子供のためのオランジュリー美術館(170)子供の気持ち/ルソー、いろんな事情・中世をモダンに
赤いドレスに水玉の少女は何を見ているのでしょう。
憂うつで心配そうな目。
子供の世界はそんな楽しくも、のんきでもないのよ。いろいろと。
ルソーは、青空とたくさんのお花がある芝生の前にかたまっている、たくましい足の女の子を描きました。
緑の芝生には、むかしむかしに作られたタペストリーのように
丁寧に描いたお花でいっぱい。
なのに、ひとりぼっちで、ちょっとびっくりの変な絵。首はないし足だけが横向いてるし。
ルソーは、まわりの新しい時代の画家が描いている、本物そっくりのかわいい子供は描きません。
むかしむかしの画家が描いたような描きかたで、謎に包まれた子供の真剣な顔。
だって、子供の世界は、まったく不思議で堂々としてて
ぜんぜんわからない魅力にあふれてて
どんな山でもへっちゃら。らくらく世界をまたにかけちゃうし。
こんなルソーの絵は、ピカソにも強いインスピレーションを与えました。
ピカソのひとりぼっちの女の子は 人形と静かに話をしているところだけど、
ピカソのもやっぱり、おもしろい顔だね。
HENRI ROUSSEAU, DIT LE DOUANIER
L'Enfant à la poupée Vers 1904-1905
アンリ・ルソー
人形を抱く子供 1904〜1905
DAME À LA LICORNE
Tapisserie, Haute lisse Laine, Soie 1500
musée de Cluny, musée national du Moyen Âge
貴婦人と一角獣 1500
タピスリー
クリュニー国立中世美術館
Peintre anonyme de l'entourage de Duccio
Vierge et l'Enfant Vers 1285.
Tempera et or sur bois
ドゥッチョ側近の匿名画家
聖母子 1285
ルーブル美術館 木にテンペラと金
Pour fêter le bébé ! 1903
Musée des Beaux-Arts de Winterthour
アンリ・ルソー
赤ちゃんのお祝いに! 1903
L'Enfant aux rochers 1895-97
la National Gallery of Art, ワシントン
アンリ・ルソー
岩の上の子供 1895-97
お読みいただきありがとうございました。
アンリ・ルソー、当時のフランスの嘲笑と批判と同様の、間違い探しをするおもしろおかしい楽しみ方が日本でも人気があるようですね。どちらにしても、中世の美をモダンに再現してその自信が揺るぎないからこそ画風を変えないパワー、夢のような神秘的な力を感じていただけたら嬉しいです。
子供のようなルソー、ピカソがその見かけの単純さ素朴さに圧倒され「子供のように絵を描く方法を知るために、私は生涯をかけてきた」と言わしめたように、ルソーの絵は圧倒的な真実を見せています。
最後にアポリネールの当時の一節を。
「生涯でルソーほど嘲笑された芸術家はほとんどいない。この礼儀正しい老人は、常に変わらぬ平静さを保ち、幸運なことに、自分に対して最も悪意のある人々が、自分の作品に何らかの形で示さざるを得ない関心をまさに嘲笑の中に見出そうとした。もちろん、この穏やかさはプライド以外の何ものでもなかった。ルソーは自分の強さを自覚していた。一度や二度、「自分は当代最強の画家だ」と言い逃れたこともあった。だがそれは、多くの点で大きくは間違っていなかった可能性がある」ギョーム・アポリネール
参考 彩色写本 共通する陰影、モチーフ草花、遠近感 (ルーブル美術館企画展)