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【#2000字のドラマ】大切な青春を想うとき

社会人生活2年目で、少し仕事にも慣れてきた頃。

新しい仕事が増え、責任が伴い、
少し荷が重いと感じていた。

そんなある日の帰り道、
無性に誰かと話したくなった。

遠距離恋愛中の彼氏に電話をかけるが、
何コールしても電話に出ない。

「・・・・」

大学時代から付き合っている彼とは
随分前から倦怠期だった。

付き合って数カ月後に浮気もされたし、
元カノと会ったその日に
「今日は帰れないかも」と連絡をよこしてきた日もある。

一度は別れたものの、泣いて謝られた翌日に
ヨリを戻してしまった自分が情けないのだが。

そんな彼のことだから、
どうせ現地でも色々と楽しんでいることだろう。

より鬱蒼とした気持ちになりながら、
スマホの連絡先をスクロールすると。

ふと、手が止まった。

職場にいる大学生のアルバイト。

音楽の趣味があって、
CDやライブDVDなどを貸し借りしている子がいた。

私がアルバイトのシフトを作っていることもあり、
同期と一緒に飲み会などで仲良く話をする程度の
仲だった。

そういえば、次は何のCDを貸すのだっただろうか。

次のシフトに入った時にCDを貸してほしいと
言われていたのを思い出す。

電話をかけたのは気まぐれだった。

出なければ間違ってかけてしまったと
誤魔化そうなんて思っていたが、

3コール目に

「はい、佐々木です。」

彼の声が電話越しに聞こえてきた。

「いきなりの電話、ごめんね。
急ぎじゃないけれど、聞きたいことがあって。」

「急ぎじゃないのに電話なんて、珍しいですね。
僕は暇なので全然構いませんけど。」

ちょうど暇だったらしい彼との
他愛のない話は、存外楽しかった。

久しぶりに私自身が誰かと話ができた
という気持ちになれたのが嬉しかった。

そんな彼との距離はあっという間に縮まり、
2人で出かける仲になっていた。

ちょうどいいタイミングで、彼から声を
かけてくれることが増えた。

2人の日もあれば、私の同期や他の
アルバイトも一緒の日もあったのが
私にとっては良かったのだろう。

彼からの好意も少なからず感じていたけれど、
私は友情の一貫と捉え、友人として色んな
話ができた。

異性の友人は久しぶりで、気さくな年下の
彼との話は、飽きることがなかったから
楽しくて仕方がなかった。

一瞬迷ったけれど、家にあがってもらう位には
仲良くなっていたし、お互いに一線を超えずに
楽しく過ごせていた。

3回目に家に来た時、佐々木くんに告白
されるまでは。

告白なんてここ数年ぶりで
少しびっくりしたけれど、私の感情は
嬉しい気持ち半分、申し訳ない気持ち半分。

おかしいな。

私の家にあげた時から、こうなったらどうするか
考えていたはずなのに。

キスされても嫌じゃなかったのに、
すごく違和感があって戸惑ってしまった。

佐々木くんのことは嫌いじゃない。

むしろ好きなはずなのに、
異性として愛せないとわかってしまった。

同時に、

「そこに愛はなくても、
彼氏と同じ様に私も楽しめばいいじゃないか。」

そう囁く私もいたが、それは
佐々木くんに対してあまりにも失礼だと思い
その声は聞かなかったことにした。

自分がされて嫌なことを
自分がしてしまっては、
今後、まっとうに人生を歩めない

そんな気がしたからかもしれない。

告白されるまでは、どうとでもなれ、
なんて思っていたのに、いざとなると
なんてことない話だった。

私はまだ、彼氏に愛想をつかすことが
できていない、ただの臆病者だった。

だから、

告白には応えられなかった。

一線も超えられなかった。

佐々木くんは、その日、私の家に
泊まったが、夜通し2人で色んな話を
して朝を迎えた。

…それから私たちは、2人で会うことを
しなくなった。

それから1年後、
佐々木くんは就職活動を終え、
アルバイトを辞めた。

アルバイトを辞める前に、
一度だけ、好きなミュージシャンのライブに
2人で行った時は、一年前のように
お互い楽しめた…と思う。

「杉浦さん、お元気で。」

そう笑顔で手を降ったあなたを、
きっと私はずっと忘れない。

私に大切なことを気づかせてくれた友人として。

佐々木くんとの交流中、
彼氏が私の家に来たことは一度もなかった。

数ヶ月に一度、私が彼氏の家に行くだけ。

片道約4時間かけてまで会おうとしたのは
私だけだった。

それでも私は、彼と別れることができなかった
のだから笑ってしまう。

色んな誘惑もなくはなかったが、
私はどうやら、冒険できないらしかった。

私の人生では私が主役のはずなのに、
いつ別れてもおかしくない彼氏に
青春を捧げ続けているようなものだ。

でも、それでいいんだ、と割り切ることにした。

私が私らしく、堂々と生きていけば、
人生を振り返った時に、きっと笑顔でいられるから。

そうして、今日も朝を迎え、
仕事に向けての準備を始める私は、
そんなに悪くない人生を送れていると信じて。

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今回は「#2000字のドラマ」にチャレンジしました。

彼氏にも「清水」と名前をつけてみたものの、
敢えて名前を出さずに書いてみました。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

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