【イタリア日記①】2024年9月(1~10日)
初☆タトゥー すげえ楽しみ 九月かな (L.)
こながつき 収穫を待つ 葡萄かな (A.)
(季語:九月/長月[秋])
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・事件等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
プロローグ 男もすなる日記といふものを
わたしの名前はロリー。いまさら遅いかもしれないけれど、16歳おとめ座の女の子よ。身長は157cmで、体重はヒ・ミ・ツ! 一人称を「わたし」で書き始めてみたものの、本当は僕っ子なの♡ 男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするナリ☆
わたしは紀貫之がいけ好かないの。地頭がよくて、和歌や漢詩ができて、『古今和歌集』の選者で(なんだあの仮名序、かっこよすぎるだろ)、三十六歌仙のひとり。そのうえ仮名で書かれた最古の日記の作者だなんて、本当にムカつくわ。だから僕は、人知れず今回の「イタリア滞在記」で『土佐日記』に挑戦することにした。
もちろん和歌や漢詩では足元にも及ばないが、こちらにだって勝機はある。僕にできてやつにできないこと。それはイタリア語詩だ。イタリア語詩だったら紀貫之に勝てる!
イタリア語詩は素晴らしい。力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女のなかをもやはらげ、猛き武士の心をもなぐさむる!
...というわけで、これはダンテに和歌や漢詩で挑む戦いの前哨戦だ。
とりま飛行機でイタリアに移り、その後の様子を少しばかり書きつけることにする。
それでは、『イタリア日記』のはじまり、はじまり。
海の原 波の間に見し 月なれど
常に寄り添い 僕と旅する
2024年8月31日(土)
横浜の自宅にて執筆
1日(日) 新車購入
わたしはまだ日本にいます。それにもかかわらず、すでに事件が起こりました。
イタリアでは、わたしは両親は違えど姉同然のアンと一緒に暮らしています。なんと、そのアンが新しい車を買ったのです! しかも、"新しい中古" じゃなくて、ガチの新車!
今月末に手元に届くんだって。だから、僕が向こうに着いてから1か月弱はアルファロメオを乗り回し、そのあとルノーに乗り換えることになる。
俺っ子のアンは、「父さんが全額出してくれると思っていたのに、結局半分は俺が払うことになったんだ」と、少し不満げ。でも、「アルファは知り合いに売るから、それまで思う存分運転していいよ」と、わたしに言いました。すげぇ楽しみ!
中古車は 問題だらけ 最初から
壊れてたって 問題ねぇよな!
9月1日(日)
横浜の自宅にて執筆
2日(月) 愛しのラップトップ
今日もわたしは日本にいます。でも、パッキングを終えてしまったため、ラップトップはバックパック、マウスとバッテリーはスーツケースの中。PCを失ったわたしは、翼を失くした鳥のようなものです。スマホで文章書くの、ガチでダルい。
あれやこれ 行きも帰りも 分けて入れ
出すに出せない ノートPC
日本へ帰国する日の日記も、スマホで書くのでしょうね...
2日(月)
横浜の自宅にて執筆
3日(火) イタリアに到着
やっとイタリアに着きました。ローマ発ボローニャ行きの飛行機が一時間弱遅れやがって、グリエルモマルコーニ空港を出たのは日付が変わった深夜12時すぎでした。わろし。
有名な詩歌に、『旅の途中で詠んだ歌』と添えられていることがよくあるので、道中、わたしも真似してみようと思いましたが、結局、食って寝ているだけでした。機内に持ち込んだ『枕草子』も、数ページ読んだだけです。わろし。
...まぁ、何はともあれ、無事に着いたから別にいいか。
4日(水)
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
4日(水) お手伝い
ピザ屋でタダ働きをしました。とはいえ、食い逃げしようとして捕まったわけではありません。アンが知り合いのピッツェリアで宅配のアルバイトをしているので、そのお手伝いです。
デリバリーのオーダーが届くまで、ピザボックスを作ります。
宅配の合間には、アンが僕のためにピザを焼いてくれました。
さて...
おい、こら、そこのお前! そう、お前だよ! 見てんだろ? 紀貫之!(?) 「こいつwww 本歌取りみたいなのとか、ろくでもねぇ歌しか詠まないじゃんw」って、よくも今まで散々馬鹿にしてくれたな!(?) だが、今こそ思い知れ! これこそが僕の真骨頂だ。
In pizzerïa io mangio la pizza.
Zanzara a raffica mi mangia, schizza…
(日本語訳)
ピッツェリアで僕はピザを食べる。
蚊は絶え間なく僕を刺す。半端ねぇな...
ピザを食べ終え、「次は、ハムとオリーブとパプリカのやつがいい」と、空になった皿を差し出すと、アンは、
「『次』ってなんだ。一枚だけだよ。家じゃないんだから...」と言いました。
子供の頃は「天使の歌声」ともてはやされ、レストランでちょっと歌えば食い放題だったのに、寂しいものですね。
5日(木)
秋の朝 ガチカプチーノ マジ美味い
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
追記:
僕のイタリア語詩は、掲載前もしくは掲載後にアンのチェックが入っています。起き抜けの彼女に作った詩を見せると、
「ローリス(←僕のあだ名)、文章を書いたら必ず読み返せっていつも言ってるだろう。"pizza" が "piazza" になってるよ」という小言と共に、一編の詩が返ってきました。
In allegria si mangia e si produce
La pizzeria 🍕 per me è un luogo felice
(日本語訳)
陽気に食べて、作る
ピッツェリア 🍕 は俺にとって幸せな場所
この『イタリア日記』は一人で書くつもりでしたが、どうやらアンも参加するようです。
5日(木) お手伝い その2
またピザ屋でタダ働きをしました。僕がイタリアに滞在している間のアンのシフトは、週2なのです。
前日、蚊に刺されまくったので、しっかりと対策を取りました。
Ah! Funziona benissimo l'Autan!
Le zanzare fastidio non mi dan!
Le zanzare 🦟 son molto fastidiose
Vorrei tanto vederle tutte esplose 💣
(日本語訳)
あぁ!『アウタン』ガチで効く!
これで蚊に煩わされることはない!
蚊 🦟 はとても煩わしい
全ての蚊が爆発するのを見たくてたまらない 💣 (!?)
デリバリ―の途中、アルファロメオを降り、注文主宅へ向かっていると、ピカチュウのTシャツを着た男の子とすれ違いました。それを見たアンが、僕に聞きます。「君も欲しい?」
「ピカチュウは子供用のポケモンだっていつも言ってるだろ。僕はギャラドスかレックウザがいい」
宅配を終え、ピッツェリアに戻り、再びオーダー品を持って店を出ようとすると、店内で食事をしていた人たちのうちの一人に、
「君、ちょっといい?」と呼び止められました。その視線は、アンではなく僕に向けられています。
近くを通っただけで迷惑をかけたのか...? と、内心怯えつつ、男のもとに歩み寄り、
「なんですか?」と尋ねると、彼は、
「聞きたいことがあるんだけど...」と言う。僕が、
「どうぞ」と促すと、
「君は男? それとも女?」という質問が、耳に飛び込んできた。
まぁ! こんな美少女を捕まえて、なんてことを言うのでしょう!
正味な話、いつもなら「あ゛ぁ!? どこをどう見たら女に見えるんだよ!」と、相手の胸ぐらにつかみかかっているところですが(年配の方にさりげなく "signorina" と呼びかけられたときは除く)、アンがバイトをしているピッツェリアのお客さんとケンカをするわけにはいきません。僕は、恐らく引きつってはいたでしょうが、微笑みを湛え、
「男です。背はあまり伸びなかったし、ひげはいつまでたっても生えてこないんですよね... そういう体質のようで」と、大人の対応をしました。
ピザと共に車に乗り込むと、アンが、
「よく我慢したね」と褒めてくれたことは、言うまでもありません。
これからはもう、ピカチュウのTシャツが欲しいかどうか、僕に尋ねてくることはないでしょう。
6日(金)
秋の風 今日はタトゥーの 打ち合わせ
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
6日(金) 最期の回想
午前中、地元の本屋とタトゥースタジオへ。
書店では、詩に関する本を2冊見つけました。
タトゥースタジオでは、左上腕に入れるデザインの最終確認と、来週の予約をしました。
か弱い美少女のわたしは、最後まで「インクがガンを誘発するってネットで読んだんだけど...」と心配していましたが、彫り師が言った「"タトゥーを入れたあとに罹患したガンの原因がインクだった" という確証はないけど、"日光が皮膚ガンを誘発する" というデータはあるね」という言葉と、アンが横から囁いた「君が昨日の夜に食べたインスタントラーメンや、今朝食べたポテトチップスに、発ガン性の添加物がどれだけ入っていると思う?」というのを聞くと、まるで魔法にかかったかのように怖くなくなりました。
たしかに、わたしは数年前、タトゥーを入れていなくてもガンになったのです。この先また罹患したとしても、それをインクのせいだと言い切ることはできません。
それに、インスタントラーメンやポテトチップスが体に良くないことは、百も承知二百も合点。ですが、それを他人から指摘されたときには、決まって「うるせぇ、美味けりゃいいんだよ!」と返します。そんなわたしが、エビデンスのない、インクの発ガン性を怖がるのはどうなのでしょう。
人生はわからないものです。今、仲良くしている友達とも、いつか突然、永遠に別れなければならないときがくるかもしれません。そのとき、わたしはそれまでの思い出が、夢や幻でなかったことを信じ、愛された記憶を自身に繋ぎとめておけるのか、あまり自信がありません。(自身と自信が掛かっています。) しかし、永遠に体に刻み込まれたものがあれば... それを見れば、どんなに寂しいときにも思い出が温めてくれるような気がするのです。そして、自分がこの世を去る瞬間にも、思い出と共に旅立てるように思うのです。
午後は、McDonald'sへ行きました。
アンがドライブスルーのモニターを見て、「あ、『学校セット』がある」と言い、それをハンバーガーやポテト(←たぶん発ガン性の添加物が入ってる)に先んじて注文しました。
アンは、最近、道で知り合いに出会うと、「もうすぐ学校が始まるから、ローリスの送り迎えをしないといけないんだ」(??)と話します。彼女は、滅多に合わない友人や店員に「この子は俺の息子なんだ」みたいな嘘をつくのが大好きです。本人は他人を騙して(?)楽しんでいるつもりなのでしょうが、わたしは思うのです。彼女がこの世を旅発つときに思い浮かべる記憶は、そのときのことなのかもしれないな...と。
7日(土)
初gita* ! 食欲の秋 ボローニャで
[*遠足]
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
7日(土) ボローニャで食べて美味かったもの三首
第一首
にんじんも
くわえればより
だーいすき!
むかしっからの
ごほうび料理
第二首
セッションだ
みなで演奏
フルートを
レッスンしよう
ドレミファソラシ♪
第三首
ライバル視
ムースとゼリー
プライドが
リードゆるさず
むそう(無双)を夢想
飯を食ったあと、散歩をしました。
8日(日)
大雨の 予報が出てる 秋の夜
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
8日(日) イタリアの警察
地元のスタジアムへサッカーを見に行きました。
慎ましやかなわたしは、ネット版ラプンツェル的な感じで、まるで塔に閉じ込められたお姫様のように、ひとりこの日記を書いています。
これまで、今ほど外の世界に向かって大声で叫びたいと思ったことはありません。
スタジアムといえば乱闘(←主犯はアンの友達)、乱闘といえば警察、というわけで、試合後、警察官の方々と触れ合う機会がありました。触れ合う機会があったということは、写真も撮ったということです。
イタリアの警察には思うところが山ほどあります。半分は逆恨みですが、本当は悪口を言いたい。でも、悪口雑言でわたしの可憐な日記を穢してはいけませんから、彼らについて紹介的に少し書きつけるだけに留めておきます。
イタリアの警察組織は、偉い順(?)に、憲兵、警察、財務警察、監獄警察、地方警察各種の、主に5つから成ります。今回はその中から、偉くない順(?)に、地方警察の1種(polizia locale)、警察、憲兵と、その車両をご紹介します。
地方警察 (polizia locale)
警察
憲兵
さて、胸糞悪いイタリア警察の話はこれでおしまい。最後に、この日イチ美味かったものの写真で日記を締めたいと思います。
9日(月)
天候も 予定も未定 秋の朝
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
9日(月) アペリティーヴォ
アドリア海へ、夕飯と翌日の朝飯を食いに行きました。
その前に、トッレ・ペドレーラでアペリティーヴォを楽しみます。
Con sfondo mare 🌊 e qualcosa da bere
Bello sognare con pieno il bicchiere 🥂
Fine d'estate è calma e silenziosa,
fine di patatine è polverosa.
(日本語訳)
海 🌊 と 何かドリンクを背景に
なみなみと注がれたグラス 🥂 と共に 夢を見るのはいい
夏の終わりは穏やかで静か、
ポテチの終わりは粉っぽい。
夕食後は、チェゼナーティコでtrenino turisticoに乗りました。
ジェラートも食べました。
とても楽しかったです。
10日(火)
エミリア・ロマーニャ州、トッレ・ペドレーラのホテルにて執筆
10日(火) 美少女の休日
紀貫之は『土佐日記』の中で女性になりすまそうとしましたが、『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 土佐日記(全)』(角川文庫)では、『胡散臭い』と評されています。はっきり言うと、わたしもそう思います。なぜなら、彼女もとい彼の日記には、 "女の子要素" がなさ過ぎるのです。
なりすましは犯罪者の必須科目(?)。貫之が和歌や文学において優れた人物であったことは認めますが、アウトローとしてはまだまだ。そこで、天才犯罪者の卵であるこのわたしが、完璧なバーチャル女装のお手本を見せてあげることにしましょう。
朝食はホテルで優雅に。
朝食後、ホテルを出て、馬車風味の車でショッピングモールへ。日焼けの心配をすることなく、お散歩を楽しみます。
まずは、家電量販店へ。女の子はスマホが大好きなのです。いくつかの端末を触って試したあと、クロームディノと戯れました。
女の子は、かわいいお花も大好き。モール内の広場に出ている花屋さんで、つい足が止まってしまいます。
モール内を歩き回っていたらお腹が空いたので、おやつにします。
家に帰って、残り物の昼食を済ませたあとは、お昼寝。夕方、アンが通っていた音楽高校で催されるサックスカルテットのコンサートへ行きました。
11日(水)
買いもしねぇ 土地見に行くの あきあきだ…
(季語:あき[秋])
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
『【イタリア日記②】2024年9月(11~20日)』に続く...