かをりに耳をかたむける「聞香会」~ほわっと微かな温かみ、立ち昇る香り…小さな香木が奏でる世界
さまざまな香木を聞き比べする
「聞香会」へ参加いたしました。
今回は
じっさいに香木を聞くようすを
記したいと思います。
「佐曾羅の会」のメニューは7つ+1
メニューにある7つの香木に加え
「春の暁」を合わせた8種を聞き比べました。
かたまりのままの香木を2種眺め
2種聞香する
香木は聞香するときに
(香りを楽しむときに)
4×4mmほどの大きさに切り取ります。
切り取る(截香)まえの香木を
じっくりと眺め、
同じ香木を今度は聞香します。
2種類ずつだったので
分かりやすかったです。
聞香の温度は思いのほか低く
お湯より少し熱いくらい
聞香の温度は100~115℃でした。
お香やお線香の燃焼部分は
700~800℃です。
かなり違うのですね!
聞香会では
温度を一定に保てる
電子香炉が用いられました。
はじめて聞く香木の香り
山田会長が香炉に置いた
銀葉の温度を測り
香木を置いて渡してくださいます。
いちばん初めに手渡されたのは
賢章院さんの愛蔵の香木でした。
そうっと香炉を左手に取り
右手でおおって
親指と人差し指の間から香りを聞きます。
…ほわっとやさしい
あたたかさと共に
そっと扉を開けるように香りが入ってきました。
キツがまったくない、おだやかな香り。
「ああ、素敵。うれしい」と感じ
次の方へお渡ししました。
「3回くらい聞いて良いのよ」
一度聞いて
すぐに次の方へお渡ししたので
斜め前に座った方が教えてくださいました。
皆さんのようすを見ていると
ゆっくりと3度ほど聞いておられます。
香炉は奥の席まで回ると
また戻ってきます。
戻ってきたとき
今度はゆっくり、3回聞きました。
はじめに聞く香りと
戻ってきたときの香りは変わります
「香木のお写真を撮っても良いですか?」と
山田会長にお聞きしたとき
「撮っても良いですが
香炉が回ってきたら香炉を優先してください。」
と教えてくださいました。
香りが変化するからですね。
ずっと香っている香木もある
温度が低いとは言っても
100℃ほどで温める香木。
樹脂が溶けだすものもあります。
香木を聞いたあと
「溶け出た樹脂分だけ」を
聞かせていただきました。
樹脂分のみでもはっきりと香り、
香炉が帰って来てからも(時間が経過しても)
輝くように香りを放っていました。
名香は蚊の脚の先ほどでも香る
山田会長のお話によると
「名香」と呼ばれるものは
ほんの少しでも香るそうです。
貴重な香木は
小さく割るそうですが
「蚊の脚の先くらい」の
細い筋一本を焚いても存在感があるそうです。
「惜しむ心」は
ある藩のご家老が所有なさっていたそうです。
割ったり、聞いたりした跡が
一切ないそうです。
「もったいなかったですね。」
「おかげで現代の私たちが(聞ける)恩恵にあずかれるのですが。」
「古人が聞いていたら名香になっていましたね。」
と山田会長がくりかえしおっしゃられていました。
香木店としても ‶ 売るのが惜しい ″ とのことで
「惜しむ心」と仮名を付けたそうです。
惜しいのに厚切りカット
「惜しむ心」は
‶ 香木のトップ ″ 伽羅(きゃら)に似た香りだそうです。
聞香会で聞いた「惜しむ心」は
厚めに割られていました。
そのせいか
いつまでも香り
「まだ状態が良いから、もう一度回しましょう。」と
何度も堪能しました。
向かいの席の方が
「惜しいのに、
厚く切ってもったいなかったですね。」
「香りがある間、ずっと楽しんでいたら
夜になっても帰れませんね。」とおっしゃいました。
聞香したあとの香木はどうなるの?
これほどまでに香ってくれる香木。
焚いたあとはどうなるの?と思い
質問させていただきました。
分類して保管するそうです。
香炉にのせればまだ香るので
スタッフの勉強会につかう、とのことでした。
長い年月をかけ、
突然変異のようなかたちで
出来た香木。
大切に受け継がれてきたものを
ほんのひとかけらも無駄にしないことが分かりました。
例えようのない香木の香り
さて。
香木の香り、ですが
「何とも例えられない」のです。
世の中にはたくさんの「香りもの」があります。
香水、アロマオイル、ドライハーブ、
ルームスプレー、柔軟剤…
現代、多く用いられる「合成香料」と
香木はまるで違う、ということは
お分かりいただけると思います。
アロマオイルなどの「天然香料」と香木も
まるで違いました。
今回聞いたなかに
「白檀」がありました。
(軒の橘・インド産白檀)
白檀は有名な香りです。
白檀のアロマオイルは持っています。
アロマオイルの白檀は
シャープに嗅覚を刺激する感じです。
強さもあります。
香木として聞く白檀は
さまざまな印象の香りが
混じり合いながら
やわらかく入ってくる感じでした。
佐曾羅の酸味を感じる
佐曽羅は
清涼感のある酸味が特徴の香木です。
「酸味の香りって、どんなものだろう」と
思っていました。
「軒の橘」を聞いたとき
(あ、酸味!)と分かり
とてもうれしくなりました。
脳の中心まで、深くリラックスする感覚
8種の香木を2~3回ずつ聞かせていただきました。
ぜんぶで20回ほど、聞いたと思います。
香木の香りのよさと
「良い香りのみで構成されている」という安心感。
香りが身体の隅々までいきわたるよう
深く聞きました。
そのせいか
夜は早めの時間に眠くなり
熟睡できました。
ふだんは眠りに苦手意識があるのに、です。
香りの余韻は翌日までのこり
ふとした瞬間に「きのう聞いた香木の香り」が漂うようでした。
「日本人でよかった」と肚落ちした瞬間
香道は日本独自のものです。
諸外国にも香木をつかう風習があります。
たとえば、中東での香木の使い方は
原木のまま火にくべて燃やす、というような
使い方をします。
小さく端正に切りそろえた香木を
じっくりと聞く。
香炉を回すときに
相手に正面をむけて渡す。
香木を見るときも
相手に見やすいよう正面をむけてお渡ししました。
周りのお席の方々は
香道を学んでいる方が多いようでした。
わたしはお作法を知らないかわりに
香炉や香木をできるだけ丁寧に扱うよう気を付けました。
そっと置く。
次の方が手に取りやすい場所に丁寧に置く。
指先に神経をむけていくうちに
こういった細やかな心遣いが
日本人なんだ。
消えてなくなる香りに
心をとぎすませて
じっくりと味わう感性があるんだ。
日本人で良かった。
そう、肚落ちしました。
「思った」のではなくて「分かった」のです。
ほんとうにうれしい体感でした。
あとがき
本記事に掲載した香木以外のお写真は
香雅堂さまHPよりおかりしたものです。
掲載の許可をいただきまして
ありがとうございました。
長い記事となりました。
前回の記事を書いて満足していましたが
「続きが読みたい」と伝えてくださる方もあり
なんとか書き上げることができました。
ありがとうございます。
聞香会は
ゆったりとした雰囲気の中
山田会長をはじめ
参加者のみなさまのお優しさにつつまれて
たのしく過ごすことができました。
その節はありがとうございました。
聞香会で聞いた
興味深いおはなしをいくつか並べて
本記事はおしまいといたします。
聞香会の疑似体験をするには
「聞香会セット」香木があります。
こちらの香木と電子香炉で
本記事の聞香会を疑似体験できます。
(狭衣・春の暁をのぞく)
香りと湿度について
聞香会のお部屋は
26.5℃
湿度 59% でした。
湿度が高いほうが香るそうです。
では、湿度が低い場所
たとえばフランスで焚くとどうなるのでしょう。
山田会長にお聞きしたところ
「フランスで聞香会セットをつかい
香りを楽しんでいる方がいる」とのことでした。
日本でいちばん有名な香木、蘭奢待について
正倉院の宝物、蘭奢待。
織田信長が切り取らせたエピソードが有名です。
ガスクロマトグラフィー質量分析法での
調査がはじまるそうです。
蘭奢待は「黄熟香」。
比較のために香雅堂で所有する黄熟香を
サンプル提供されたそうです。
お読みくださり、ありがとうございました。
ご感想をいただけたら
とっても嬉しいです。