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『よみがえる変態』星野源の楽しい地獄だより。エロ、仕事、くも膜下出血で倒れた話まで収録されたエッセイ集

正直、「星野源」のことどう思いますか?

好き嫌いが、バンッとわかれる気がする。好きな人はとことん好きだし、苦手な人はとことん苦手。お茶の間に浸透した有名人にしては「好きでも嫌いでもない層」の割合が少ない人ではないかと、個人的には思います。

そんな星野源さん、歌手・俳優として注目され始めた頃に、くも膜下出血で倒れて休業されていたことをご存じでしょうか。

『よみがえる変態』は、当時、星野源さんが女性誌で連載を持っていたエッセイ集。日常の、クスっとくる脱力系の話から、当時の闘病の話まで。ジェットコースターのようなふり幅で、エッセイとして読み応え十分です。ファン以外の方もぜひ。


「おっぱい」についての、いくつかの考察


さて、闘病についてのエッセイが収録されているのであれば、さぞかし神妙な雰囲気漂う内容なのだろう、と思ったら大間違い。1本目のエッセイのタイトルは「おっぱい」です。

「おっぱい」はすごい、辛いときに「おっぱい揉みたい」とつぶやくと、幸せな気持ちになるとか、そんな話。もちろん、全編こんな感じではないけれども、好んで鑑賞するAVのジャンルを挙げて、真面目に「エロ」を考える回もある。

とりあえず、抱えていた悩みがばからしくなるだけの、やさしさにあふれたエッセイが詰め込まれていることは保証します。本人も、ゆるーく読んでねって言ってるし。

冒頭からこんな調子なのは、日々こんなことばかりつらつらと考えている自分というものの解放であり、今後このくらいの適当さで行きますよという宣言でもあり、あまり堅苦しく読まないでねというエクスキューズでもあり、何より、誰か親切な女性が「揉んでもいいわよ」と言ってきてくれないかという淡い期待を寄せているからに他ならない。


ふとした瞬間の、人間の本音を切り取った1冊


ここまで下ネタばかりで、苦手な人は失礼しました。いまさらですが。

今回なぜこの本を紹介したかというと、人生の絶妙なバランスが、素敵だと思ったから。脱力と真剣のあいだの本音、とでも言おうか。

私事で恐縮ですが、以前ある病気になって。わたしの人生、20代で終わるんだなって、病院のベットの上で思ったことがありました。

病人というのは面倒な生き物で(わたしだけかもしれませんが)、寄り添われ過ぎても感傷的になりすぎるし、あえて明るく接してくれる優しさも、ひねくれた気持ちで受け取ってしまったりする。

そんなとき、淡々と日常をさらけ出したこのエッセイは、とても効いた。

底抜けの絶望の中でも、「あの人かっこいいな」とか、呑気なことを考える自分もいる。そんな、人間の喜怒哀楽を的確にとらえているところが、素晴らしい。

あんなに悩んでいたのに「そうそう、人生ってこんな感じ」って、自分を客観的に、ゆるーく捉えられた。

入院中、なんども救われた本です。最近また読み返してみたら、やっぱり楽しい。今つらい人、今夜の不安のお供にぜひ。


余談ですが、新書版のタイトルでは「よみがえる」が「蘇える」だったのに、変えたのはなんでだろ。当時、「送り仮名違くね?」論争が起きていたが、オマージュで、あえてそうしている説が強かったのに。伝わりにくかったから?知っている方がいたら、教えてください。


■『よみがえる変態』の次はコレ
『人生は七転び八起き』――お笑い芸人ナイツの師匠、内海桂子の言葉たちをまとめた、背筋の伸びる1冊
『レンタルなんもしない人のもっとなんもしなかった話』――NEWS増田貴久でドラマ化!Twitterで話題のレンタルさんが出会った人々の記録
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