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小説の集い。

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ゾッとするほどつまらない短い物語の集まりです。内容がだいぶカオスな話もありますが、ご容赦ください。
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#小説

一期一会のヘラクレスオオカブト (超短編小説)

私は近所の田舎道を散歩中、とある意外なものと遭遇した。 それは、かの有名な「ヘラクレスオオカブト」である。金色の羽を携えた、カブトムシよりも大きな、あの「ヘラクレスオオカブト」である。 まさか日本で、しかも田舎の道端でお目にかかれるとは。感動のあまり、私はとりあえずひれ伏した。 ひれ伏しながら、何度も何度も呆れるくらい何度も「わっ、すげ〜〜〜!」と叫んだ。 「嘘付け!そんなことあるわけねぇだろうが!!」と読者の皆様は思うに違いない。 こんな非現実的な話を聞いて疑問に

読書感想文に抗う吉田君。 (短編小説)

読書感想文という悪しき慣習について 4年2組  吉田吉男 私は読書感想文が大嫌いである。 この一言に尽きる。どう足掻いたところで大嫌いである。 何故、読書感想文などというはた迷惑な宿題が、夏休みという名の楽園に降り注ぐのであろうか。実に愚かである。 毎夏のごとく、私はこの読書感想文という名の悪しき慣習に苦しめられ、髪をかきむしり泣き喚くという醜態を晒すことになる。 醜態を晒す私自身も、その醜態を視界に入れなければならない家族の皆様も、皆がひどく不快な感情に苛まれる

VS暴走掃除機。【超短編小説】

「ギュイイイ~~~~~ン」 「ギュオンギュオ~~~ン」 「ギュオオオ~~~~~ン」 コンセントを繋いだ瞬間、突如として掃除機が暴れ出した。奇怪な音色を部屋中に響かせながら、縦横無尽に暴れ回り始めたのである。 この男の部屋の掃除機はコンセントを繋いでいる時に稀に暴れ始める。理由はわからない。決まった規則などなく、何の前触れもなくいつも突然暴走し始めるのである。 そして今日もまた、この男と暴走掃除機との仁義なき戦いの火蓋が切られたのである。 (レディー、ファイッ) まず

『しりとり』 超短編小説

「しりとりしよーぜー」 『え、あー、うん、いいよー』 「リンゴ」 『ゴリラ』 「ラッパ」 『パン』 「!?」 『・・・』 「ンジャメナ」 『!?』 「・・・」 『ナン』 「!?」 『・・・』 「んだんだ」 『!!』

『ピサの斜塔、斜め45度事件』 短編小説

「ここで速報です。あのイタリアにある有名な建築物“ピサの斜塔”が、つい先ほど突然45度まで傾いてしまったようです。現場付近では入場規制が行われているようです。おっと、中継が繋がるようですので繋いでみましょう。現場の斜木さん」 『はい、現場の斜木です。私はたまたまイタリアを優雅に旅行中だったのですが、ピサの斜塔が45度まで傾いたということで、リポーター魂に火がつき、休暇そっちのけで現在中継を繋いでおります』 「まじっすか。そりゃどうもお疲れ様でございます。入場規制が行われて

友人Xの逆鱗。 (短編小説)

私には昔から仲の良い友人が一人だけいる。私にとって唯一の友人と言っても過言ではない存在である。 だが先日、そんな友人と一悶着あった。今回はその一件について書き記したいと思う。ここでは仮にその友人を「X」と呼ぶことにする。 Xはとても優しい日本の男である。言動や行動、雰囲気など全てが優しさに包まれており、怒った姿を一度も見たことがない。まさに優しさの権化のような存在である。 私は小学生の時、友人が一人もおらず少々寂しい思いを抱いていた。そんなときに、Xは唯一私に話しかけて

ホップ・ステップ・シャーラップ (超短編小説)

我が家の近所には、御年70ぐらいの少々近寄りがたいオーラを醸し出す、一人のおっちゃんが住んでいる。おっちゃんとは特別何か話したことはないが、たまにすれ違ったりすると軽く挨拶したりする感じの関係である。 そのおっちゃんが、たまに唐突に私に向かって言うのである。 「ホップ・ステップ・シャーラップ!!」と。 私はこの言葉に気圧される。それはそれは本当に気圧される。そうして毎度のごとく、ガクガク震えて地に膝がついてしまいそうなこの貧弱な足で、なんとかその場に立ち続けるのである。

“有料”の肩たたき券 (超短編小説)

最近、肩こりがひどい。パソコンを毎日使っているからだろうか。両肩が共にゴリゴリに凝り固まっていらっしゃる。 こりゃ参った。ため息が漏れる。誰かに肩たたきでもしてもらいたいところだが、あいにく幼稚園児の息子は最近、数独に夢中である。 今日もリビングのテーブルの上で、必死に数独と格闘している。その姿は真剣そのものである。 そんなある日、息子からもらった物。それは“有料”の肩たたき券であった。息子は何も言わず、スッと私の前にそれを差し出し、足早に去って行った。 「有料、か…