では…
私はそれを拾い上げた。職員たちが気付いている様子はない。今更これのせいで会が長引くのは嫌…
だが私の視界の片隅で、老婆は必死の懇願を続けた。痺れを切らして私は言った。 「……どうされたいんですか?」 その時、常にちらちらとこちらをマークしていた消毒液係がいきなり叫んだ。 「宮本さん!」 「え、私ですか?」 問いかけに答えることなく消毒液係が私を睨んでいる。一瞬、なぜ名前を知っているのだろうと思ったが、そうだ、私の個人情報を私以上に把握しているのはまさにこの連中なのだった。 「――静かにしてください」消毒液係が冷ややかに言った。 「は? してますけど」 ぶ
しかしそれは何だ? 町内会の役員決めみたいなものだろうか? でもそれくらいのことであんな…
「……場の空気を乱すからです」 私を見据えたまま相手はそう言ったが、出てきた言葉は何か必…
ははあ、これはあれだな。母数の多かった時代からやり方を変えていないからこんなことになって…
「すいません」と私は呟いた。だが消毒液係は敵意を込めた視線を尚もそらそうとしない。「すい…
「では――始めます」 愛想は極限まで出し渋ること、という教えでもあるのか、若い女の職員は…
そもそも何の集まりかも分からない。葉書には「抽選会のお知らせ」という表題の下、型通りの時…
彼は空っぽの甲板を凝視し続けていた。その間に巨大船は徐々に遠ざかっていったが、微動だにせず一点のみを見つめていた彼がそのことに気付いたのは、既にずいぶん離れてしまった後のことだった。圧し掛かるような存在感で視野が塞がれていたために、頭上が黒い雲で覆われていることにも、横殴りの雨に打たれていることにも彼は気が付かなかった。その時、彼はぐらりと傾いた。彼の小船は今、荒れ狂う大波に飲み込まれるところだった。【終】