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通せんぼ _ 詩
散らかった自分の部屋を出て
廊下を突き当たって右に折れて
その先の白いドアの前で立ち止まる
今日はなんとかここまで来れた
でも結局、ドアを開いたりはできない
もしかしたら、次はここまで来れない可能性も
一緒に見た桜が舞い散っては通せんぼ
書き溜めた手紙の文字が降り注いでは通せんぼ
呼ばれた気がして振り返っては通せんぼ
どんなに目を瞑っても思い出せなくて通せんぼ
街の灯りに電車の音に台無しにされて通せんぼ
この胸の蓋に鍵穴なんて元からなくて通せんぼ
梔子の花とチェックのマフラーで通せんぼ
圧倒的な時と情報が僕を飲み込んで通せんぼ
気がつけば五年の時を経て
どうかどうかと手探りで生きて
もう大丈夫かもしれないと立ち止まる
今日こそ向こう側へ行けるはずと
でも結果、超えることなんてできない
従って、また散らかったこの部屋に戻ってきて
土砂降りの夜に赤信号が連続で通せんぼ
電源が落ちて繋がらなくて留守電で通せんぼ
左手の温もりが僕の右の掌で復元して通せんぼ
こんなに心から君を思って涙が流れて通せんぼ
だって目の前が見えなくて通せんぼ
この額の穴に間違った鍵を差し込んで通せんぼ
押し花の栞とストライプのマフラーで通せんぼ
ほんの微かな君のトワレで一秒持たずに通せんぼ
了