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<小説/不倫・婚外恋愛>嫌いになれたらは、愛を信じてる裏返し(24)STAGE5-2・再会(序)
会えただけで奇跡。
直樹と重なり合い……動かないまま絶頂に達する。涙がこぼれて仕方がなかった。
直樹の腕枕で、裸のまま語り合う幸せな時間。
「ねー、直樹。前に、私たちは二つで一つって言ったの覚えてる?」
「覚えてるよ。芹香といると、二人なのに一つに戻ったって感覚があるんだ。芹香は、二つで一つが気になっていたの?」
知らないまま使っていることに驚いた。でも、直樹は前から次元の高い話しをする時があった。
「一期一会の意味には、俺の中ではもう一つあって。一生に一度きりの出逢いかもしれない人と同じまで魂が成長していなければ、その大切な出逢いにも気づくことができない。だから、自分の魂を成長させることが大事なんだって思うんだ」
「悪い“気”は、俺のところで止める」
「許したくなかったら、許さなくていい。どうにかしなくていいんだよ」
何でもない会話の一ページ。直樹との会話は、ふと交わす言葉さえ、記憶のどこかに残っている。何もない時は忘れて過ごしているのに、苦しい時や落ち着かない時は必ず思い出す。
再会したら、聞きたいてみたいことがあった。
「直樹は、ツインレイって知ってる?」
知らないなと言って、私の説明を聞きながら直樹はその場で検索を始めた。
どんな反応をするんだろう?スピリチュアルに嫌悪感があって引いちゃうかなと、怖い気持ちもある。私は、未だにこの概念に縛らる恐怖もどこかで感じていたから。
「俺たちはツインレイだ」
カミナリに打たれたような、高揚した顔で私を見る。直樹と見つめ合った時、一気にこれまでの靄が晴れて、生きる力が湧いてくるのを感じ合う。
「芹香を絶対に離したくないって思いが、逆に『愛を失う恐れ』に変わって、逃げていたのは俺だったかもしれない。俺はもう、芹香を離さないよ。俺たちは、一緒になるために生まれてきたんだ。離婚も含めて、いろんな事をしっかりするから」
でも、この出会いは束の間のもの。私たちにはまだまだ昇華しきれてない感情が燻っていた。
この日から数日後、直樹が歩けなくなる。それも、デートをしようと言っていたその日に……。学生の頃、バスケをしていた直樹は「変形性膝関節症」になり、バスケを引退していた。普通の生活には支障はないけど、疲れや長時間の運転の時には痛みが増すらしい。
入院をすることになり、私と連絡が取れたのは夜になってから。
「ごめん。何度もラインくれてたね。本当に不安にさせたよね」
直樹が一番辛い。痛みも酷いだろう。とりあえず、安静に過ごすことが一番。無理をしないでねと伝え電話を切る。
同時にチクッと心が反応している。何もしてあげられない。私じゃない人を直樹が頼っている。仕方のないことだと思うけど、悔しくて仕方がなかった。
もう、前のような執着やどす黒い感情もクリアしたかに思えていた。でも、あの時から不倫という状況が変わったわけじゃない。思うように動かない私たちの現実が、お互いのエゴを炙り出す。
そして入院中の直樹は、私の空いている時間全てに連絡を欲しがった。離れていた頃の私を全部知りたがって細かく聞いてくる。直樹から『元カノ』と言われ、衝撃的な写真を見てしまってから、複数の男性と関係を持ってしまっていた私。そのことは、隠し通しておきたい取り返しのつかない過ちだった。
出張や通勤の移動時間も、夜のLINEも。やっと話せるようになって、それはそれで私も嬉しいのだけれど、いつも直樹と離れていた時の私の話ばかりで辛い。だって、直樹から離れて行ったんでしょう……。そして、自分の時間が取れない事にも、正直疲れも感じていた。
直樹は、私の機微を感じ取る。私の言葉の抑揚ですぐに責めてくる。まるで誘導尋問でもされているかのようだった。
わかってしまったら、私を呆れて嫌いになると思っていて怖かった。でも、思ってもみない言葉が返ってくる。
「芹香が悪いわけじゃないよ。俺を忘れて前を向こうって必死だったんでしょ。全部俺のせいにしてよ。芹香が自信を失って当然。それだけ芹香は俺を愛しているということなんだ。だから、芹香は自分を責めないで」
悲しい優しさが痛かった。私には直樹が辛そうで苦しそうに見える。自分から手放した後悔を、無理に納得させているようにうつっていた。
直樹は「俺のせいにしろ」って言うけれど、男は女性に処女性を求めるものだ。だから、女性はやった男の人数を少なく言う。逆に男は、多いことがステータスになったりもする。繁殖行動をし、より多くの子孫を残すということを男性は遺伝子で組み込まれているのだから。
当時の私は直樹を忘れようと必死だったけど、その行動はただ寂しさを埋めようとしていたことだと思い知る。自分を大事にしない浅はかな行為は、直樹にも深い傷となって残る。
「芹香が自分を大事にしない行動や考えは、俺を傷つける行為なんだよ」
直樹と話して、ようやく気が付く。あの時の私は、不倫を辞めて自分の幸せのために生きるんだと、自分を可愛がって幸せにしているとばかり思っていた。自分を軽く扱い傷つけている行為だったことに気が付けていなかった。
直樹は7日で退院した。膝の水を抜き、ある程度の生活ができるようになる。1ヶ月間は安静期間。でも、時々仕事には行っている。その時は、奥さんと一緒に会社に行き自宅に戻る。
さらに1ヶ月たって、普通に動くことができるようになった。けれど、会うことは叶わないでいた。そうして、また昔の直樹に戻ってしまったような気がしていた。
〇〇があるから無理。
〇〇だから、離婚の話をするきっかけがない。
〇〇なのに、会えるわけがない。
俺ばかりになるなよ。今は、不倫なんだからわかれって。
「もう離さない」って約束してくれたのに。
「ちゃんとする」と言っていたのは、なんだったの?お互いにツインレイだと確信したんじゃなかった?再会しても、また同じことの繰り返し……。私が自分の方を向いているとわかっただけで満足な様子の直樹。離婚のことは後回しにして、何も考えていなように私には映っていた。
これ以上一緒にいたら、また大きく傷つけあう。直樹と始まった時は、それだけで奇跡だと思って満足していたのに、近づくほどにもっともっとと欲張りになっていく。憎悪や妬みが渦巻く自分になるのも時間の問題だと思った。
今度は私から、もう一度離れる決心をする。
「直樹がそこに居たいならそれでいいの。その方が幸せならそうして欲しい。もう離婚して欲しいなんて思わないから。私は不倫はできない。直樹以外だったら、こんな関係は絶対にありえない。直樹であろうが、無理なものは無理だから。そこだけはブレることがない」
これまで、不倫でも良いからと思えない自分は、心が小さくてわがままなのかなと思い、考えを変えようと努力してきた。でも、その度にわからなくなって苦しくなる。だったらいっそ『不倫は嫌だ』を受け入れよう。そう思った途端、心がふわっと軽くなった。
「俺が離婚を早めようと思ったのは、芹香がいるからだ。少しでも早くって思ってる。でも今じゃないんだ。まだかかるのはわかって欲しい。離婚に向けて始めたばかりじゃないか。まだ再会して3ヶ月もたってないよ」
「私にとっては7年だよ……」
「昔のことはリセットして。俺にとっては、始まったばかりなんだ」
「……苦しかった時期を、なかったことになんてしないで!それに、私がいるから離婚をするの?じゃ、いなければ離婚しなくて良いってことでしょ。それじゃ、ダメだよ……」
「どうして?芹香のために離婚するって言われて嬉しくないの?」
「嬉しくないよ。離婚してって言っておいて、矛盾してるかもしれないけど。私は直樹と一緒に居たい。でも、家庭を壊したいわけではないの。奥さんと子供を傷つけたいわけじゃない」
一緒になりたいけど、なれない。でも、私が死ぬ時は直樹に隣に居て欲しい。「私は、直樹に看取られて死ぬの。一人で残されたら生きてられない」「わかった。俺が看取って芹香の骨を食べて一つになるよ」直樹とそんな約束もしていた。
それまで、今ならあと長くても30年くらい?だったら少しでも長く一緒に暮らしたい。少しでも若い私で一緒になりたい。だから、早く私のところに来てよ。そんな焦りや自分本位の醜く、どす黒い気持ちがあるのも私。どっちも私…。
支離滅裂な感情の両方とも同じように手放せない。アクセルとブレーキをいつも一緒に踏んでいる。良くここまで、なんとかバランスをとって生きてたものだ。
「芹香は誰も傷つけたくないんだね。俺たちは相当傷つけあったけど笑。大丈夫だよ。離婚する前に、芹香と別れるから。そしてまた芹香に告白して、振り向かせるところからスタートする。また何カ月かかっても振り向かせるから。だから、俺のことで辛くならないで。ただ、楽しんでいてよ。何者にもならなくていいからさ。ありのままの芹香で笑ってのんびりしてて。俺たちは、一緒になるために生まれてきたんだから」
再会後、出逢ったのはたったの一度きり。
軌道修正のための、優しい神の采配だった。
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