
筋肉組織の分類と特徴 〜理学療法士・作業療法士のための生理学の教科書〜
こんにちは、理学療法士の大塚です。前回は運動制御の臨床応用をお伝えしました。
今回は、臨床で役立つ筋肉の知識!筋肉の分類と特徴を解説します。筋肉の種類、構造、機能、リハビリへの応用を理解し、臨床で活かしましょう。
1. 筋肉組織の分類
筋肉は、大きく分けて3種類あります。骨格筋、平滑筋、心筋それぞれの特徴を見ていきましょう。
骨格筋(Skeletal Muscle):運動と姿勢を支える力
構造と制御
横紋(ストライプ状の模様)があり、骨に付着して関節をまたぎ、運動の支点となります。 随意筋(ずいいきん)であり、脳からの指令で意識的に動かせます。運動ニューロン(うんどうにゅーろん)からの信号で収縮します。 筋線維(きんせんい)(筋細胞)は非常に長く、多数の核を持ち、効率的なタンパク質合成を可能にしています。機能
体の運動、姿勢の保持を担い、日常生活における様々な動作を可能にします。 強い力を発揮でき、高速収縮が可能です。 ジャンプや重量挙げなど、瞬発力が必要な動作に関与し、スポーツパフォーマンスにも影響します。 高出力の運動を続けると、エネルギーを消費しやすく疲労しやすいという特徴があります。例
上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)など、四肢の動きに関わる筋肉が代表的です。 意識して腕や脚を動かすことで、関節運動を生み出します。
平滑筋(Smooth Muscle):内臓機能をコントロール
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構造と制御
横紋がなく、内臓の壁(消化管、血管、気管支など)に広く分布し、生命維持に不可欠な機能を支えます。 不随意筋(ふずいいきん)であり、自分の意思で動かすことはできません。 自律神経(交感神経、副交感神経)やホルモンによって制御され、体内の環境を維持します。 紡錘形(ぼうすいけい)(中央が太く、両端が細い形)をしており、核は1つです。機能
収縮速度は遅いですが、持続力に優れ、長時間にわたる活動に適しています。 血管の収縮・拡張による血圧調節、消化管の蠕動(ぜんどう)運動による食物の運搬など、内臓機能を調節します。 エネルギー消費が少なく、疲労しにくいという特徴があり、持続的な活動を支えます。例
胃や腸の壁、血管壁、気管支など、生命維持に不可欠な機能を支える筋肉です。 消化、血流、呼吸など、生命維持に直接関わる機能を調節しています。
心筋(Cardiac Muscle):生命を維持するポンプ
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構造と制御
横紋があり、心臓の壁を構成し、血液を全身に送り出すポンプとして機能します。 不随意筋であり、自分の意思で動かすことはできません。 洞房結節(どうぼうけっせつ)(SAノード)という特殊な細胞が、自動的にリズムを作ります(自動能)。 自律神経が、拍動の速さや収縮力を調節し、体の活動状態に合わせて血液の供給量を調整します。 枝分かれした細胞が介在板(かいざいばん)という構造で連結し、電気信号を効率的に伝え、心臓全体が協調して収縮します。機能
血液を全身に送り出す、唯一無二のポンプとして機能します。 規則正しく、生涯にわたって拍動し続ける必要があり、極めて高い疲労耐性を持っています。 長い不応期(ふおうき)を持つため、テタヌス収縮(連続的な収縮)は起こらず、弛緩期を挟んだ規則正しい収縮を繰り返します。例
心房、心室の壁を構成し、血液を送り出すポンプとして機能します。 洞房結節(SAノード)は、心臓のリズムを作るペースメーカーとして機能します。
筋肉の種類別比較表
特徴骨格筋平滑筋心筋構造横紋あり、多核、長い筋線維横紋なし、単核、紡錘形横紋あり、介在板で連結、枝分かれ構造制御随意筋(意識的に制御可能)、運動ニューロンによる制御不随意筋、自律神経とホルモンによる制御不随意筋、洞房結節による自動能、自律神経による調節機能体の運動と姿勢保持、高速収縮可能、強い力を発揮内臓機能の調節、遅い収縮、持続的な活動が可能心臓ポンプ機能、規則的な収縮、生涯持続特徴疲労しやすい、高出力運動可能疲労しにくい、エネルギー消費が少ない疲労しにくい、強直収縮なし代表例上腕二頭筋、大腿四頭筋消化管壁、血管壁、気管支心房・心室の壁
2. 筋肉の構造的特徴:効率的な力の発揮
筋肉は、効率的に力を発揮するために、組織構造や細胞の形など、様々な特徴を持っています。
筋線維の階層構造(骨格筋):運動の多様性を生み出す構造
骨格筋は、以下の階層構造で力を調節します。
筋線維(きんせんい):筋肉を構成する細長い細胞。
筋束(きんそく):複数の筋線維が束になったもの。
筋全体:多数の筋束が集まって構成される、筋肉全体のことです。
各階層は、それぞれ結合組織の膜(筋内膜、筋周膜、筋外膜)で覆われ、保護・支持されています。 この階層構造によって、筋肉は、わずかな力から大きな力まで、柔軟に調節することができます。

平滑筋や心筋も細胞が集まって構成されていますが、骨格筋ほど明確な階層構造は持ちません。
各筋組織における細胞の形態と構造
筋肉の種類によって、細胞の形や構造が異なります。
骨格筋細胞(筋線維)
長い円柱状で、非常に大きな細胞です。複数の核を持ちます。 筋原線維(きんげんせんい)という収縮装置が規則正しく並び、横紋を作ります。平滑筋細胞
細長い紡錘形をしています。 核は1つです。 横紋はありません。 細胞が収縮する際に、全体がねじれるように変形するのが特徴です。心筋細胞
短い円柱状で、枝分かれしています。 核は1つ、または2つです。 骨格筋と同様に横紋が見られます。 介在板(かいざいばん)という特殊な構造で隣の細胞とつながり、電気信号を効率的に伝えます。
神経支配と機能の違い:自律 vs 随意
筋肉の動きは、どの神経によって制御されているかによって、大きく異なります。
骨格筋
体性神経系(たいせいしんけいけい)の運動ニューロンによって支配されます。 随意運動(ずいいうんどう):自分の意思で動かすことができます。 神経からの信号がなければ収縮しません(一対一の厳密な支配)。平滑筋
自律神経系(じりつしんけいけい)によって支配されます。 不随意運動(ふずいいうんどう):自分の意思では動かせません。 交感神経や副交感神経が、状況に応じて作用します。 筋肉自体が自動的に活動する性質(自動性)を持つ場合もあります。心筋
自律神経系が、心拍数や収縮力を調節します。 洞房結節(どうぼうけっせつ)という特殊な細胞が自動的に電気信号を発生させ、心臓全体に伝えます(自動能)。 神経からの信号がなくても拍動し続けますが、自律神経によってその速さが調節されます(調節的支配)。
ミトコンドリアの量とエネルギー代謝の違い:疲労しやすさの鍵
筋肉が活動するためのエネルギーを作る仕組みは、筋肉の種類によって異なります。
骨格筋
遅筋(ちきん)(タイプI線維):ミトコンドリアが多く、有酸素性代謝(ゆうさんそせいたいしゃ)でエネルギーを作ります。持久力が高く、疲れにくいのが特徴です。 速筋(そっきん)(タイプII線維):ミトコンドリアが少なく、解糖系(かいとうけい)でエネルギーを作ります。大きな力を発揮できますが、疲れやすいのが特徴です。平滑筋
主に有酸素性代謝でエネルギーを作ります。 ATP(アデノシン三リン酸)の消費速度が遅いため、少ないエネルギーで長時間活動できます。 そのため、疲労しにくいという特徴があります。心筋
ミトコンドリアの密度が非常に高く、細胞の体積の20~30%を占めるとも言われています。 ほとんどすべてのエネルギーを有酸素性代謝に頼っています。 酸素が供給されない状態には弱く、すぐに機能が低下してしまいます。 しかし、酸素が十分にあれば、非常に高い疲労耐性を示します。
4. 臨床応用とリハビリテーション:知識を現場で活かす
これらの筋肉に関する知識は、臨床でどのように活かせるのでしょうか? 各筋肉組織のリハビリテーションについて解説します。
骨格筋のリハビリテーション
筋萎縮の予防と筋力強化
長期間の安静やギプス固定などにより、筋肉を使わない状態が続くと、筋萎縮が進みます。 リハビリテーションでは、筋萎縮を予防し、筋力を回復させることが重要になります。 他動運動や電気刺激などを用いて、筋肉に刺激を与えます。 座位や立位での運動、抵抗運動などを段階的に行い、筋力トレーニングを行います。 トレーニング初期は、神経系の適応により筋力が向上します。 その後、筋線維自体の肥大により筋力が向上します。筋疲労回復のメカニズム
運動後の筋肉は、エネルギー源の再合成と代謝産物の除去が必要です。 ATPを再合成するため、クレアチンリン酸が利用されます。 乳酸は、有酸素的に分解されたり、肝臓で再合成されたりします。 クールダウンや筋ポンプ作用などを利用して、疲労回復を促します。臨床でのポイント
オーバーワーク(過度な運動)を避け、適切な休息を取ることが重要です。 筋肉を「使う」頻度と量を意識し、継続的な運動を行います。 電気刺激療法(EMS)は、随意的な収縮が難しい場合に有効な手段となります。 骨格筋の生理を理解し、適切な運動処方と休養指導を行うことが、効果的な機能回復につながります。
平滑筋のリハビリテーション
血圧管理と血管平滑筋の役割
血管の平滑筋は、血流の分配や血圧の調節に重要な役割を果たしています。 起立性低血圧(立ちくらみ)や、運動時の血圧変動に注意が必要です。 段階的な起立訓練や、下肢の筋ポンプ作用を利用して血圧を安定させます。 有酸素運動は、血管内皮機能を改善し、血管の柔軟性を高めます。 呼吸法やリラクゼーションは、自律神経を整え、血圧を安定させる効果があります。消化管運動の調整と嚥下リハビリ
手術後の腸管麻痺(イレウス)に対しては、早期離床や歩行が有効です。 腹部マッサージや膝抱え運動は、腸の蠕動運動を促します。 嚥下(えんげ)リハビリでは、食道相(食物が食道を通過する段階)を考慮し、姿勢調整や食事の形態を工夫します。臨床場面での例
脳卒中の患者さんに対して、起立訓練で血圧を安定させる。 胃瘻(いろう)を造設した患者さんの消化管機能を改善する。 嚥下障害のある患者さんに対して、安全に食事できる方法を指導する。
心筋のリハビリテーション
心不全リハビリテーションの基礎(心拍出量の向上)
心不全(しんふぜん)とは、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送ることができなくなる状態です。 心臓リハビリテーション(心リハ)は、心不全の患者さんの運動能力を改善し、QOL(生活の質)を高めるために行われます。 心臓に過度な負担をかけないように、運動強度を慎重に設定します。 有酸素運動を中心に、全身の酸素利用効率を高めることを目指します。運動耐容能の改善と有酸素運動の影響
運動耐容能(うんどうたいようのう)とは、運動に耐えられる能力のことです。 ピーク酸素摂取量(ピークVO₂)や6分間歩行距離などを指標として評価します。 有酸素運動を継続的に行うことで、ピークVO₂が上昇し、運動時の心臓への負担が軽減されます。 血管内皮機能を改善し、心臓や筋肉への血流を増加させます。臨床での実践例
心筋梗塞(しんきんこうそく)後の患者さんに対して、早期から心リハを開始し、再発予防と心機能維持を図ります。 慢性心不全の患者さんに対して、運動療法を処方し、日常生活での活動量を増やします。
5. まとめと確認問題:知識の定着を確認
まとめ: 筋肉組織(骨格筋・平滑筋・心筋)の特徴をまとめました。それぞれの筋肉の種類、構造、機能、リハビリテーションへの応用を理解することで、臨床でより的確な判断や治療選択ができるようになります。
骨格筋: 随意筋、横紋あり。運動を担う。速筋と遅筋があり、特性が異なる。神経支配は厳密。
平滑筋: 不随意筋、横紋なし。内臓機能を調節。自律神経によって制御される。
心筋: 不随意筋、横紋あり。心臓を構成し、自動的に拍動する。高い疲労耐性を持つ。
各筋組織の違いを理解し、臨床で活かしましょう!
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