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フランス恋愛小説の最高峰と呼ばれる『アドルフ』(コンスタント)〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜
一生をかけて光文社古典新訳文庫をじっくり読んでみる。そんなシリーズを始めてみようと思います。
人生は選択の連続であって、現状維持だとしても自らの意思で「そうしている」。何か新しく行動を起こそうとすると緊張で身体が震えたりする。この現象は遺伝レベルのアラート。どうやら人間には「自己保存の本能」が備わっているらしい。
こういう自己保存の本能だとか、回収ができなくなったコストの投下が意思決定に影響を及ぼすサンクコストだとか、いろいろあると思うんですが、人間はときに非合理的で他人も自分でさえも説明できない判断・言動をしてしまうことがある。
本書を読んであらためて人間の合理・論理からはずれた「生」を感じました。この小説を一文で表すと、もはや愛していない女性から離れられない男性の葛藤を描いた作品です。なぜ別れられないのか。
愛しているのに、愛されないのは、ひどく不幸だ。しかし、もう愛していないのに、情熱的に愛されるのも、れっきとした不幸なのだ。
恋愛至上主義な王道のフランスの作品なのでしょうが、恋愛小説なのかはぜひお読みになって確かめてみてください。
あらすじ
将来を嘱望された青年アドルフは、P伯爵の愛人エレノールに執拗に言い寄り、ついに彼女の心を勝ち取る。だが、密かな逢瀬を愉しむうちに、裕福な生活や子供たちを捨ててまでも一緒に暮らしたいと願うエレノールがだんだんと重荷となり、アドルフは自由を得ようと画策するが......。
おおまかな内容を頭に入れて読み始めると、思ったよりも恋愛パートが少ない。エレノールから好意の返報はわりとすぐにやってくるし、アドルフは密かな逢瀬の危険にさっそく気付く。しかし気が付けばエレノールの返報が強くなり、アドルフは決断を先送りし、最終的に決断できなくなる。
そんな男性にしっぺ返しを食らうとも読めます。だけど、本書はただ悪い男・かわいそうな女のような描写はしません。ちゃんと女性側の「人間の業」も描いている。
しかもそれは怨念とか妬みとかそういった感情でなくて気持ちそのものはピュア。だからこそアドルフは思い悩むし、その場しのぎの回答をしてしまう。
また本書はある遺品の手帳がベースとなっている体裁なので、回想録といったような構成になっています。男性(アドルフ)のその時の気分や心持ちが緻密な文章によって語られます。
ただ、人物描写は余白をだいぶ残しています。たとえばエレノールは年上の美人だったような描写はあるけれど、けっこう想像に委ねられています。
個人としては91年「ツイン・ピークス」のノーマ(ペギー・リプトン)のイメージでした。このあたりは読んだ方と疑似キャスティング会議をしてみたいなあ。
というわけで以上です!
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