コーヒー屋さんが挑んだ「映画館CM自主制作」プロジェクトの裏側を振り返ってみる
こんにちは。Kurasu CFOの杉浦です。突然ですが、みなさんは映画がお好きですか? 私は大好きです。特にクリストファー・ノーラン監督やドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のファンで、新作が出ると公開日に観に行きます。
Kurasuの本拠地・京都で、街の中心部にある映画館といえば、新京極商店街にある「MOVIX京都」です。そのMOVIX京都で今、Kurasuの新しいコーヒースタンド「2050 Coffee」の「映画館CM」が流れているのをご存知ですか?
実はこのCM、広告会社に作っていただいたのではなく、Kurasuメンバーによる完全自主制作で作り上げました。さらに、CM制作未経験のチームにもかかわらず思い立ってから1ヶ月で完成というスピード制作でした。
そんなCM制作プロジェクトについて、マネージャーをさせてもらった立場から振り返り記事を書いてみようと思います。
11月17日|映画館CMを作ろうと思い立つ
Kurasuの新店舗「2050 Coffee」がプレオープンした直後のこと。その日もMOVIX京都に訪れていた私は、映画本編の前に様々な企業のCMが流れるのを見ながら、ふと思いました。
「ここでKurasuのCMも流せるのでは?」
MOVIX京都は「2050 Coffee」のすぐ近くにある映画館です。ここで映画を見たあと2050 Coffeeで一息つきながら、作品の余韻に浸ったり、感想を語り合ったりしてもらえたなら、とても素敵だと思ったのです。
そこで帰宅後、まずはMOVIX京都の運営者である松竹マルチプレックスシアターズさんにお問い合わせをしてみました。
11月21日|広告代理店さんと初回打ち合わせ
問い合わせ後すぐに、MOVIX京都での広告を担当している代理店のサンライズさんからお返事をいただき、数日後に打ち合わせをおこないました。
このときMOVIX京都の来館者データを見せていただいたところ、若いお客様が思ったよりたくさん映画を観に来ていることがわかりました。2050 Coffeeもどちらかというと若い方向けに店舗を設計しています。「広告効果はありそう、チャレンジする意味はありそうだ」と感じました。
しかし、私にはCM制作はおろか、動画をつくった経験もありません。何から始めればいいのか、どうやって進めるべきなのか、全くわからない状態でした。
11月24日|YouTubeチームに相談、プロジェクト始動
数日後、KurasuのYouTubeチャンネルの運営会議がありました。そこでひとまず運営担当の中川さんに相談してみたところ、お返事はこうでした。
「映画館CM、おもしろそうですね! とりあえず橋本さんに相談してみましょう!」
橋本さんは、KurasuでYouTube動画の編集をしてくれているメンバーであると同時に、映画「リバー、流れないでよ」などで知られる劇団「ヨーロッパ企画」でも助監督や撮影・編集として活躍されています。
橋本さんがディレクターを務めるドキュメントバラエティ「ヨーロッパ企画の暗い旅」は、私も以前から知っていて好きな番組。CMの制作はやったことがないそうですが、橋本さんなら絶対良いものを作ってくださるという確信がありました。
そこで橋本さんにお声掛けしたところ、ふだん動画や写真の撮影を担当しているAiさんも協力してくださることになりました。CM制作チーム、発足の瞬間です。
ここでプロジェクトマネージャーとして、以下の内容を共有しました。
目的は「2050 Coffee」の認知向上
動画の尺は15秒間
ターゲットは若い方々
それに加えて、自分が大切にしたいポイントとして、次の3点を伝えました。
映画を観に来た人のわくわくした気持ちに寄り添う作品でありたい。
若い人に「2050 Coffeeはあなたのためのお店だよ」と伝えたい。
近未来的な店舗デザインの根幹にある2050 Coffeeのコンセプトを伝えたい。
11月30日|コンテ案作成、制作方針決定
なんとアサインから1週間足らずで、橋本さんからコンテ案が上がってきました。そこで制作チームでオフィスに集まり、コンテの読み合わせをしました。
「この橋本さんのコンテをふくらませていこう」
こうして制作の方針が定まったことでキャスティングの目処も立ち、具体的なタスクを組んでプロジェクトを進めるフェーズへと突入しました。
私は動画制作について何の経験もありません。したがって今回のプロジェクトマネジメントは、「完成から逆算するといつまでに何が必要か」を動画作成のプロであるメンバーに聞くことから始まりました。
教えてもらったタスクをNotionで整理してガントチャートで見てみると、スケジュール的にかなりタイトではあるものの、タスクどうしの依存はそれほど多くない。チーム全員で頑張れば、年内の映画館繁忙期のオンエアーに間に合いそうでした。
12月3日|撮影許可取り、ご挨拶
CM制作や動画撮影の経験がない自分にとって、とりわけ想定外だったタスクが「撮影の許可取り・近隣挨拶」です。商店街のほかのお店やMOVIX京都の建物が映り込んでしまうので、撮影の許可をお願いする必要があるのです。
そこでまず、新京極商店街の事務局に電話して撮影許可のお願いをしました。また撮影日にもご迷惑をおかけすることになるので、手土産を持って近隣のお店にご挨拶に伺いました(こういうとき、自信を持って自社のコーヒーギフトをお持ちできるのは嬉しいですね)。
最初はご快諾いただけるかどうか不安だったのですが、予想以上にスムーズにお話が進みました。京都という土地柄テレビ取材に慣れておられるのかもしれませんが、2050 Coffeeの店舗づくりのプロセスで良い関係を築いてこれた証かもしれない、と嬉しくなりました。
そもそも新京極の商店街には若いお店も多く、ウェルカムな雰囲気に溢れているのです。ご近所の古着屋さん「Dipton」のオーナーさんも「一緒に盛り上げていきましょう!」と言ってくださって、とても励みになりました。
12月7日|撮影テスト、台本のブラッシュアップ
ここで「ひとまず現地で撮ってみよう」と撮影テストを行いました。
そして、その日のうちに橋本さんが編集してくださったプロトタイプ映像をチームで見てみました。すると……なんだか「忙しい」感じがするのです。
お店のコンセプト、1階だけでなく2階の空間も素敵であること、タップでコーヒーを入れる体験の面白さ。2050 Coffeeについて私たちが伝えたいことは、山ほどあります。
しかし、それらを全部伝えようとしすぎると、かえって何も伝わらない。一番大切なことを伝えるためには、それ以外のことを思い切って捨てなければなりません。
3日後の本番撮影までに、徹底的に台本を削ぎ落としていく必要がありました。今振り返るとこのプロセスが、今回のプロジェクトにおける一番の難関だったと思います。
12月8日|字幕・ナレーション原稿の執筆
台本のブラッシュアップと並行して、字幕やナレーションも作っていきました。2050 Coffeeの「体験」を伝える材料が「映像」だとすれば、「言葉」は「コンセプト」を伝えるものだと思います。だからこそ「言葉」の部分は、Kurasu代表のYozoさんに自ら書いてもらうことにしました。
そして原稿があがってきたのが12月8日、本番撮影の2日前のことでした。そこから撮影当日までにチームで集まって議論する時間がどうしてもとれませんでした。そこで各々が原稿を読み込み、Yozoさんの言葉をどう活かすかは、撮影直前のミーティングで決めることになりました。
12月10日 15:00|本番撮影直前ミーティング
本番撮影の日。スタッフの集合時刻は17:30だったのですが、まだ絵コンテも確定できていなかった私たち制作チームはその2時間半前に集まり、最終ミーティングをすることにしました。
撮影開始まであと数時間、ここで必ず決めないといけないのは「一番伝えたいことを伝えるために、どこを捨てるか」でした。この難しい状況を打開してくれたのは、Yozoさんのコピー案です。
特に「知ってます?」という冒頭の一言は、自分が2050 Coffeeの店舗に立ったときの感覚を思い出させてくれました。目を引く店舗デザインだからか、多くの人がお店の前で立ち止まってくださるのですが、外から見るだけで店内に入ってきてくれない方もけっこういらっしゃいます。
でも、そこで店内に入ってくださったお客さんは、2050 Coffeeでの体験をめいっぱい楽しんでくださいました。ドキドキしながらタップを操作して、その様子をInstagramのストーリーズに上げて、スタンドでコーヒーを飲んで「おいしい!」と笑顔になって……
ちょっと勇気を出して店内に一歩入ってくれたら、こんな楽しさ、おいしさがある。それをまずは知ってもらいたい。そう感じていたことを、Yozoさんの「知ってます?」で思い出したのです。
そんな話をしながら、コピーと映像をどう合わせていくかという視点で議論していくと、みるみるうちに完成形が見えてきました。
「『知ってますか?』っていう問いは導入としていいね」
「そこに『これ何のお店なんだろう?』みたいな表情のカットも重ねたらよさそう」
「まずお店に入ってきてもらうことが大事だから、2階の映像は捨てよう」
「見せる『体験』も、思い切ってタップだけに絞ったほうがいいのでは?」
こうして無事に最終コンテが固まり、2時間半を予定していたミーティングを1時間で終わらせることができたのです。
12月10日 17:30|本番撮影
そして、ついに始まった本番撮影。あとで編集してみて「うまくハマらなかった……」がないように、同じシーンを何カットも、何パターンも、限られた時間の中で試行錯誤しながら撮り進めていきます。
そんな様子をドキドキしながら眺めていましたが、途中、マリカさんがコーヒーを飲んでいるシーンがチェック用モニターに上がってきたのを見たとき、「よし! これはうまくいった!」と心の中でガッツポーズしました。
正直この瞬間まで、プロジェクトがどうなることか、ずっと不安でした。これまでに一度も経験したことのないことをやっているわけで、自分の目に見えていないことがたくさんある。そういった「無知」が思わぬ失敗を招くかもしれない、と。
でも同時に「なにか問題が起こったら、自分ができることはなんでも全てやろう」と思えていて、その根幹にはチームへの信頼感があったのだと思います。実際、撮影当日はレフ板を持っていましたし、本当になんでもやりました。笑
12月12日〜13日|ナレーション吹き込み、編集とブラッシュアップ
無事に本番撮影が終わりましたが、まだ制作は続きます。ここからは、撮影した映像を編集するフェーズです。
カットの選択やつなぎ方を少し変えるだけで、映像全体の印象が大きく変わってきます。それに合わせてBGMやナレーションの当て方も工夫する必要があります。
ナレーションの吹き込みは、Yozoさんと、大学時代にナレーション経験のあるAdam(Kurasuの海外事業戦略部に所属、元CAMEL BACKバリスタ)にお願いしました。京都という土地柄、MOVIXには外国人のお客様も多く来館されます。そんな方々にもメッセージを伝えたくて、英語ネイティブの二人(Yozoさんはニューヨーク育ち、Adamはロサンゼルス生まれ)に、英語でナレーションしてもらうことになったわけです。
しかし、そのナレーションの内容が決まるまでにも、紆余曲折ありました。
というのも、日本語の字幕テキストを英語に翻訳してナレーションにしようとしたのですが、映像と合わせるとどうにも違和感が残るのです。
そこで、まずは英語のナレーションテキストをAdamとYozoさんで修正し、それをもう一度日本語に翻訳して、最終的な字幕テキストを作り直すことにしました。
細かいニュアンスまで最後まで全員でこだわりきって、最高のアウトプットを目指す。そんな締切直前の2日間でした。
12月14日|ついに完成、公開決定!
そして迎えた12月14日。ついにみんなの納得できる映像が完成しました。
ここで広告代理店のサンライズさんに正式に広告出稿を申し込み、映像を提出しました。実は申し込み締切が12月15日で、本当にギリギリでした。
そして無事、サンライズさんから「OK」の連絡をもらいました。公開が決まった瞬間です。
12月29日|祝・ON AIR
そして12月29日、自分たちで作り上げたCMが公開を迎えました。私も、MOVIX京都に観に行きました。CMを観るために映画館に行ったのは初めてです。
実際に観てみて、たった15秒の映像の中に2050 Coffeeの魅力が詰まっていると感じました。店に入ったときと店を出るときとで、何かがちょっと変わっている。その楽しさ、おもしろさをうまく表現できたと思います。
そしてこの15秒間には、Kurasuという組織の魅力も詰まっています。自主制作すると決めてよかったと、心から思いました。
今回のプロジェクトが成功したのは、Kurasuの社内にいろいろな経験とスキルを持つ人が存在し、さらにKurasuメンバーの周囲の方々が制作に協力してくださったからです。今回はCM制作でしたが、ほかのプロジェクトだったとしても、誰かが知見を持ち寄って成功まで持っていけたんじゃないでしょうか。
コーヒー屋さんって、すごいです。「コーヒー」というひとつのモノを介して、いろんなバックグラウンドを持つ人が自然につながっている。会社の中だけでなく、お店に集まる人、その周囲の人々も含めた「Kurasuコミュニティ」が形成されている。今回の制作は、そのことを実感できる良い機会となりました。
2050 CoffeeのCMは6月末まで上映予定。ぜひ観に来てください!
今回つくったCMは、6月末までMOVIX京都の全作品で流れています。ぜひ映画館に足を運んで、チェックしてみてください。もしかしたら私も館内にいるかもしれません(よくレイトショーの端っこにいます)。
そしてよろしければ、映画をみたあと「2050 Coffee」にも遊びに来てくださいね!
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