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自分をそのまま信じていてね 明日は来るよどんな時も~読書note-34(2025年1月)~

我が足利市の中心にある中橋の架け替え工事が昨年10月から始まった。トップ写真はニューミヤコホテル9階からの夜景。中橋の部分だけ渡良瀬川の堤防が低くなっており、大雨や台風時に氾濫の危険性が高く、当市の長年の課題であった。歴代市長が問題を先送りしてきた中、住民説明会にも積極的に参加して理解を求め、工事を順調にスタートさせた現市長は立派だと思う。

一方、問題を先送りにしてきた自分、いよいよこの2月は大きな決済が二つあり、社長就任以来最大の会社倒産の危機であり、父の介護もお金のかかる老人保健施設への入所が待ったなしとなった。父は一昨年まで社長職だったので年金と合わせると現役世代並みの収入(額面上は。会社傾いてからは役員報酬も実際は未払)があったので、医療保険も介護保険も3割負担なのだよ、トホホ。

生き地獄のような現実から逃避すべく、年明け1月も6冊読了。物語の世界だけが救いよ。



1.蜜蜂と遠雷(上) / 恩田陸(著)

恩田さんの新作「spring」を読みたくて、その前に同じコンクールもののコチラを読まねばと。5年間積ん読で温めてきて、満を持して年末年始の9連休に読むつもりが、12月末から急遽父親をワンオペ介護することになり、読み始めたのは三が日過ぎ。

近年、その優勝者がその後に名立たるコンクールで優勝することが続いて、注目を集める芳ヶ江国際ピアノコンクールを舞台に、世界の若き天才ピアニスト達が敵と己と闘い続ける物語。上巻は第一次予選〜第二次予選途中まで。

家にピアノがない養蜂家の息子の蜜蜂王子こと風間塵16歳、元天才少女で母の死の直後に表舞台から逃げ出した栄伝亜夜20歳、楽器店勤務のサラリーマンで妻子を持つ最高齢の高島明石28歳、絶対音感を持つ日系三世で完璧な技術と音楽性で優勝候補のマサル19歳の4名の話が、順番に本人(又は周辺人物)目線で語られて行く。

こんなにワクワクしながらページ捲ったの、いつ以来だろう?音楽という文章で表現し辛いものが、4人の個性豊かな演奏が聴こえてくるかのような文章で綴られる。本当に全員の演奏が違って聴こえてくるんだもん。読んでるだけで、聴こえないはずだけど。巻頭に4人の演奏曲一覧が載っているので、スマホ片手にその曲を調べて聴きながら読むと、よりその表現が沁みてくる。


2.蜜蜂と遠雷(下) / 恩田陸(著)

上巻に続き、下巻は芳ヶ江国際ピアノコンクールの二次予選途中から三次予選、そして本選まで。二次予選までは、前回紹介した4名のコンテスタントの様子を順番に描きながらも、自由奔放で煽情的、野性的な演奏をする風間塵という天才少年が、伝統と権威で固められたクラッシック業界に受け入れられるのか、がメインテーマの物語かと思っていた。

しかし、途中から栄伝亜夜というもう一人のかつての天才少女の存在が大きくなってくる。演奏順がいつも塵の後ということもあり、塵の演奏に刺激を受けて、ピアノの演奏のみならず内面も飛躍的に成長していき、自分自身の音楽を極めていくのだ。

三次予選で2曲目のシューマンの「ノヴェレッテン」を聴いて、客席のマサルや奏が亜夜のここまでの足跡を振り返り涙する場面があるのだが、自分もスマホで「ノヴェレッテン」を流しながら読んでたら、涙が止まらなくなった。何とも不思議な体験だった。

これまでの人生で、ピアノ曲はショパンしか聴いてこなかったことを悔やむよ。と言っても、ショパンもCDを2枚持っているだけだが。そして、生のピアノの演奏を直ぐに聴いてみたくなった。いや、自分も弾いてみたくなった。

それにしても、恩田さんの「音楽を文章にする」という離れ業に感服し、小説の素晴らしさを改めて痛感した。バレエを題材にした最新作「spring」、今度は踊りをどう文章で表現するのか楽しみだ。


3.問題物件 / 大倉崇裕(著)

今やミステリー作家というより、劇場版名探偵コナンの脚本家として有名な、大学時代の山岳同好会の友人・大倉君の作品がドラマ化されると聞き慌てて読む。彼の作品はデビュー以来大体読んでいたつもりが、これは読みそびれていた。大倉作品は昨年3月に読んだ「犬は知っている」以来。

大島不動産販売に入社した若宮恵美子は、前社長の遺児で難病に苦しむ大島雅弘の世話係に。しかし、現社長の高丸が、雅弘を追い落とすために新設した、クレーム対応専門部署に配属され、問題物件の解決を命じられる。実質、恵美子一人の部署なので為す術ないところに、探偵を名乗る男・犬頭光太郎(雅弘のぬいぐるみ・犬太の化身!?)が毎回現れて、問題を解決に導く5話の短編集。

「死神さん」や「警視庁いきもの係」等、彼の書くバディものはホント面白い。本作含めどれも、特異なキャラの主人公と普通の真っ直ぐな心を持つ相棒が、互いに刺激し合い、それぞれの特長を活かしながら事件を解決していく。不動産ミステリーは少し難解だが、映像化は犬頭のエンタメ性が発揮されて良いかも。

ドラマでは犬太はぬいぐるみではなく、本物の生きている犬だった。最近はリアルな普通の日常を描くドラマが多いが、こういうぶっ飛んだ、ファンタジックな設定の話も面白いよね。ホットスポットの宇宙人と言い。


4.リカバリー・カバヒコ / 青山美智子(著)

昨年10月に市立図書館で予約してた本作、ようやく順番が来た。青山さんは11月の「月の立つ林で」、12月の「木曜日にはココアを」に続いて3ヶ月連続、知らぬ間に心が癒しを求めているってことだろう。昨年の本屋大賞7位、全5話から成る青山さんお得意の連作短編集。

今回は近所の公園に設置してあるカバのアニマルライド、通称「リカバリー・カバヒコ」が全話を繋ぐ共通アイテム。自分の体の治したい部分と同じ部分を触ると回復する、という都市伝説のあるカバヒコのもとに、悩みを持った人々が訪れる。同じマンションに住む住民が各話の主人公なので、他の彼女の作品よりも各話の登場人物が頻繁に交わっている。

今、自分が父を介護中だからか、年老いた母を心配するも関係が上手く行かぬ息子が主人公の最終話「和彦の目」が胸に沁む。50代の自分でもなるべく子ども達の世話にはなりたくないと思っているが、ましてや体が衰えてきたら申し訳ない気持ちが増すだろうし。そんな和彦の母の気持ちも、親に恩返ししたい和彦の気持ちもよく分かる。

あぁ、カバヒコの左股関節と腰を触りたい。しかし、メンタル弱ってる時に読む青山作品は、スポンジのように沁み込むよねぇ。


5.月まで三キロ / 伊与原新(著)

以前、友人に「八月の銀の雪」をお薦めされたり、「あの本、読みました?」に出演された伊与原さんを見て好感を持ったり、彼の原作と知らずに見始めたドラマ「宙わたる教室」に超ハマったり(昨年のマイベストドラマ)と、そんなこんなでこの本はだいぶ前に買っていた。先月、伊与原さんが直木賞を獲ったので、これは今読まねばと。伊与原作品は初めて。

表題作を含む、どれも科学をネタにした6篇の短編集。ドラマ「宙わたる教室」は、様々な人間模様が見られる「定時制高校」を舞台にしているからこそ、科学と人情ものが融合した傑作なのだと思っていたが、いやいや、この6篇とも見事な融合だった。科学と人情ものって、ホント相性が良いんだよなぁ。

中でも、自殺を考えている男がタクシー運転手に「月に一番近い場所」まで連れて行かれる表題作「月まで三キロ」と、大阪のかまぼこ屋の兄弟(後を継いだ弟と秀才の兄)と元ギタリストでフーテンの哲おっちゃんとの秘密が最後に明かされる「天王寺ハイエイタス」にただただ涙。

元々はミステリー作家を目指していたというだけあって、とてもよく練られた構成で、そこに科学と人情が相まって、他に類を見ない作風だなぁと。直木賞受賞作の「藍を継ぐ海」も早く読みたい。


6.恋とか愛とかやさしさなら / 一穂ミチ(著)

「ツミデミック」の市立図書館の予約の順番が相変わらず回って来ないうちに、12月の「光のとこにいてね」に続き、本作が早く借りれた。昨年9月に読んだ「スモールワールズ」にめっちゃハマったので、直木賞受賞後の第一作である本作も期待していた。

プロポーズされた翌日にその彼が盗撮で捕まってしまうカメラマンの新夏(にいか)目線の「恋とか愛とかやさしさなら」と、盗撮で捕まった啓久(ひらく)目線の「恋とか愛とかやさしさより」の2話(2章)から成る、まぁ、あまり月の締めくくりには読みたくない題材の作品。

第1話では新夏が彼の犯罪を赦せるか赦せないかの葛藤を描く。ここだけでも充分、我々は新夏同様に選択を突き付けられ考えさせられるのだが、第2話では啓久自身も性犯罪の中でも軽微だと思っていた自分の犯した罪を、世間はこれでもかというくらい赦さないのだよ、という現実を突き付けられる。「光のとこにいてね」同様に美しい文章とは裏腹に、全編通じ容赦ない。

一穂さん自身が「自分だったらどうするだろう?答えの出ない問いかけを、
何度も何度も繰り返して書きました。」と仰っているように、えぐるよねぇ、えぐり過ぎるよ、この物語。

第1話の中盤にタイトルになった「恋とか愛とかやさしさ」と、「信じる」を比較している文章が出て来てハッとする。そうか、別居中の妻は俺を「信じる」ことが出来なくなったのだと。


1月から芳根京子主演のドラマが始まったからか、U-NEXTで「表参道高校合唱部!」がおすすめで出てきたので、何とはなしに見始めたら、若き俳優たちの純な歌声にめっちゃ感動して泣けた。

特に、第3話の野球推薦で入学したが目の故障で苦しんでいる仲間を応援するために歌った「TOMORROW」(岡本真夜)が、今人生最大のピンチに陥っている自分の胸にもう沁みて沁みて。

涙の数だけ強くなれるよ、と言うなら、俺は相当マッチョなはず。問題を先送りしてきたのも、こうして生き抜くためだ。一年前も「もうダメだ…」と思ったけど、今も何とか会社を存続させている。このどん底から絶対に這い上がるため、自分を信じて踏ん張り続ける。明日は来るよ。


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