子供のためのルーブル美術館(162)鏡にうつるものはなに?/ベネチアとオランダの鏡の不思議・ティツィアーノ
ベネチアの色
イタリアの画家ティツィアーノは、おおらかでどっしり調和のとれた絵を描きました。そして自然なやわらかい色で、絵のなかに溶けこんでいくような人を描いたのです。
フィレンツェに住む画家は線を大事に絵を描きましたが、ティツィアーノは、何より色で表現しようとするベネチア近代絵画の代表でした。
ふんわりと柔らかな髪の毛、細かく丁寧に描かれたブラウスのギャザーとたっぷりしたおしゃれな袖、
胸もとの肌のあわいピンクが、暗い部屋から浮き出てくるようです。
実はこの絵には、2枚の鏡があるのに気がつきましたか?
後ろの大きい鏡と、
左側の小さい鏡。
「うしろの髪、きれいになっているかしら?」
この女性は、自分の前にある小さい鏡に後ろ姿をうつして見ているところなのです。
フランドルの鏡とティツィアーノの鏡
この時代から80年くらい前、オランダのフランドル絵画では絵の中に、小さくてふくらんだ鏡が描かれるようになりました。
初めて鏡を絵の中に描いたのは、有名なヤン・ファン・エイク。部屋の奥のほうの壁にかけてありました。
マサイスの絵にも、机の上にちょこんと小さい鏡が置いてありました。
「フランドルの鏡」と呼ばれるオランダの絵に出てくる鏡は、後ろ姿や、部屋の向こう側の人、窓の外まで鏡にうつって、
部屋の中をぐるっと見わたすことができるようです。
ところが、それに比べると、イタリアのティツィアーノの鏡は何がうつっているのか、暗くて全然見えません。
でも、よくよく見ると、
あの白く光っているのは窓の光。
ほのかに暗闇にうつし出された後ろ姿や髪の毛が、だんだん見えてきました!
まるで2枚の鏡で見ているような感じがしてこない?
透明な肌の美しいこと!ティツィアーノが描いた暗い鏡のひと塗りの光は、この女性をますます輝いて見せたのです。
Tiziano Vecellio, dit TITIEN
La Femme au miroir vers 1515
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ(チシアン)
鏡の前の女 1515頃
Jan van Eyck
Les Époux Arnolfini 1434
ヤン・ファン・エイク
アルノルフィーニ夫妻像 1434 (今回は部分)
Quentin METSYS
Le Changeur et sa femme 1514
クエンティン・マサイス
両替商とその妻 1514 (今回は部分)
お読みいただきありがとうございました。
この美しい女性には、ルーブル美術館モナ・リザのすぐ横で会えます。
ティツィアーノ通称チシアンは多くの画家の憧れ。その実力はヨーロッパ中で賞賛されました。特にその色彩に影響を受けたルーベンス。ヴァン・ダイク、プッサン、ワトー、ベラスケス、レンブラント、ドラクロワ、などなど一度は聞いたことがある巨匠と言われる画家たちが皆、チシアンの影響を受けました。1802年、できたばかりのルーブル美術館でターナーもこの鏡の女性を見て「自然な色彩を表現する驚くべき能力の手本だ」と記し、模写した絵を残しています。(印象派の画家たちもコピーして練習しました)
フランドル絵画の凸版鏡の効果、おもしろいですよね。また改めて。
クリスマスも近く、コンコルド広場が🎄もみの木の匂いでいっぱいになりました。ここに飾り付けは初めてでびっくり🫢オリンピック効果でしょうか。今年のパリは華やかです。
冷え込む毎日、皆様どうぞお大事にお過ごしください。