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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の三十八

※其の三十七からの続きです。気軽にお付き合いください。



 八神やがみ左京さきょうに綺麗な面を決められて、意気消沈。私たちも何となしにため息をつき、今度は隣で地稽古をしている日野ひの右京うきょうを見る。

バシン。

「メェーーン!!!」

パコン。

「コテェーー!!!」

バチン。

「ドゥゥーー!!!」

こっちは右京の独壇場だ。日野の癖を完全に知って盗んでいる右京は絶好調。今見ただけでも3本は決まっている。八神と違ってあまり表情には出さないが、押されている日野は辛そうだ。バシンと更に綺麗な面を右京に決められる。

「あーー、もう!」

普段は声をあまり出さないが、日野が悔しそうに叫ぶ。

「ふふっ。日野。相変わらず動きが見え見え。ちょっとは成長したかと思ったけど」

右京に言われて、面越しに日野がムーッとした顔をする。

(あれ、ちょっと可愛いんだよな)

などなど思っている場合でもなく、同じ仲間が無様にやられる姿を見るのはやはり面白くない。再度、中央で仕切りなおして勝負をするが、やはり右京と日野では実力に少し差が出ている。

「……あいつも悪い剣道じゃないんだがな」

珍しく相馬そうまが口を開く、それ以上は何も言わず壁に寄りかかって、気だるそうにする。

「コテェーーー!!!」

日野が手元を上げてしまい、右京のパコンと小手を打つ気持ちの良い音が道場に響く。

「あーーん、もぅ!」

自分でも打開策を見いだせず、日野が叫びだした。

「アハハッ! 日野! あんたは泣き虫弱虫の『日野』でいいんだよ! 可愛いじゃない!」

右京が日野の面を撫でる。完全に馬鹿にしたように。

「どうせ、総武学園そうがくでも補欠でしょ? 八神のオマケなんてそんなものよ。暁大第三あかつきだいだいさんで、1年生からレギュラーやっている私や左京とは違って当然」

これで日野も黙ってしまった。

(あーあ。2人共、メンタルがまだまだだな。……って、今の私が言うのも違うか)

とりあえず、ここで一旦全員で蹲踞して竹刀を収める。そして左京と右京は龍一さんと龍二郎さんのところへ。八神と日野は私たちのところへ戻ってくる。

「ふぅ、ふぅ……」
「はぁ……はぁ……」

八神はイライラが収まらないか血眼になって呼吸する。日野は完全に自信を失くしたか下を向いて呼吸する。

(せっかく琴音ことね先生から呼吸法も教わっているのに、これじゃ活かしてないな)

向こうは左京と右京で、龍一さんや龍二郎さんと談笑している。対して、こちらはなんとなくお通夜状態。何か気の利く言葉でもかけてやれば良いが、私はあまりそういうのは得意ではない。チラッとひかりを見るも、桜宮さくらみや姉妹の実力を目の前で見たか、光もアドバイスするような雰囲気ではない。

(仕方ない。適当に励ますか)

私が八神と日野にアドバイスしようとしたら。

「……どっちが姉で、どっちが妹か知らねぇけど、あの『右』の方は、引き技を繰り出す時、自分の間合いを取ろうとして2~3歩下がる癖がある」

急に四日市よつかいちが口を開いた。思わず全員彼女の方を見る。

「引き技を出す時の2~3歩下がるは『迷わず打て』だ。なんで日野おまえは打たない? 面でも小手でも胴でも、外れてでも、そこは確実に打つんだよ」

鋭い目つきで日野に言う。

四日市こいつ……)

それは私も思っていた。たしかに左京に関しては、ほとんど隙はない。しかし、右京の方は引き技の時、そして間合いを切ろうとする時、一瞬、下がる癖がある。同じ声や顔をしても、すべてが同じ動きではないと言うことだ。

「……う~」

日野は言われて凹んでしまう。日野の弱点は自分の背丈を熟知した戦法を取るが、どうしても攻めは小手か抜き胴を中心に攻めてくると相手に覚られる・・・・・・・。引き技でも、引き面を打てば決まるであろう場面で、引き胴や引き小手にこだわり、うやむやに離れてしまう。琴音先生も言っていた。この意見には光も驚き。

「えっ!? そうなの? 雪代ゆきしろさん」

「うん、まぁ」と一言だけ光に言う。

「……でも、今の私に言う資格はねぇ。防具も持ってないんだしな」

頭をかき四日市のアドバイスはこれで終わり。相馬も同意か黙って腕を組み目を瞑って再び壁に寄りかかった。

「八神は落ち着け! お前、いつも琴音先生に言われているだろう? カッとなる癖、そのすぐにイライラする癖」

私が八神にも一応アドバイスするが。

「わかってるよ! 雪代おまえに言われると余計にイラつくんだよ!」

ダメだこりゃ。私が言っても無駄なことは百も承知だが。

「お話は」
「終わったかしら」

左京と右京が近づいてきた。

「今度は」
「逆にして」
「稽古」
「しましょうか」

本当に剣道以外は同じだな。私が八神と日野の背中を押して前へ出すが。

「ところで」
「そこのあなた」

左京と右京が、四日市と相馬の前へと出る。

「初見で右京の癖を見抜くなんて、只者でないと思うけど? 何者かしら? とても、興味あるわ」

左京が2人にスッと一瞥をくれた。


                 続く



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