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『うらおもて人生録』(色川武大)は至高の深夜ラジオだ
『うらおもて人生録』を読んだ。人生のバイブルになるかもしれません。
どなたかの推薦で読んだ。誰でしたかな。届いた本の帯に目をやると、糸井さんの顔が。どうやら、ほぼ日で本書をテーマに読書会を開催したらしい。
色川武大。またの名を阿佐田哲也。別のペンネーム(他にもある)で麻雀小説を生み出しました。いわゆるインテリの方だととらえていました。
本書では、本人がまずそこから否定します。「俺はグレた不良でした」と。
「そんな自分がこれまで生きてきたなかで得たセオリーを伝えたい」ここが本書の意図であり、核となっています。
色川武大は言います。読んでほしいのはクラスで上から十番目以下のような子たち。あと、そのお母さん。
実際、色川武大はアウトローだった。中学を停学となり、やがて退学。もちろんいまだったらクラブ活動みたいなことをしていただけなんだけど、戦争の時代、自分で雑誌をつくるような遊びもダメだった。
読んでみるとまず驚くのがその温かさ。言葉は口語調でやさしく、なんだろう、深夜のラジオで自分だけに語りかけてくれているような、そんな印象を持ちます。
たとえばこんなこと。
人を好きになることと、人から好かれるということは、表裏一体のものなんだな。そうして、人格形成期を迎える前までの子供の頃で一番大切なのは、愛し、愛される、という経験を積むことだな。俺なんか、今になってみるとつくづくそう思う。次に大切なのが、健康。学問なんかその次くらいだな。
まずたくさんの相手を好きになり、さまざまな角度からの自意識を産み、同時にそれらのものに対する自分の姿勢もつくっていく。文化とは、これにつきるのです。
アウトローでまだ十代の頃、博打の道へ本気で進もうとしていた色川武大。麻雀の描写なんてリアルでグッと引き込まれる。『麻雀放浪記』そのもの。和田誠監督が撮った真田広之を思い出しました。
「プロの秘訣はフォームを崩さないことにある」なんてことも教えてくれる。こういう真理は、今も昔も変わらない。
どうやらこの本は、はじめ毎日新聞に掲載されていたようです。週間連載とかなのかな。幼い頃から始まって、時系列で話が進んでいくんです。思い出しながら書いているのもわかるから、そこもいい。
「で、この話はまだまだ続くよ」で終わるようなところだとか。
具体的であるからこそ、感情移入できることってあると思います。自分の心と照らし合わしながら読んでみるとおもしろい。そういう意味で、この本は読書会にとっても合っている。
ぼくにとって色川武大とは、好きな人のルーツをたどるとそこにいる人でした。山口瞳が「鳴子の親分」と呼ぶくらい交流があったり、立川談志と芸談したり。
敬称略だけど、吉行淳之介・大橋巨泉・和田誠・タモリ・たけし・いろいろいる。
あとは、伊集院静の『いねむり先生』に書かれていたような、ちょっと狂人じみたところあるけれど、愛されキャラ。そんなイメージでいました。
『うらおもて人生録』、いやあ、濃い人生を疑似体験できるのはとってもおもしろい。
というわけで以上です!
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