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明日がその10001回目かもしれない~読書note-35(2025年2月)~

相変わらず、会社経営が厳しい。先月は社長就任以来最大のピンチだったが、何とか乗り切った。ほぼ5日おきに金策に走り回っていて、先月もある親戚に頭下げてお金を借りに行ったが、見事に正論を説かれ玉砕。「今しのいでも、いずれはダメになる」、「今やめた方が借金が少なくて済む」、周りはそんなのばっかり。俺だって分かってる、だけど、続けたいんだよ。

この借金を断られる感覚、デジャヴだなぁと思って何だろうと考えてたら、四半世紀前に勤めてた保険会社の営業所長時代にノルマ(勤めてた会社では「基準」と言った)に追われ、数字を埋めるために知人という知人に、「保険に入らない?」、「名前だけ貸して!!」と頼みに行って断られたのと同じ感じだと。会社経営と営業所経営とでは、月と鼈ほどの差があるけど。

営業所長は3年間やったので、毎月ノルマがあったので計36回のうち、達成したのはたった1回きり。36分の1だ。それでも会社はクビにならなかったし、給料は下がることはなかった。まぁ、営業所の電気代や電話代を補填したり、架空契約の保険料につぎ込んで、実質給料は下がったけど。2、3年我慢すれば転勤になるし、お気楽な本社に戻れることもある。

今思うと、何をあの時あんなに悩んでたんだろうと。ノルマなんて大したことないのに。会社経営の苦しみに比べれば、かすり傷にも値しない。今は自分だけでなく従業員の生活も懸かっている。お客さんや取引先のことも考えなきゃいけない。ホント胃の痛くなる地獄の日々だ。ここから抜け出せるのかなぁ。

などと悩んでてもどうしようもないので、2月も6冊読んだ。現実逃避、現実逃避、通常運転、通常運転よ。


1.小鳥とリムジン / 小川糸(著)

2年前に「ライオンのおやつ」を読んでいたが、昨年11月に「あの本、読みました?」の三部作特集で小川糸さんがゲストで出ていて、これが三部作だったと初めて知る。慌てて直ぐに第一作目の「食堂かたつむり」の文庫本を買って読み、本作は市立図書館に予約してたら、順番が割と早く来た。

主人公の小鳥は、家族に恵まれず、辛い経験も沢山して、他人と接することに抵抗がある女性。しかし、18歳の時から、病気が進行していくことが分かっていた、父親と名乗る「コジマさん」の世話をすることになり、介護や家事を覚え、何とか普通の生活を送るようになる。

そんな小鳥のささやかな楽しみが、コジマさんちへ通う途中のお弁当屋の前で美味しそうな香りを嗅ぐこと。コジマさんが亡くなった日、思い切って店に入ると、店主の理夢人(リムジン)と出会う。彼も捨て子だったが、オジバ(おじさんでありおばさん!?)に愛情たっぷりに育てられる。

理夢人が自然の恵みである素材を生かした料理と太陽の如く柔らかに包み込む愛で、少しずつ小鳥の心と体をほぐしていく。いつまでも二人を見守っていたい、愛の物語。『食堂かたつむり』は「食べることは、生きること」、
『ライオンのおやつ』は「死にむかうことは、生きること」、そして、本作は「愛することは、生きること」だと。こんな「愛」があれば、生きていけるね。

「ハードなことがいっぱいあったとしても、それと同じだけハッピーになればプラスマイナスゼロになるし、更にもっとハッピーになれば、辛かったことも悲しかったことも、人生全体のパーセンテージとしては小さくなる。」

「小鳥とリムジン」第七章 凹凸 より

この理夢人の言葉に救われる。辛い日々が続くけど、小さな幸せ見つけて生きて行こう。


2.板上に咲く / 原田マハ(著)

昨年一番読みたかった本を、ようやく市立図書館で借りれた。原田マハさんは昨年8月の「太陽の棘」以来。世界に誇る版画家・棟方志功とそれを支えた妻・チヤの挑戦と愛の物語。3年ぶりの長編アート小説とのことで、「リボルバー」、「たゆたえども沈まず」にハマった身としては期待が膨らむ。

棟方は17の時、雑誌でゴッホの「ひまわり」を見て感動し、「ワぁ、ゴッホになるッ!」(自伝では「わだばゴッホになる」と表記)と画家を目指す。やがて上京するも、帝展(帝国美術院展覧会の略。明治末期~昭和初期の官設公募美術展)では落選続き。

やがて帰省した際、チヤと運命的な出会いと再会を果たして結婚する。そして、油絵を諦めて、版画に注力して行く。たった一本の彫刻刀で、世界に挑み、世界を変えた。ゴッホに憧れた貧乏青年が、いかにして世界のムナカタになったか、妻のチヤ目線で語られる。

芸術家が大成するまでには、そりゃぁ物凄い苦労があり、それを献身的に支える人の存在無くしてありえないものだと理解していたが。板に全身全霊を注ぐ棟方、どこまでも信じてついていくチヤ、どんなに辛くとも美しい二人の歩みだった。太陽とひまわり、こんな夫婦になりたかったな。主人公達の情熱に心躍らされる、これぞ原田マハのアート小説だ。

ただ、大きな事件が起こる訳でもなく、非常に淡々とした感じで、棟方の一生が綴られるだけなので、盛り上がりに欠けると言えばそうであり、そこをどう捉えるかかなぁと。何か後半にでも大きなトピックがあれば、本屋大賞とかにもノミネートされたかも。

しかし、逆にこんな天才芸術家を生み出してしまったゴッホの凄さよ。一昨年、ゴッホの「静物画展」で実際に「ひまわり」を見て、確かに感動したが。棟方志功の作品はまだ生で見たことが無いので、ぜひ、いつか見てみたい。

一昨年、新宿のSOMPO美術館へ「静物画展」を見に行って買ったまま引き出しの中で眠ってた、「ひまわり」のポストカードをデスクに飾った


3.天使の棲む部屋 問題物件 / 大倉崇裕(著)

先月読んだ大学時代の友人大倉君原作のドラマ化された「問題物件」の続編。他に読みたい本があったので後回しにしてたら、いつの間にかこの続編の中の話をやってたので慌てて読む。ドラマが意外と(失礼⁉️)面白いんだよね。

今回も不動産会社クレーム対応部署の若宮恵美子と謎の探偵・犬頭光太郎のバディが、問題物件解決のため奔走する計4話。不動産にまつわるミステリーだが、前作よりもちょっと人情味ある作品が多い。

第1話目の表題作は舞台がアメリカのアリゾナ。洋館の一室で犯罪容疑濃厚な人物が次々と拳銃自殺を遂げる、という密室トリックで、まるで海外ミステリーを読んでるよう。これはドラマだとちょっと長くて手が込んだ仕掛けなので、二週に渡ってやるのかなぁ。

「水の出る部屋」は2/5放送の話、原作では水漏れの仕組みが分かりづらかったが、映像化されるとよく分かる。「鳩の集まる部屋」では、終わる直前まで犬頭が登場しない。まぁ、違う形で登場してるのだが。最後の「終の部屋」は、近いうちに死を迎えるであろう人々が住む介護施設の話で、ちょっと切ない。今自分も親を介護してる身なので。

今回は犬頭不在で恵美子が孤軍奮闘する場面も多く、その健気さに勇気もらったよ。ドラマの恵美子役の内田理央が凄く良い味を出していて、その残像を思い浮かべながら読んだからかなぁ。


4.富士山 / 平野啓一郎(著)

昨年12月に「本心」を読んで、直ぐに市立図書館で予約してた本作の順番が来る。先日の「あの本、読みました?」に平野さんがゲストで出てて、本作の話もしていたのでタイミングバッチリ。あり得たかもしれない幾つもの人生の中で、何故、今のこの人生なのか?その疑問を抱えて生きて行く私たちに、微かな光を与える5篇の短編集。

コロナ禍のマッチングアプリで出会った二人の恋愛を描く表題作は、富士山への旅行の新幹線の停車中に起きたある事件をきっかけに、二人は疎遠になって行く。付き合っている恋人同士でも、やはりその人の一面しか見ていないし、理解出来ていないものなのだと痛感する。恋愛ならまだしも、何十年と共にする結婚って、ホント難しいものだよなぁ。

2話目の「息吹」は、本作のテーマをくどいほど追及している。かき氷屋が満席のため、たまたま入ったマクドナルドで、隣の席の人がしてた大腸内視鏡検査の話を聞いた主人公が、その後に検査を受けて大腸ガンを早期発見して、無事手術を成功する。

しかし、「たまたま」で人の生死が決まって良いのか、と考えるようになり、何故かあの日にかき氷を食べた記憶が鮮明に思い出され、マックで検査の話も耳することもなく、大腸ガンの発見も遅れ、余命僅かという世界が本当のように思えてくる。

現実とパラレルワールドを行き来する主人公が病的にも見えるせいか、いや、くど過ぎる文体のせいか、何ともモヤモヤするが、どんどん引き込まれてしまう。映画「ラ・ラ・ランド」やユーミンの「青いエアメイル」等と同様に、人はなぜ「選ばなかった人生」に思いを馳せるのだろう。せつないね。


5.夜に星を放つ / 窪美澄(著)

3年前の直木賞受賞作が文庫化されたので即買い。窪さんは昨年10月に読んだ「じっと手を見る」以来。タイトル通り、星や星座をテーマにした5篇の短編集。先日読んだ「富士山」(平野啓一郎)もコロナ禍の話が出てくるが、本作も5篇中2篇がそうであり、窪さん曰く「せめて小説の中では、ちょっと心が明るくなるものを書きたいと思って書いた」と。

どれも穏やかで何ともせつない物語だが、中でも4作目の「湿りの海」が好き。(「湿りの海」とは、月面の南西部にある円形の海で、天文学者で画家のエティエンヌ・トルーベロが19世紀後半に描いた絵画が有名。)妻子に出て行かれてしまった主人公の孤独さが、妻と別居中の自分と重なってしまったのかな。

遠く離れたアリゾナに居る娘を忘れられずにいたところ(自分を捨て米国人と結婚した妻のことはそうでもない!?)、同じマンションの隣にシングルマザーと3歳のその娘が引っ越してくる。合コンで知り合った綺麗な女性よりも、夜遅くまで聞こえてくる隣の女の子の泣き声に子育ての大変さを慮り、その母親なら「脛に傷持つ同志」(バツイチ)なので気を許せると思い、週末に公園で二人と遊ぶようになり、徐々に距離が縮まって行く。しかし...

5篇とも「別れ」があるのも特徴。「別れ」は喪失感を味わうものだが、「いつかはきっと」と少しの光を見出すことが出来るものでもあるかなと。窪さんがインタビューで、「この本が『ベッドタイムストーリーズ』(寝る前に1話ずつ読むような本)になってくれれば」と仰ってたが、どれもそんな心和らぐ作品ばかりだった。

今晩、誰かを想って夜空を見上げてみよう。風邪ひくよね。


6.ホワイトラビット / 伊坂幸太郎(著)

以前古本屋で買ったままの積読本を手にしたら、奇しくも先週の窪さんに続いて星が出てくる物語だった。伊坂さんは昨年7月の「重力ピエロ」以来。

東京で誘拐ビジネスの末端で働く兎田は、ある日その組織の幹部に新妻を人質に取られ、組織の金を持ち逃げした男(オリオン座の蘊蓄が凄い!?折尾)を見つけ出し連れてこいと命じられる。兎田は折尾が潜伏している仙台へ行き、折尾のGPS発信機の入ったバッグが位置情報を示す住宅街の佐藤家に侵入。

だが、そこに折尾はおらず、住人に見つかり、行きがかり上、彼らを人質に取って立て籠もる羽目になる。一方、その佐藤家は、地元の泥棒の黒澤達が空き巣に入った後だった。らちが明かなくなった兎田は、警察の特殊部隊SITとの交渉で、警察の力を使って折尾を探し出し連れて来る作戦に出るのだが...

語り手(視点)が、兎田、警察、黒澤、組織らに次々と代わり、圧巻のクライムサスペンスに引き込まれて行く。ただ、登場人物ではなく作者の言葉で話を進めていく箇所がちょいちょい出てきて、ちょっとウザい。「ここで彼について詳しく話すのはよそう」みたいな。まぁ、オリオン座やレミゼラブルの蘊蓄同様、物語をテンポよく進めるアクセントになっているのだが。

しかし、後半の壮大なネタバレ以降は、倒叙ミステリーのよう。兎田の立て籠もりと黒澤達の空き巣の二つを繋げた仕掛けは、まさに伊坂マジック。まるで「コンフィデンスマンJP」を見終わった気分だ。


冒頭で述べたように、先月頭にある親戚に金を借りに行ったら断られたが、先月末には違う親戚から借りることが出来て何とか乗り切った。捨てる神あれば拾う神ありか。貸してくれた親戚には、一生かけて恩返しするよ。

ただ、会社を再建するのは、もう難しいかもしれない。入院中の父も病院から施設への入所が決まり、自力で歩けるようにはならないかもしれない。別居中の妻からは、来月あたり離婚を切り出されるかもしれない。

色々と八方塞がりの何もかも諦めてしまいたくなる状況だが、まだ一縷の望みは捨てないで、力の限りもがき続けるよ。10000回だめでヘトヘトになっても、10001回目は何か変わるかもしれない。


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