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鰹節の営業してたら突然変身して魔法少女に

「あなた本当に玲子!ずいぶん変わったわね」
 彩花はショッピングセンターで声をかけられ、久しぶりに出会った玲子を見て驚いた。「そう? 私そんなに変わったかなあ」
 二十歳を遠に越えているのに、化粧っ気が全くない。それにダサい服ばかり着ていた根暗な玲子が、見違えるようにおしゃれなな恰好をしていた。バッチリとメイクをして、キュートな黄色のワンピース姿。さらに髪や胸元、指にいろんなアクセサリーをかわいらしく身に着けている。

「一体どうしたの?声も前と比べてセクシーになっているし。すごい変身ぶり。彼氏でもできた」「ううん、彼はまだいない。でもあるときに、タロット占いしてもらったのがきっかけかな。おしゃれが急にしたくなって」と、にこやかに答える玲子。
「あ、そう、でも。久しぶりに会ったのにゴメン。本当はそこのカフェでコーヒーでもと思ったけど、今仕事の最中なの。これから別のデパートにまわらないといけないから」
「彩花わかった。お仕事頑張って。じゃあいつでも彩花と連絡取れるようにLINEを教えてくれる」
 彩花は言われるままに玲子にLINEの連絡先を教えた。玲子と手を振って別れると、彩花はショッピングセンターの駐車場に向かう。立体駐車場の奥に車が置いてある。

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 彩花は立体駐車場に来て車の前まで歩く。
「あの玲子がねぇ。あそこまで変身していながら、彼氏の影響じゃないって何なのよ。本当は私にも変身願望があるんだけどね。アラサー世代になって彼氏もいない。大手の鰹節製造会社の営業だから、とりあえず安定しているけど、なんか平凡ね」
 彩花の左手には紙袋がある。この日は担当エリアのデパートやショッピングセンターを巡回。鰹節の記念日を利用して、大々的なキャンペーンを実施しているのだ。
「今日11月24日が『いいふし』で鰹節の日だなんて笑っちゃうわね。でも最近忙しいし、どんどん日だけが過ぎていく。こう夢のような晴れやかな日って最近ほんとないわ」彩花は鰹節と資料が入った紙袋に視線を置き、ため息をつく。

「例えばさ、子供のときには魔法少女とか、魔法が使えるとか変身できることに憧れちゃったもの。なのに大人になったら現実がどんどん迫って夢がないわ」と、肩まで伸びた髪をかき上げる。
 彩花は赤い自分の車の前に来た。社用の小型車だがお気に入りである。鍵を開けて運転席のドアを開けると、紙袋を助手席に放り投げて、いつもどおりにそのまま乗り込む。

「変身願望があるのか」突然声が聞こえたが、彩花は気のせいとばかりに無視。数秒後、少し大きな声で「変身願望があるのか!」と、エコーがかかった声で、話しかけるものがいる。

「誰?」彩花は車の外に身を乗り出して振り返ったが、誰もいない。首をかしげて運転席に座りドアを閉める。「名乗るほどのものではない」とまた声がした。
 恐る恐る声のするほうに見ると、助手席に黒い影がある。

「え、キャー」彩花は幽霊がでたと思い、大声を出す。逃げようとドアに手をかけるが開かない。そればかりか突然シートベルトが動き出し、勝手に彩花に取り付いた。「ち、ちょっと!」彩花はベルトを必死に外そうとするがそれも取れない。

「慌てる気持ちがわかる。だが落ち着け」「お、おちつけって。な、何!お化け?」
「違う」「じゃあ幽霊」「違う」「じゃあ何者!」黒い影はゆらゆらと動きながら会話を続ける。
「名乗るほどのものではない。早速だが本題に入る。いまからお前を変身させてあげよう」
「え?変身、何に」「魔法少女にだ」
「はあ。ちょっと待って!ばかばかしいこと言わないで。私は子供じゃないの。今仕事の最中よ。悪いけど魔法少女に興味ないから、他当たってくれる」

「そう言うわけにはいかない。変身願望があるとさっき聞いた」「なに、さっきの私の話を聞いてたの。あれ冗談よ!」
「冗談では済まない。行くぞ」「え!」
助手席にいた黒い影は、突然彩花の目の前に来た。
「え、何一体!」震えるように恐れる彩花。しかしシートベルトもドアも開かない。黒い影は突然彩花に突進してくると、先端が二本に分かれて細くなり、彩花の鼻の中に入っていく「え、ちょっと、ああああぁ!」彩花は頭が混乱する。体が震えてくる。黒い影がどんどん鼻の中に吸い込まれていく。

「あああ、ううう」彩花は大声をあげて首を左右に振って抵抗するが、黒い影は全く気にせずに彩花の中に入っていく。そしてすべての影が鼻の中に入ると、彩花の意識が徐々に遠のいていく。「た、助けて、だ、だれ」
 彩花は意識がもうろうとなり、なおも必死で声を上げようとするが、もう声が出ない。やがて視界が暗くなり意識を失った。

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「あれ、私?一体どうしたのかしら」彩花が目を開けると、自分の車の中にいる。しかしどうも様子がおかしい。
「目が覚めたか、魔法少女」彩花の耳元からする声は、先ほどの黒い影と同じもの。

「え、誰?」「私はお前の頭の中にいる。お前は魔法少女に変身した」
「どういうこと」彩花は意味が分からず頭の中が混乱している。精神的な病にでもかかったのか?それとも夢の中?」
 彩花は自分のほっぺたを、思いっきり叩いたり捻ったりしたが痛い。

「まあ落ち着け、助手席に置いてある鏡を見ろ」頭の中の声に言われ、彩花は助手席に置いている見慣れない手鏡を見つけた。
 それで顔を見る「あれ、これって」彩花は顔を見て驚いた。それは高校生の頃の顔であった。そして 髪型はツインテールでピンクのリボンで結ばれている。口紅で塗られた唇も耳につけてい丸いイヤリングも同じピンク色だ。
「え、何これ?え」次にに鏡を下にして見ると、これもまたピンクの服を着ていてボディーラインがわかるようになっている。そして服のあちらこちらに何かきらきら光るものがちりばめられていた。
「これってまさか!」
今度は鏡ではなく顔を下に向ける。

 服はワンピースのようだ。しかしスカートの部分はやけに広がっていて、ヒラヒラしたものがついている。下は白いタイツを履いてピンクのヒールを履いていた。
「これって高一の文化祭で... ...」

 彩花は思い出した。この格好は高校一年の文化祭の際のクラスでの出し物である。クラスごとに演劇を披露することになっていて、彩花のクラスは魔法少女が出る内容。このとき彩花は主人公の魔法少女役に抜擢される。そのときにみんなで作った衣装そっくりなのだ。

「と言うことは」彩花は手を見ると、白い手袋をしている。右手には大きな赤い宝石が付いた指輪、左手には金色で中央に赤い突起物とその周りには青い宝石がちりばめられたブレスレッドがはめられていた。

「文化祭のときはプラスチックだったけど。これって本物っぽいわね。で、なにこれ、え!私コスプレしているの?」
「コスプレではない。お前は本物の魔法少女になったんだ。早速だが今から敵と戦いに行くぞ」
「え、敵って何? あの私、武術とかしたことないし、魔法少女って言われても魔法全然知らないんだけど。で、どこに行くの」

「心配はいらない。今から説明する。犯罪都市ツルンに行くぞ」「ツルン?」「お前の車も改造し魔法少女仕様になっている。これでツルンまで簡単に行けるんだ。お前はいつも通りに運転しろ」

「はあ、と言うか、私何で戦わないといけないの?あの、仕事中なんだけど」「つべこべは言わない。行くぞ」というと、勝手に車のエンジンがかかる。そして彩花が何もしなくても勝手にゆっくりと動き出した。
「ちょっと何、彩花は慌ててハンドルを持つ。ブレーキは聞かない」
「もうわかんないけど、なるようになれ!」
 諦めた彩花は、ピンクのヒールをアクセルに乗せて押すと、勢いよく車が走り出す。

 ショッピングセンターの立体駐車場を出ると、すぐ目の前の道を車は道路を走りだす。速度はいつもよりも明らかに早く、風景の動きが違う。
「ちょっと早すぎ」彩花はブレーキを押すがやはり反応しない。やがて目の前にビルが見える「危ない」ハンドルを回そうとするがハンドルが動かない。
「心配ない、そのままあのビルに突っ込め」「はあ、殺す気!」車はビルにめがけて突っ込む。彩花は目をつぶり身をかがめた。しかし衝撃がない。
「あれ、何?」彩花が顔を上げると、目の前には見たこともない、抽象的で幾何学なデザインが施されたような不思議な風景の中を走っている。

「魔法少女よ。心配するな。ビルにぶつかる直前に異次元トンネルが開いた。お前は今からツルンに通じている異次元トンネルの中を走っている。物の数分で到着するだろう」

「はあ、何、異次元?ツルン? ねえ、ちょっと知らないところ行きたくない。元の世界に戻して!」
「魔法少女。そうは行かない」
彩花は舌打ちをする「わかりました。もう信じられないことの連続。私どうすることもできないから、あんたに任せたわ」
「魔法少女よ。おまえ物分かりがいいな。さすが見立てた通りだ」

「その前に、私には彩花って名前があるの。魔法少女って言うのやめてくれる」

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 異次元トンネルと言うところをしばらく走っていたが、突然視界が暗くなると、元の町に似たところのようだ。どうやら夜の道を走っているようだ。
「魔法少女・彩花、間もなく到着するぞ」「あ、はあ」彩花は何もできない。車は建物が密集したところにある駐車場に車は勝手に入り停止した。
「ここは」「ツルンの繁華街だ。よし出るぞ」
「え?なんか映画の世界みたいね。どうせ言われたとおりにやるしかないし」と彩花はここにきて少し余裕が出てくる。せっかくだからと魔法少女の設定を楽しむことにした。

 車を降りる。車の外見はいつもと同じ。彩花は駐車場を離れ外に出ていく。見た目はいつもと同じ都会。日本語っぽいが、少し違うようなにも聞こえている。夜の繁華街のネオンが輝き、ほろ酔いの客が数名歩いていた。だが誰もピンクの衣装に身を包んだ、彩花のことを気にも留めていない。

 数十メートル先を見ると、黒っぽい男三人がこっちに向いて歩いてきた。

「よし魔法少女、あの黒い奴がアークドイゾンという敵だ」
「え! アーク、敵、なにそれ」
 三人をよく見ると、全身黒づくめの男が3人いて、刀のような武器を持ってこっちに向かう。

「ちょっと、どうしたらいいの。私武器も何もないのよ」「慌てるな。まだ連中らとは距離がある。あいつらは見たところ、低レベルだ。接近してからで十分勝てる」

 男たちはしばらく徘徊するように歩いていたが、彩花の存在に気付いたようだ。立ち止まり威嚇するように前傾姿勢になる。

「やばい!気づかれた」彩花は緊張のあまり顔色が硬直した。
「大丈夫だ。俺が指示を出す。言われたとおりにすれば勝てる」「ど、どうするのよ」

「よしブレスレッドの赤い突起物を押せ」「何ブレスレッド、あ、これ」彩花は左手を見るとブレスレッドに赤い突起物がある。「これ押すのね」彩花は赤い突起物を押す。するとそこから突然鰹節の削り節みたいなものが無数にあふれ出てくる。それが一か所に固まると、長い杖が形成された。

「よしそれは魔法杖だ。それがあれば敵と戦える。その棒を右手で持ち、呪文を唱えると魔法が使えるぞ」「魔法!これ持ってどうしたらいいの」

「まず相手にこの杖を向けてシャットといえ」「え、あ、はい。あの上下は」「違いはない。どっちでも行ける」
 彩花は棒を男の前に突き刺す。真正面の男は静かに走りながらこっちに向かってくる。
「ようし、シャット!」と文化祭で演じた魔法少女のことを思い出しながら、彩花が大声を出すと、持っている棒の先から光の粒子のようなものがでてきた。「うぉ。すげえ」
 真正面の男にその粒子が当たると男は突然首を抑えて苦しみだす。その場で倒れこみ悶絶を売っていたが、やがて動かなくなり黒い液体となる。数秒後に消滅した。

「なに、ええ!、私人殺したの?」
「そう言うことだ、お、左を見ろ」
「え!」
 彩花が左を見ると別の男がすぐ目の前に来ていた。彩花に刀を向けて襲い掛かろうとしている。
「杖でつけ」「え、ちょっと助けて、ええい喰らえ!」
 彩花は恐怖のあまり大声を出しながら杖を、左の男に向けて思いっきり突く。それは男のみぞおちあたりに命中した。
 男は命中したところを抑えながら苦しみだす。先ほどの男同様に倒れこんでやがて液体化。消滅した。

「ふう、間に合った。よしあとひとりいるぞ、ん?シマッタあれは今までのふたり人とは違う。ややレベルの高い強敵だ」

「ええ、強敵。でも私これしか知らないし」
彩花は最後のひとりに杖を向けた。「シャット!」と大声で唱えると、先ほどと同じように光の粒子が飛び跳ねて男に迫った。
 男はひるんだ。だが再び立ち上がった。まだ死んでいない。

「え、聞かないよ。どうしよう」「よし、ならばクオットといえ」
「あ、はい。では、てめえなど死ね!クオット!」

 今度は杖から青い炎が出る。「うぉー青い!」彩花は驚くが、出てきな炎は火炎放射器のように前につきでていく、そして先ほどの男に直撃。
 男は炎に全身が囲まれると、苦しそうになり。よろけるように動き出すがやがて力尽きてその場に倒れこむ。そして青い炎に溶けるように黒い影が消えていく。やがて炎も消えた。「ふう、よかった」彩花は、いきなり3人を倒したこともあり、恐怖と疲れのあまりしゃがみこむ。

「お、やった。やっぱり最後の相手は初戦にしては強敵だったな。いきなりお前のレベルが2に上がったぞ。魔法少女・彩花よ、お前相当この仕事向いているんだよ」

「え、レベルが上がるって。それに仕事って?私、鰹節会社の営業だけど。ん?これってひょっとしてRPGの世界?」

「気にするな。この調子で敵をどんどん倒すぞ。魔法少女・彩花」

 こうして突然魔法少女になった彩花は、突然未知の敵・アークドイゾンと戦う日々が始まった。




こちらの企画に参加してみました。

「魔法少女」が登場する物語など普通絶対に書かないのですが、企画なので考えてみました。素敵な企画を考えてくださった。鶴城松之助さんに感謝します。

こちらもよろしくお願いします。


追記:久しぶりにトロフィーが出ました。300回のときだからご祝儀かもしれません。

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シリーズ 日々掌編短編小説 308

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