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絶好調?いえ、躁状態の過活動

全部やりたい!全力投球!

るりが、異様な眠気を感じるようになった頃、もう一つの変化があらわれました。それは、たくさんの活動に精力的に全力投球する様子です。

高校の文化祭では、クラスの出し物のリーダー、社会系研究と文芸の2冊の雑誌の執筆と制作の統括、ダンスパフォーマンスの四つを掛け持ちしました。

学外でも、政治啓発を目的とする大学生主体の学生団体に所属し、るりが唯一の高校生メンバーであったにも関わらず、支部長に立候補して就任しました。それからは、各政党の政策比較や、若者が選挙に行くよう促す活動や、新入会員の勧誘などに熱心に取り組んでいました。

また、不登校の子どもたちなどが通うフリースクールに自ら履歴書を送って働かせてほしいと願い出て、ボランティアに行くようになりました。

「将来は、生きづらさを抱えている子どもの支援の仕事につきたい。そのためには、子どもの心理や社会福祉、政治改革など多角的に学びたい。」と言っていました。

るりは都内でも有数の進学校に通っていたのですが、勉強も頑張り、常にクラスで2、3番ぐらいの成績をキープしていました。また、アメリカの大学への進学を目指すことを決め、英語のレッスンを週に3回ぐらい入れ、数ヶ月間で英語力を英検1級並みにまで伸ばしました。海外留学塾にも入りました。アメリカの大学に出願するには願書に課外活動や受賞歴などを10個書かなければいけないことがわかり、小論文コンクールなどにも応募するようになりました。この記事のカバー写真は、予定が詰まったるりの手帳です。

交友関係も広く、学校では積極的に知り合いを増やし、学年の半分ぐらいの生徒とは友達になった、後輩にも結構慕われているんだよと自慢していました。

これだけ聞くと、なんて意欲的な学生なんだ!と思われるかもしれません。実際、るりは周りから頑張り屋の優等生に見えていて、本人もそういう自己認識だったと思います。私も、無茶してる気もするけれど、若いから色々やりたいのかなーとしか思っていませんでした。学校も、勉強と課外活動を両立させることを推奨していて、多数の活動を掛け持ちすることはいいことだというような風潮がありました。

すごい頑張りは、病気だった

ただ、こうした一見、輝かしい活動は、のちのち、主治医から、双極性障害(躁鬱病)の「軽躁状態」による、「過活動」だったと診断されました。

双極性障害には1型と2型があります。1型は、誰が見ても異常な躁状態を伴うもので、浪費して借金するとか、性的逸脱行為をするなどが典型例です。無分別となり、周囲にも迷惑をかけます。

2型は、それより軽い躁状態を伴うものなのですが、意欲的、創造的に仕事や勉強(目的指向型の活動)に打ち込むことがあります。その様子は異常には見えず、周囲にも迷惑はかけません。むしろ「最近頑張ってるね、絶好調だね!」と言われ、本人もそう思うことが多いようです。るりの活躍ぶりは、病的なエネルギーの前借りだったのです。

この時期に、活動しすぎでおかしいと、私が気づいていれば。るりは小さい頃から体力がなく、体調を崩しやすかったのに、「高校生になって心身ともに強くなったなあ、若いから無茶できるエネルギーがあるのね」と呑気に思ってしまいました。

過剰適応のひずみ?

むしろ、アメリカの大学進学を目指したことで、出願のためにより英語の勉強や多くの課外活動をしなければいけなくなり、過活動に拍車をかけてしまいました。それぞれの活動はるり本人の意思で取り組んだものでしたが、るりは私や周囲の期待を感じ取り「過剰適応」してしまったのか、頑張りすぎてしまいました。

将来の機会を広げるために留学や頑張りを応援したいという私の気持ちは、当時は親心だと思っていましたが、子どもに優秀でいてほしいという私のエゴだったのでしょうか。今となっては、自問自答する毎日です。逆にるりに無理をさせ、健康を害する方向に働いてしまったことがとても辛いです。

健康的な頑張りと軽躁の違い

私はすぐそばにいながら、健康的な頑張りと病的な軽躁状態の違いを見分けることができませんでした。実際、双極性障害2型の患者は、軽躁状態の時に病気に気づくことは稀で、鬱になって初めて調子がおかしいと思うことが多いようです。ただ、担任の先生には、後から振り返って、「複数の活動に取り組む生徒は多数いるが、普通は、強弱をつけてどこかで手を抜く。けれど、るりさんはすべて全力投球でやっていた」と言われました。

また、軽躁状態の時の「アクティブな頑張る自分」が自己像になってしまったことで、軽躁期の次にやってきた鬱期に何もできなくなった際に落差が激しく、より辛く感じてしまったようです。

本当の自分がわからなくなる双極性障害

るりは自己紹介でこのように書いています。
「以前は結構外交的というか、積極的なタイプでした。
文化祭実行委員をやったり、メンバーを集めて雑誌を作ったり。
今はちょっと苦手になっちゃってますが、本来はそういうワイワイしたことも好きです。」

軽躁状態の自分と、鬱の自分。
双極性障害は、自分が両極端な方向に振り子のように揺れ、どれが本当の自分だかわからなくなってしまう辛い病気です。

とても頑張っているお子さんがいたら、周りの大人は、過度に頑張っていないかという目でも見ていただければと思います。病気なら、気づいてあげて。

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