本の楽しさを教えてくれた
私にとって、初めての「字の本」。
それが、『いやいやえん』でした。
それまで、本といえば絵本ばかり。
でも、ある日、近所のお友だちの家にいったら、赤い表紙の太い本が置かれていたのです。
絵は少しで、字がいっぱい書かれた本。
大人の本みたいに。
同い年のお友だちが、もう字の本を読んでる!
きっと、幼い私は衝撃を受けたのでしょう。
ヨーコちゃんが持ってるのと同じ、あの赤い「字の本」を買ってほしいと、強くせがんだそうです。
それが、『いやいやえん』との出会いでした。
実は、後で分かったことなのですが、おてんばなヨーコちゃんは全く本に関心がなく、本棚に置かれたまま、一度も『いやいやえん』を読んでいなかったそう(笑)
でも、おかげで私は、素晴らしい本と出会うことができました。
初めて自分ひとりで読む「字の本」。
まだ絵本を読むのがやっとだった幼い子どもにとっては、一冊読み切るのは、なかなか根気のいる作業だったことでしょう。
それでも、『いやいやえん』は私に本を読むことの楽しさを教えてくれました。
本の扉を開けると、そこに広がる別世界。
現実にはありえないようなドキドキも、ハラハラも、ワクワクも、なんだって起こるのです。
紙やインクのかすかな匂い。
1枚、1枚とめくっていく時の指ざわり。
居心地の良い場所に腰掛けて、時には美味しいオヤツをお供にして。
時間も空間も忘れて読みふける、至福のひと時。
そして、読み終わって本を閉じた時の、なんとも言えぬ満足感。
そんな贅沢で、幸せな時間の過ごし方を教えてくれた最初の一冊が、『いやいやえん』だったこと。
とても幸運だったと思います。
何度も何度も、繰り返し読んでも、いつだって面白い。
大人になってから読み返しても、やっぱり面白い。
そんな本は、めったにありません。
今朝、中川李枝子さんの訃報を知り、あぁ、また一人…と、残念な思いでいっぱいになりました。
中川李枝子さんは、心から尊敬する童話作家のお一人であり続けました。
そして、これからもずっと。
それは変わることはないでしょう。
妹の山脇百合子さんと創り出す、優しくて温かで懐かしい世界は、唯一無二のものです。
もう二度と、おふたりの新しい本を手にすることはできないのだと思うと、悲しくてたまりません。
が、おふたりの本と共に成長できたこと、この時代に生まれたこと、感謝したいです。
今ごろ、雲の上で久しぶりに妹さんと再会して、お喋りしているでしょうか。
大きなカステラでも食べて、お茶しているでしょうか。
心より、ご冥福をお祈りいたします。
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