憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の三十五
※其の三十四からの続きです。気軽にお付き合いください。
暑いので店の中へと入った。色とりどりの剣道着や剣道具。竹刀も豊富で、剣道グッズ、流行りの商品まで仕入れている。八神や日野が懇意にしているのも頷ける。
「すごいね! 私が通っている剣道具屋さんも良い所だけど、ここは品揃えがハンパないね!」
光も目を輝かせるようにつぶやく。
「なんじゃぁ、蓮夏! 友達連れてきたんかぁ? しかもこんな大人数で、珍しいのぉ」
スケベじじいが驚くように喋る。
「別に。友達って、わけじゃ……」
モジモジとつぶやく八神が可愛く見えたか、光がニコニコ顔で視線を送る。
「いやいんや! そうかぁー、蓮夏も古都梨も高校生になって友達できたんかぁー、よがったなぁ」
恵比寿顔?と言えば良いのか、スケベじじいが近づいてくる。
「おい! じいさん! セクハラすんなよ! 特に、光にやったら読者様に消されるぞ!」
うん。確実に消されるな。そんなことはお構いないスケベじじいは。
「にっしっし! どうじゃぁ~、うちの店は! 綺麗で品ぞろえも良いじゃろう!」
光が物珍しさに目を輝かせていると、さりげなく光の横に立ち、光の腰やお尻に触れようとする。
バチン!と、その手を四日市が叩く。
「おい! 八神! 日野! 胸や尻を触らせなきゃ防具買えないんじゃ、私は帰るぞ」
スケベじじいが痛そうに手を撫でる。
「なんじゃぁ、冗談じゃろ。冗談」
「ナーハッハッ」と笑うスケベじじい。
「……冗談に見えねぇんだよ」
相馬がつぶやく。
「ねぇ、スケベじじい、龍一さんと、龍二郎さんは?」
スケベじじいがクイクイと店の奥を親指で指す。微かだが、竹刀の音が聞こえる。
(誰か稽古してるのか?)
店の裏側に案内されると、コート一面分ぐらいの広さで、4人が稽古していた。
「すごい! 店の裏側に道場あるんだ! こんなお店も、なかなかないよ!」
光が更に目を輝かせ、感動する。
「蓮夏、古都梨、着替えんさい。久しぶりに愚息と共に、稽古つけてやるわい」
急にスケベじじいの目が鋭くなる。
「そっちのお嬢さん方も、よーし。防具持ってきているようだな。一緒に着替えてきんさい」
「覗くなよ」と一応、八神がスケベじじいに言うが、先ほどの雰囲気が消えている。私は日野に事情を聴く。
「ん~、店長はね、防具買いに来てくれた人と稽古するのが趣味なんだ、でね、気に入ったら、破格の値段で剣道具一式、売ってくれるの」
なるほど。それで私と光にも防具を持ってくるよう、八神が言ったのか。まぁ、もっとも買うのは私たちじゃなく、四日市や相馬だが。
「美静とありすは見学ね!」
光が更衣室に入る際に手を振る。
「またかよ」と言いながら腕を組み、相馬が壁に寄りかかる。
私たちはさっさと着替えて、再度道場に戻る。
(ん?)
先に稽古していた4人の名札を眺める。
「江頭って、たしか……」
ここは江頭武道具店。龍一と龍二郎と言っていたが。
「やっと気づいたか」
八神がニブチンとでも言いたそうな顔をする。
「えっ!? ひょっとして去年の全日本剣道選手権大会で優勝した!!!」
光が驚きの声を上げる。
「そうだよ! あの、江頭龍一さんだ」
八神が呆れた声で言う。
「でもって、弟の江頭龍二郎さんは、同じく、去年の全日本剣道選手権大会で、大学生ながら、3位に入賞した、凄腕の兄弟だよ」
日野が補足する。
「……マジかよ」
四日市も言葉を失う。全日本剣道選手権大会は男子剣道日本一の選手を決める大会。最も栄誉ある剣道大会として位置づけられている。言わば、日本一の剣士と日本で3番目の剣士が今、目の前で稽古していることになる。こちらに気づいたか、一旦稽古を中断する。
「おぅ! 蓮夏に古都梨じゃないか!」
雰囲気的に、弟の龍二郎さんが手を挙げる。
「お久しぶりです! 龍一さん、龍二郎さん! ご無沙汰しています!」
八神が頭を下げ、日野も深々とお辞儀をする。
「今日は千客万来だな! その格好、稽古していくんだろ!」
「はい!」といつも以上にハキハキと元気に返事をする八神。
「ねぇねぇ、日野さん。みんな、どういう関係なの?」
興味津々に光が日野に聞く。
「わたしと蓮夏が、子供の頃に通っていた道場が、同じだったんだよ」
「すごくお世話になったんだ」と日野もいつも以上の笑顔を向ける。驚いた。まさか、江頭兄弟と2人が同じ道場に通っていたなんて。そして、私はふと江頭兄弟が相手をしていた人を見る。
(あれは……)
こっちも見たことある2人。名札には共に『桜宮』と書いてある。
続く