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【実践報告】日本語教育者向けの勉強会:業務ヒアリング<後編>

こちらの続きです。書いているうちに超大作となってしまいました。


勉強会開催の背景

2022年に参加した文化庁の研修は、就労者(日本で働く外国籍の人)向けの日本語教育、についてでした。日本語の一般的な教え方はわかっている前提で、企業に対して適切にニーズ分析してコース全体をデザイン、そして教育実施するまでを含む、包括的なものでした。就労ビザの種類、異文化理解、職能別の日本語教育、業界の課題など、新しい情報満載で講師陣も豪華。主催者側の気迫を感じる研修でした。

3ヶ月に渡って学んだものを一過性で終わらせるのはもったいないということで、私の前の年度、さらにその前の年度の研修卒業生が勉強会を組成。その企画グループに、私も加わらせていただくことになりました。大変そうだなと思いつつ、手を挙げて企画側に参加して正解でした。

2023年度は、外国人従業員向けの日本語教育におけるステークホルダー(企業、外国人、日本語教育機関など、利害関係者)の立場・ニーズについて理解を深める目的で、7月には企業内で日本語教育を担当する会員による講座&ワーク、その続きの実践を12月に行うことになりました。企画チーム内で喧々諤々の議論を経た結果、7月のワークの1つとして行った「企業への業務ヒアリングの洗い出し」の続きとして、「業務ヒアリングの実践」を行うことになりました。

勉強会の企画内容

7月の勉強会で、各チームが企業に確認すべき質問項目を洗い出すワークをやったのですが、時間もなかったので仕方がない部分もありつつも、項目一覧を見渡すとムラや抜け漏れがあるように感じました。参加者にとっても「結局、何が正解だったのか」がわからないままとなっていました。

私が業務改善の目的で企業に業務ヒアリングする際、準備は少なくとも2時間ぐらいはかけます。ニュースなどでその業界・企業の動向を調べ、企業のホームページで企業概要(組織図など)、事業内容、IR、採用ページ(新卒向けの業務説明、社員インタビュー、中途採用の業務内容、ほか)をくまなく読み、業務知識・技術知識を調べるなどして、調査対象の部署の業務内容や、課題などにおよそのあたりをつけます。

・・・といったことは、勉強会の2時間内ではいきなり難しいし、調査というちょっと瞑想的と言えなくもない作業は、研修の場でのグループワークよりは、個人作業が向いています。そこで、勉強会を2つに分け、
1. 勉強会の事前に個人ワークとして行う「業務ヒアリング項目の洗い出し」
2. 当日にグループで行う「業務ヒアリングの実践練習」
という画期的な方法で行うことになりました。

本物の企業担当者さんをお呼びしてヒアリング実践するのが理想だったのですが、任意の勉強グループで予算がないため謝礼を出せず、下手かもしれないヒアリング担当者に対する練習相手になっていただくメリットもご提供できず。そこで、企画グループで企業役を担い、参加者にロープレ練習の場を提供する、ということにしました。

仮想企業の設定

企業役を演じるからには、その設定を作り込んで、企業役全員で共有しておく必要があります。いろいろな可能性が考えられる中で、企画グループのメンバーが実体験を持って語れる、「技能実習生を抱える町工場」と「大量のエンジニアを抱えるIT企業」の2つを作り込みました。これは、私ではなく他のメンバーが中心になって考えてくれました。

製造業の現場には造詣が深くないのですが、わたしの父は現役のころ、神奈川県内にある社員数名の零細企業でステンレス製品の溶接工をしており、中国人社員と一緒に働いていたという話を、ふと思い出しました。あの頃は、日本語教師ものの存在が、頭をかすめることすらありませんでしたが・・・。

業務ヒアリング項目の洗い出し

「聞きたいこと・知りたいこと」をただ洗い出そうとすると、とめどなく細かい質問が出てきます。企業がその数十(下手したら100を超える)項目を順番に聞かれたら、企業側は途中で嫌になること間違いありません。
そこで、目標から逆算したバックワードデザインで、的を絞ります。

  • そもそもヒアリングの目的を設定
    (その企業向けの、日本語教育のカリキュラム提案と見積)

  • 提案と見積に必要な情報は一体何か特定

  • その中で、企業に聞かないと得られない情報は何か
    (一般的な情報やホームページに掲載されている情報は、あえて時間を割いて聞く必要はない。というか、聞いたらめんどくさがられる。)

この取り組みにチャレンジしたい有志を募り、上記のような内容をミニ講座で説明して、仮想企業のどちらか1つを選んで取り組んでいただきました。

結果、私には思いつかなかった視点からの質問や、聞いておかねばあとで現場が困るであろう質問などが提出され、私にとっても気づきが大きいものとなりました。

この事前活動、準備もフォローも結構手間がかかりましたが、私は総じて「楽しかった」のです。自分のノウハウを、要点を絞って噛み砕いた説明に落とし込み、ゆっくりはっきりと伝え、結果「わかりやすかった」「これ無料で受けられるなんて信じられない」と言っていただいたときは、正直とてもうれしかったです。コンサル界隈では当たり前すぎて話題にもならないことが、場所を変えると付加価値の高いナレッジになり得ることも実感できました。

業務ヒアリングの実践練習

勉強会当日のミニ講座も、担当させていただくことになりました。
ちょうど2022年末、同業者のコンサル仲間向けに、業務ヒアリングのノウハウをまとめる機会があったのですが、そのときは事前準備、当日の留意点、成果物のまとめ方、報告の仕方、もろもろを詳細に書き下ろして、A4で3ページぐらいの細かい説明になりました。

しかし今回は、わずか2時間の勉強会のうち、講座にかけられる時間は10-15分程度。そこで、説明・実践練習する要点をたった一つに絞ることにしました。

『企業(担当者)の立場・気持ちを配慮しながら、会話のキャッチボールをする』

前編でも書いた通り、日本語教師が日本語を駆使するコミュニケーションの達人とは限りません。コミュニケーションの部分に光を当てて、ちゃんと会話のキャッチボールをして関係構築しながら、的確な質問を投げかけて情報収集しよう、ということだけを、意識してもらうことにしました。いきなりうまくできなくてもいいので、少なくとも、企業に嫌がられるヒアリング(=職務質問のような一問一答、散発的なQ&A大会、など)を避けることができたら・・・という願いをこめたのでした。

ヒアリング実践(ロープレ)の実施要領を説明後、グループで30分間練習、30分間ロープレ、という構成でやりました。本当はもっと準備時間があると良かったのですが・・・それでも、終わった瞬間、参加者も企画メンバーも充実感を得ることができました。

参加者からのフィードバック

想定範囲内とはいえ、準備時間が足りなかったという声があり、これは大きな反省点となりました。一方で、企業の立場で考える機会がないのでよかった、今後は本物の企業相手にやってみたい、という意欲的な声もいただきました。講座については、ポイントがわかりやすいという感想も頂戴しました。

そして意外だったのは、ヒアリング項目一覧、これ自体が成果物として価値があるのではないかという、勉強会のオブザーバーとして出席してくださった先生方からのフィードバックでした。そうなのか。。。。

自身の感想

企画グループのみなさんとチームワークでやり遂げた、という達成感が久しぶりに爽快でした。ふだんは一匹狼タイプの自分ですが、チームワークの楽しさも非常にいいものです。
また、個人としては「ノウハウを、極限まで絞り込んでわかりやすく伝えて、実践まで落とし込む」ことを意識して資料作成およびプレゼンテーションを行なったのですが、それが一定のレベルでできたのではないかという、自信になりました。準備中はかなりパワーを割きましたが、嫌だなと思うこともなく、ただただ楽しかった。自分の事業の中で、今後もこういった取り組みをやっていきたいなとも思いました。学習者に日本語を教えるだけでなく、日本語教師が新たな武器を持つお手伝いをするのも、悪くないなと。

結論

  • 日本語教師は、日本語を教えるだけでなく、日本語教育にまつわる問題発見・解決者となることが求められている

  • ある場所では当たり前のことでも、場所を変えると価値になることがある

大変長文となりましたが、お読みいただきありがとうございました。


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