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アイディアを⽣み出す⾝体

アイディアを生み出す身体
ーデザイナー志望の私を、研究者にした本ー

 幼い頃から自分のアイディアを言葉で説明することが苦手だった。だから、言葉よりも絵で表現できるデザイナーになると思っていた。そんな私に衝撃を与え、研究者へ導いた本、それが

マイケル・ポランニーの「暗黙知の次元」だ。

 私の人生を変えたこの本は、十年たった今でも、何かを生み出すことに対して深い洞察を与えてくれる素晴らしい本だ。

皆さんは「暗黙知」をご存知だろうか?

 暗黙知というと「まだ言葉にできていない知識」を思い浮かべるかもしれないがそうではない。著者によると、暗黙知は言葉にすることができない「身体に宿る知」のことだ。

 例えば私達は自転車に乗ることができても、何故乗れるかを説明するのは難しい。言葉にできることより多くのことを身体が覚えているのだ。アイディアも同様で、言語を介さず身体の知識から生まれるので、そもそも言語化が難しいのだ。

 このことは、言葉が苦手な私を救ってくれた。その嬉しさから、暗黙知の表現方法を追求するようになり、私は研究者になってしまった。 
 
 よく編集業界でも「現地に行って取材しよう」と言われるが、それは相手の表情、間などの暗黙知を身体で覚える重要性を表しているのだと思う。身体で覚えた知識がそのまま表現に繋がるからだ。

 さらに、暗黙知は「プロ」について教えてくれる。

 著者によると、被験者に記号と関連付けてショックを与え続けると、被験者はショックを与える記号を暗黙的に予測し始めるそうだ。

 プロとは、練習を繰り返すことで身体が無意識に予測できる状態になることなのだろう。本の書き方を勉強すると「良いタイトルを書くコツ」のようなhow to を良く目にするけれど、結局は、読み手に響くタイトルを無意識に予測できるまで経験を積むことが重要なのだと思う。

 この本は難解で読みにくいと感じるかもしれない。しかし、人の創造性に対して深い洞察を与えてくれる忘れられない一冊だ。

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Kyon
ダメ研究者、編集を学ぶ

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