虚像
わたしの実像は存在しているのだろうか。
わたしには、今気掛かりな人物がいる。
なぜ、気掛かりかというとわたしをかなり虚像して見ているからである。
とても引っかかるのだ。
そう、つまり面倒なのだ。
彼女は、自分自身がどう見られているのか敏感で、
それ故に他人にも敏感なのだ。
刺々しく、若さゆえの怒りのパワーに満ち溢れている。
わたしは、彼女より年下なわけだが至って冷静なのだ。
それが気に触るのだろうか。
なんとしてでもわたしの化けの皮を剥がしたいようだ。
彼女は必死なのだ。
人間生きてれば、いろんな経験をする訳だが、
その経験を経て今の自分がある。
過去の自分もわたしであり、今の自分もわたしなのだ。
“人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えているのだ。変えられるとも言うし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものではないでしょうか?”
「マチネの終わりに」より
わたしの過去を知りたがった彼女に
少しだけ教えてやったのだ、わたしの過去を。
しかし、どうやらそれが彼女の劣等感をくすぐってしまったようだった。
なす術なしである。
いや、違う。
わたしが間違っていたのだ。
わたしは彼女に分かってもらおうとした。
これが事の発端ではないか。
分かってもらおうとしなくていいのである。
わたしはわたしのままでいたら良いのだ。
この静けさが心地よいのだから。
“人の胸の内は、外からは見えない。静けさは、濃密だ。” 「日日是好日」より