【映画メモ】『丘の上の本屋さん』 (IL DIRITTO ALLA FELICITA)
『丘の上の本屋さん』観てきました。
穏やかな映画でした。
老人と少年の交流がメインではありますが、2人の間に長時間のやり取りはなく、また両者の家庭環境や背景が描写され、ストーリーに絡むというようなドラマチックな展開もありません。
場面は古本屋、隣のカフェ、近くの公園、ほぼこの3カ所で撮影されていて、古本屋で起こる穏やかな日々の描写がずっと続きます。
そこにアクセントを添えるように変な人たち(なかには胡散臭い人も)が登場して、その人たちとの交流が描かれることで、いろんなストーリー軸や時間軸が交差して物語を引っ張っていきます。
◆古い本が並ぶ落ち着いた空間
何がいいって、まずはあの本屋さんの雰囲気がいいです。
本屋にたどり着くまでに映し出される”イタリアの最も美しい村”と称される風景も素晴らしいですが、リベロの古書店の、あの狭いけれど本で埋め尽くされた空間を見るだけで心が落ち着きます。
きれいに分類された古書で埋められた両サイドの本棚。
奥のテーブルにいつも座って古書や日記を丁寧にめくっていくリベロ。
リベロが本を読むときに鳴らすオルゴールや、灯されるテーブルスタンドも温かい雰囲気を醸し出しています。
ここを訪れる人を拒まない、心のよりどころになるような空間です。
古書の詰まったこの空間はどんな匂いがするんだろうと思ってしまいました。
◆やり取りの中に見える、リベロの本に対する知識
変な登場人物が多いのですが、癖のある彼らとのやり取りの端々から、リベロの古書店主としての博識と、彼らの求めているものを察知する洞察力が見え隠れします。
本好きの者にしか伝わらない本への思い。初版本、発禁本、思想書に対する知識。お客さんとのお互いに通じあう部分を見つけて思いを共有するやり取りが、どれも愛おしく、そのときの彼らの表情は、それを観ている側も幸せにします。
◆少年へ伝えたいことを本を通して伝えていく
本を読むということはどういうことか。
本は何を私たちに伝えているのか。
本を読んで、他者とその本について話をし、考えや思いを共有していくことがどんなに楽しく、かけがえのない宝物のような経験となるか。
それをリベロは教えてくれます。
◆IL DIRITTO ALLA FELICITA
この映画のイタリア語のタイトルです。
IL DIRITTO ALLA FELICITA
イタリア語で「幸福への権利」(Google翻訳)
様々な本と、ものの見方や考え方を少年に伝えていくリベロ。
最後はこの映画のテーマが、この言葉へと集約されていくのがわかります。
幸福への権利とは何か。最後に深く考えさせられます。
人間が長年かけて積み重ねつないできた知識と、獲得してきた権利。それをどのように次につないでいくのか。
映画を見て後は、パンフレットを読み、この作品のテーマについて考えさせられました。
◆リベロがすすめる本たち
え、こんな難しい本も?と思ってしまうリストです。
これで、すべてではありません。最後にとても大事な本が出てきます。
それはぜひ、皆さんで自身で映画を見て確認してください。
観終わった後の幸福感、満足感、充足感。
ふと立ち止まって自分自身を見つめたいときや、ほっと一息つきたいとき、見てほしいなと思える作品でした。
そして、映画を観終わった後は、ものすごい読書欲に駆られました。
さっそく本を味わって、そして誰かと感想を共有したいな。
そう思わされる映画でした。
『丘の上の本屋さん』IL DIRITTO ALLA FELICITA
2021年製作/84分/イタリア
映画『丘の上の本屋さん』オフィシャルサイトより予告編
映画を観た場所:沖縄市「シアタードーナツ・オキナワ」