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抽選会 2

「では――始めます」

愛想は極限まで出し渋ること、という教えでもあるのか、若い女の職員は露骨に不機嫌な態度で言った。そちらの都合で集めた人達の前でよくそんな仏頂面ができるものだ、と私はそのことに気を取られていたが、その言葉で周囲には俄かに緊張が走り、野犬のような隣の男性までもが背筋を正すのが分かった。

手にしたマイクのハウリングを調整するという気遣いもないまま、女の職員は一つ目の木箱の前に移動すると、中から何かを取り出した。使い込んで黒ずんだ蒲鉾板のような木片がちらりと見えた。女はそれを目の高さで近付けたり、傾けたりしながら、暗号を読み取るかのように言った。

「5……8」

ホワイトボードの前に待機していた年配の職員が、ボードの左端にその二桁の数字を書き込んだ。溜息が空気の塊となって座っている人々から一斉に吐き出される。女はそんな人々に軽蔑するような眼差しを向け、さらに隣の箱の前に立った。

「23」

年配の職員が今度はボードの右端にその数字を書き込んだ。

「5823。5823。いらっしゃいませんか。5823。お手元の葉書をご確認下さい」

場内がざわめいた。隣の上品な老婆も身を乗り出してホワイトボードの数字と自分の葉書とを見比べている。

「いらっしゃいませんか――いらっしゃいませんか」

かすれがちなマイクの声に答える者はいない。人々は張りつめていたものがふっと緩んだかのように、それぞれに笑顔を見せながら近くの人と話し合っている。とその時、マイクを通さないくぐもった大声が体育館内に響いた。

「静かにしてください! コロナウイルス厳重警戒中です!」

消毒液係の怒気を含んだ一言で、会場は水を打ったように静かになった。全員が全員、自分が怒鳴られたかのようにシュンとしている。気まずい空気が流れる。その時、一人だけきょろきょろしている隣の老婆の困惑した様子に気が付いた。

「……ごめんなさいね、目も悪いのよ」

老婆は私にそう言うと、申し訳なさそうに自分の葉書を見せた。そこには7735という数字が書かれていた。

「違いますよ」

私は小声でそう言いながら、大きく手を振って見せた。老婆はほっとしたように微笑むと頭を下げた。

「お静かにお願いいたします!」

消毒液係がこちらを睨みながら声を張り上げた。会場中の叱責するような視線が一斉にこちらへ向けられた。

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