マガジンのカバー画像

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ

14
連載小説『少女舞闘綺伝 ジュウトハチ』のまとめです。 最初は漫画原作としてシナリオ形式で3話分ほど書いたものを、小説形式で書き直しています。そのため「小説版」となっています。 原…
運営しているクリエイター

記事一覧

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第一話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第一話

 秋の日の昼下がり、所は東京、瀬田谷(せたがや)区の閑静な住宅街、絵に描いたような平穏な日常。

 裏通りの一角、人目につきづらい袋小路となった場所で、そんな平穏をちょっとだけ乱す光景が繰り広げられていた。

 派手な原色の特攻服、いわゆるヤンキーとか族とか呼ばれる少年少女が身に着けるアレ、今どきはほとんど見かける事も少なくなったアレ、それぞれに異なる色の、そのアレに身を包んだ三人の少女が一人の少

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第二話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第二話

 ここは真田大輔の通う高校 朝のホームルームか始まる頃合いだ。

 昨夜は交代で仮眠を取りつつ真田家での護衛を行った三好伊三美(みよし いさみ)と犬塚信(いぬづか しのぶ)の二人は、大輔を高校まで送り届けると何処かへ姿を消してしまった。

(どこか見えない所から見守っているんだろうか……)

 などと大輔が考えつつ、校庭の方をぼんやりと眺めていると予鈴がなり、担任の教師が入ってくる。

 担任教師

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第三話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第三話

 真田家の近くにある小さな公園、犬川 荘(いぬかわ そう)と木子 中心(きね まなか)の二人が向かい合っていた。

 白木の棍を構える中心に対して、荘は素手のままだ。

「良いんスか?得物を使わなくて」

 中心の問いかけに荘が答える。

「要らん、これくらいでちょうど良い」

「……手加減はしねーっスよ」

 中心が棍を振るい襲いかかろうとした、まさにその瞬間、荘が手を上げた。

「ちょっとまて

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第四話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第四話

 10年前、アメリカ合衆国、テキサス州エルパソの郊外で、かねてから誘拐と人身売買の容疑のあった人物に司法当局による捜査の手が入った。

 肉屋を経営するその人物が所有する古い建物は、郊外でも人気のない地域にあった。強制捜査のため突入した捜査チームは、そこで恐るべき光景を目撃した。悪臭。牢に閉じ込められた数名の幼い少年少女たち。壁にかけられた、拷問や性的虐待のためと思しき器具。バケツの中の肉片。

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第五話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第五話

シスター・ルーが現れた翌日、大輔の高校の放課後を待って、現在護衛の任務に付いている十勇士と八犬士、その全員が集められた。場所は真田家のすぐ近くに完成したばかりのマンションの一室だ。

 一階の入口に設けられた数字キーに暗証番号を打ち込み、中に入る。天井の高いエントランスホールを抜け、一階の一番端の部屋、ドアフォンのボタンを押し、少し待つとドアが開き、中からジャージ姿の三好伊三美(みよし いさみ)が

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第六話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第六話

「犬山さんです、予定よりも早く着いたそうです」

 犬塚信の一言で、その場の張り詰めた空気が緩んだ。

 すごいなみんな、と大輔は感心していた。

 ドアフォンが鳴った瞬間、つまり予定に無い来客があった瞬間に、その場にいた全員が立ち上がり、すぐにでも戦いに移れる姿勢になっていた。しかも、特に声を掛け合ったわけでもないのに、霧隠才華と三好清海は玄関の方へ、三好伊三美と犬川荘は窓の方へと、分担して注意

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第七話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第七話

 秋晴れの日曜日、緑地や公園が数多くある瀬田谷区でも有数の広い公園の一角に大輔は居た。

 一昨日から、十勇士と八犬士を率いる者として相応しい力を身につけるための特訓とでも言うようなものが始まっていた。

 休日には主に身体的な能力の向上のための訓練を行なうという事になり、朝食後に入念な準備体操とストレッチに始まって、自宅から公園まで、さらに広い公園内を一周するランニングを終えた所だった。

 本

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第八話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第八話

 伊三美達の闘いから、時は少し遡る。

 犬塚信は真田家へ向かう途上にあった。

 八犬士の本部は警視庁内にある。そこへ立ち寄り、連絡事項を取り交わした帰りだった。

 メールその他の電気的な通信手段では、どうしても盗聴や傍受といったリスクをゼロにできないため、直接会って話す、結局のところ、これが一番確実な防諜対策だった。

 駅近くの表通りを歩く信の前に一人の少年が立ち、話しかけてくる。

「僕

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第九話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第九話

 霧隠才華は両目を閉じ、両手で刀印を組んで一心不乱に摩利支天の真言を唱えている。

 その背後に一人、ゆっくりと忍び寄る者がいた。手には細身の刃物を握っている。

(クラウディアさんはじっとしてろって言ってたけど、どう見ても隙だらけだ、やってやる、あたしだって役に立つ所を見せてやる……!)

 

 才華はやおら目を開き、振り向くと虚空に向けて手を伸ばす。

「ひっ!」

 何も無いように見えてい

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第十話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第十話

 一連の襲撃があった翌日。瀬田谷区の清城。この区にいくつか存在する、高級住宅街として知られる場所の一つである。

 ここには、附属の幼稚園から大学まで、一貫した教育を提供し、良家の子女が通うことで知られる学校があった。

 その高等部の授業がそろそろ終わるかという頃合いの時間帯、学園の周辺には、普段の清城に似つかわしくない、なんというかガラのよろしくない女子たちの姿がそちらこちらにあった。

 い

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第十一話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第十一話

 清城学園前駅にほど近い、レトロな雰囲気の喫茶店、三好伊三美と犬川荘、そして木子中心と周千通の四人がテーブルを挟んで向かい合って座っていた。

「あーほれ、さくらんぼやるからもう泣くな」

 涙は止まったものの、まだ時折しゃくりあげる千通に伊三美が話しかける。

「ひっく……泣いてません、それに……ひっく……そんなことでは懐柔されないので」

「あっそう……いらない?」

「……ください」

 伊

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第十二話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第十二話

 真田大輔が霧隠才華から隠形の手ほどきを受けた翌日。

 放課後、大輔はいつもの如く才華から座学を受けていた。

 今日使っているのは広いリビングダイニングの脇にある小部屋だ、交代で休憩室に、時には仮眠室として使っているらしい。

 ベッドと机が置かれた以外には、あまり飾り気のない部屋だった。

 今日は戦術の基礎理論、古代中世から近世に至るいくつかの戦いを参考に、戦場における基本的な戦術の諸々を

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第十三話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第十三話

 真田大輔は武藤松凛と名乗った女と並んで歩きだしながら、考えていた。

(武藤……松凛……顔も名前も、どこかで覚えが……あ!)

 記憶がよみがえると同時に、言葉が口をついて出た。

「まつりん!あの、まつりん!?」

「懐かしいな、その呼び方……知ってたの?」

「知ってるもなにも、新日本女子プロレスのトップアイドルレスラーだったじゃないですか!」

 大輔の記憶に残る武藤松凛は、ひらひらしたア

もっとみる
少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第十四話

少女舞闘綺伝 ジュウトハチ 小説版 第十四話

 出された料理をほとんど平らげた頃には、大輔の腹ははち切れそうになっていた。

 食後にはさらに、フルーツの盛り合わせまでが出された。バナナにオレンジ、パイナップルにマンゴー、他にも名前は分からないが、南国産と思しきフルーツが何種類か、それらが手の込んだ飾り切りにされ、美しく盛り付けられていた。

 湯気とともに馥郁とした香りを立ち昇らせるコーヒーを一口飲んだトルベリーナは、大輔に言った。

「さ

もっとみる