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エネルギー代謝:ATP
なぜ人は動くことができるのか。
動き続けることができるのか。
運動すると息が乱れるのか。
無酸素運動などで途中から足が動かなくなるのか。
このあたりも含めて運動生理学をもとにお話しできればと思っています。
この記事では、基本的な内容から少し踏み込んだメカニズムまでをできるだけわかりやすくお伝えしたいと思っています。
目次
エネルギー供給機構の基礎
エネルギー供給機構とは?
3つのエネルギー供給経路
酸化系
解糖系
ATP-CP系
ATPとは何か?
ATPの役割と重要性
ATPの分解とエネルギー産生
エネルギー供給の仕組み
3つのエネルギー供給機構の特徴
それぞれの持続時間と特性
有酸素性代謝と無酸素性代謝
運動強度とエネルギー供給
運動強度と時間によるエネルギー供給の変化
ADPの上昇とATP産生のトリガー
ミトコンドリアの役割
ミトコンドリアがATP産生に与える影響
アスリートにおけるミトコンドリアの重要性
まとめと今後の展開
エネルギー供給機構の全体像まとめ
今後のシリーズ予告(各代謝系の詳細とトレーニング活用)
エネルギー代謝の必要性
エネルギー代謝はスポーツトレーニングを実際にプログラムする際に最も重要な一つであり、運動生理学における土台ともいえる分野だと考えます。
一般的な認識として、以下のようなポイントはよく知られています。
・エネルギー供給機構は3種類存在する。
・それらは『有酸素系』と『無酸素系』に分類される。
・運動の強度や時間によって、どの機構が優位に働くかが異なる。
この辺りはみなさんご存知のことかと思います。
しかし、それぞれのメカニズムや相互関係、疲労との関係性や複雑性、競技特性との関係性などを深く理解することは、実際のトレーニングにおいて重要です。
現場で働くのであれば、ここまでできる必要があるのではと思いますし
自分自身も思考を整理したいと思い、今回noteを書くことにしました。
『なぜこの選手は特定のトレーニングが苦手なのか?』
そういった疑問を解決するためにも、エネルギー供給機構の知識が役立ちます。
もちろん全てがこのエネルギー代供給機構で解決できるわけではありません。
ただ、ここの内容を適切に知っているかどうかで、選手やチームの能力を向上させることは可能であると考えます。
本記事は基礎的なところからお話ししています。
そのため基礎から学びなおしたい人にもおすすめです。
とってもわかりやすく説明しているので、これだけ読めばエネルギー供給機構についての理解は深まると思います。
そのつもりで書いています!!
今回はまず基礎となるATPとは、エネルギー供給機構の全体像をお話しさせていただきます。
どうぞ最後まで読んでいただけますと幸いです。
ATPとは?
ではまず、身体を動かすときに必要なものは何でしょうか?
それはATP(アデノシン三リン酸)です。
ATPとは『高エネルギーリン酸化合物』と呼ばれ、運動だけでなく生命活動を行う上でも欠かせない分子です。
生命維持のためにも必要な理由は今後のシリーズを読んでいただければ理解できるかと思います。
『パワーズ運動生理学』では、ATPについて次のように記述されています。
“ATPは細胞における唯一のエネルギー運搬体というわけではないが、最も重要なものであり、十分量のATPがなければほとんどの細胞は死滅する。”
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それほどATPは重要な役割を担っています。
ATP分解とエネルギー産生
実際に生命活動や運動を行った際には、ATPに何が起きているのか?
ATPをADP(アデノシン二リン酸)とPi(リン酸)に分解しています。
その分解によって発生するエネルギーが生命活動や運動に利用されます。
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ただ、ここで一つ問題が発生します。
体内(筋細胞内)には限られたATPしか存在しないという点です。
言い換えると
体内にはATPの貯蔵量が少ない
筋細胞内に存在するATPだけでは、 1~2秒ほどの運動 しか継続できません。
そのため、ATPを枯渇させないよう 作り続ける仕組み が必要になります。
このATPを作る代謝経路が、以下3つのエネルギー供給機構です。
酸化系
解糖系
ATP-CP系
になります。
この3つが相互に関係しながら、ATPを常に供給しているのです。
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このようにして3つのエネルギー供給機構が常にATPを産生しています。
まずここまでで
・ATPが分解して発生したエネルギーで人間は生命活動や運動を行っ ている。
・体内にATPは多く貯められないから作り続ける必要がある。
・ATPを作る代謝経路は3つ存在する。
これがわかっていればOKです!!
ではそれぞれ3つの特徴を簡単に説明します。
エネルギー供給機構の特徴
酸化系
特徴: 長時間ATPを産生できるが、ATP産生までに時間がかかる。
エネルギー源: 酸素を使用して糖や脂質を分解。
例: マラソンなどの持久運動。
解糖系
特徴: 酸化系より素早くATPを産生するが、持続時間は短い。
エネルギー源: 糖を分解。
例: 400m走などの中距離運動。
ATP-CP系
特徴: 最も早くATPを産生できるが、持続時間は最も短い。
エネルギー源: クレアチンリン酸(CP)。
例: 短距離走やウエイトリフティング。
以下がその他特徴を踏まえた図です!
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エネルギー供給機構の相互作用
非常に大事なのはどんな時でも一つのみのエネルギー代謝でATPを産生することはなく、相互しながらATPを産生している。
実際の運動では、 一つのエネルギー供給機構だけが働くことはありません。 運動の強度や時間によって、それぞれの割合が変化します。
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このように運動によって酸化系が大きくなったり、ATP-CP系が小さくなったりします。
もちろん逆もありますし、他の組み合わせもさまざまあります。
では何でメインのエネルギー代謝が変更するのかというところに関しては、運動強度と時間がキーとなります。
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運動時間や強度が変更することで、なぜエネルギー供給の割合が変更するのか??
身体の中で起こっているメカニズムはADPの上昇速度がトリガーになると思います。
他にもありますが、今回は主要なADPのみで説明します。
エネルギーを利用するときは、
ATPが分解してADPとリン酸になるのでそう言われれば当たり前なのですが、意外と盲点だったりします。
細胞内にATPが大量に存在している場合は、
身体の中は慌ててATPを産生しろ!とはならないと思います。
しかし、運動が始まり、
ATPが分解されエネルギーとしての活動が増えると、
一時的かもしれないが、細胞内のATP量は減少し、ADP量が大きくなります。
そうなると、
3つのエネルギー供給機構の酵素(律速酵素)が活性し、ATPをもっと作らないと!という指令が下されるということです。
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ADPがどのくらい急激に上昇しているのか、なだらかなのかで、どのエネルギー供給機構の割合が増加するのかが決まります。
ADPの増加速度が急であれば 無酸素性代謝 が優位に働き、
ゆるやかであれば 有酸素性代謝 が活発になる、というメカニズムです。
それをわかりやすくするために、運動強度と皆さんがお話ししているかなと思います。
酸素借などの際に、ADPの上昇スピードということが頭に入っていると
なぜ無酸素性のエネルギー代謝が利用されるのかなどかなりわかりやすいこともあるのでこちらでも今後説明していきます。
勘の鋭い方は今の説明だけでもかなり理解できるかもしれません。
では、3つのエネルギー機構の持続活動時間や産生時間などの簡単なイメージはこのような形です。
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さらにこの3つを2つの分類に分けしたいと思います。
それは、有酸素性代謝経路か無酸素系代謝経路かという点です。
酸素を必要とするものなのか、必要としないものなのか、ということです。
有酸素性代謝:酸化系
無酸素性代謝:解糖系、ATP-CP系になります。
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この二つの代謝ではATPを産生する場所が異なります。 有酸素性の代謝はミトコンドリア内で作られます。 それに対して無酸素性代謝は、細胞質基質などの細胞内で行われます。
実際、
ミトコンドリアではATP産生の95%を占めていると言われています。
これを見たときに、なんで3つも経路あるのにミトコンドリアが95%もあるのか?と思いました。
この辺りの理由も今後のシリーズを見れば理解できますし、納得していただけるかと思います。
95%ということからも、ミトコンドリアが与える影響はATPにとっても非常に大きいです。
ということは必然的に
ミトコンドリアは運動のパフォーマンスにとっても非常に大きい存在になります。
アスリートなどにおいてミトコンドリアのパフォーマンスが低いということは、
結果的に、ATPを効率よく産生できない可能性があり、結果的にエネルギー不足に陥る時間が早くなるリスクもあります。
このようにミトコンドリアはアスリートに与える影響も非常に大きいです。
ミトコンドリアに関してもまたこの後のシリーズでお話しできればと思っています。
まとめ
· ATPの分解によってエネルギーが生み出される。
· ATPは体内に多く貯められないため、作り続ける必要がある。
· ATPを産生するエネルギー供給機構は3つ存在する(酸化系・解 糖系・ATP-CP系)。
· 3つの供給機構は、運動強度や時間に応じて働く割合が変化する。
· ATP産生の大部分はミトコンドリアで行われている。
このあたりがわかっていれば、今回の話は理解していただけたかなと思います。
今後の記事では、各エネルギー供給機構の詳細や、それらを活用したトレーニング方法について解説していきます。
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